プロローグ
二人の旅の出発前夜・・・
「ついに明日か・・・・」精悍な顔つきの背の高い青年が森の切り株に座ってため息をついて言う。
青年は青く短い髪をして、灰色の独特の三角模様をした布の服を着ていた。
腰には黒いベルトをして、両足にはぼろぼろのブーツを履いていた。空高く上がった夜月を眺めているその目は、ガラスのように深く透き通っていて、月と星がその目に光り輝いている。
「でも、楽しみだよねー!まあどんな世界かまったく想像つかないのがちょっぴり不安だけどねー。あたしたちは村の外には出たことないからなあ・・・17歳にして初めての旅・・か・・」
青年が座る切り株のすぐそばの切り株に座る少女。顔は17という歳のわりに童顔で、ピンクのショートヘアに星型のピアスをしている。青年と同じような灰色の布服を着て、下には長めのスカートを履いており、両足には黒い革のブーツを履いている・・。
少女が再び口を開く。
「巡礼の旅もあたしたちの代でちょうど百回目らしいねー。これまで、どの代も三人以上が旅立っていったのに、あたしたちは初めての二人だけの代だもんね。どう?ドキドキしてたりするアイク?」
切り株から立ち上がり両腕を後ろにまわして、少女が少年にニッコリとして言う。
アイクと呼ばれた青年は
「別にお前とは幼馴染の腐れ縁だしなあ・・・さすがにドキドキはしないよ。ファンはどうなんだ?」
アイクはすこしも照れた様子もなく、少女に返す。
ファンと呼ばれた小柄の少女は
「あたしもー。ただの腐れ縁だしねー。でも楽しみではあるかな。まだ見ぬ世界を旅するのは」
そう答えて切り株に座るアイクの前に歩いてきた。そして
アイクを上から見下げる。
ファンの顔が月明かりで逆光を浴びていた。
「よろしくね相棒♪」ファンはそう再びニッコリとした顔で言うと、向こう側に振り返って、
「じゃあ明日の朝に村の東出口ね」手を上げてそう言い残すと、その場を去った。
「明日かあ・・・」
アイクもため息をひとつだけつくと、よっこらせと言ってゆっくり立ち上がり、その場を去っていった。
アイクとファンはそれぞれ自分の家に帰る。この山岳地帯の村は「アスラ村」と呼ばれていて、全部が石造りの一軒屋がばらばらに何軒か立っていた。
山岳地帯だが村の周りには森があって、川も流れていた。どの家も明かりがついている。中では大勢で騒ぐ声が聞こえていた。二人の旅路の無事を祈っての家族ぐるみの宴会だった。
アイクとファンの二人にとって、今夜がこの生まれ故郷の村の外に、生まれて初めて出る日の前日であった。こうして二人の旅は静かに始まろうとしていた・・・。




