妖精と昆虫機
とある町でとてつもなく巨大な振動と咆哮が聞こえる。
それは古代に生きていた伝説のドラゴンを連想させるような聞くものを心の芯から畏れさせ、神の如く崇めたて祀らせるほどの効果を生みそうな、そんな叫びだったが。
「醜いカエルの怪物じゃねぇ……」
その鳴き声を発していたのは、南国産を思わせるような奇抜な色合いをしたカエルに禍々しい角や牙を付け、手の指から吸盤の代わりに鋭い爪にしたような姿をしている巨大な化け物だ。
「で、どうするん?」
ヨシノが隊長に尋ねるにしてはなれなれしい言葉遣いで問う。
ヤエは緊張しながらも、それを気取られないようにはっきりと
「作戦通りに」
その言葉を聞いた二名は了解という言葉と共に散開する。
作戦自体は簡単なものだ。
隊長のヤエが囮となり化け物の注意をひいて、その間に二名の部下が吸血矢でやつの腕が届かない背中を狙って射るのだ。
「そこの醜いカエルに告ぐ。これ以上の破壊活動を止めろ!」
ヤエは拡声機のボリュームを上げ、化け物の上空を飛び回る。
カエルの化け物はヤエの方を向くと、途端に狼狽えた様な顔をする。
それはそうだろう。
カエルの方から見ればバッタを人型、いや妖精型にしたような化け物が自分のすぐ上を飛び回っているのだ。しかも大きさは自らと同じ、砦か城ぐらいなのだからなおさらだ。
しばらくカエルは動きを止め、観察する。
なぜ小娘のような声でわーわー言うだけでこちらに来ないのだ?
もしかしたら大したことはないのではないか?
ならばさっさと潰そう。
カエルはそう思い、バッタのような何かを撃ち落とすために舌を出し、狙いを付けた。
今だ!とばかりに弾丸よりも速く長い舌を上空に伸ばす。
「!?」
捕まえた。
「ヨシノ!シダレ!今よ!」
カエルの斜め後ろから二機の昆虫機、ヴァタリオンが飛翔し、吸血矢を放つ。
カエルの舌はヤエのヴァタリオンの手足とは別にある一対の脚に装着された盾によって挟まれているため思うように動けない。
矢がボウガンから放たれ、カエルの背中の中心に二本とも刺さる。
カエルは痛みを感じるのか腕を懸命に伸ばし、矢を引き抜こうとするもそこは身体の構造的に届かない場所だ。
舌を取られたまま転がりもがいてみたが、簡単には抜けない構造になっているため状況は変わらない。
仕方なくカエルは我慢しながら相手をしようとこちらを見たが、すでに二射目の準備が出来ていたため、再び痛い思いをする。
思ったよりも雑魚じゃないか。
「うちらが強すぎるだけっしょ!」
調子に乗る部下たち。
「ここからだぞ!」
カエルの化け物、通称ヴェルゼはすでに人間の国の首都を落としているのだ。
ヴェルゼはジャンプの態勢になる。どうやら身体ごとヤエにぶつけて舌を開放させたいらしい。ヨシノとシダレは三射目の準備中である。
「隊長、ガンバ♥」
はあ、とため息を出しながらヤエはジャンプのタイミングを待つ。
大風を切って巨体がヤエに迫る。
しかし巨体は空を切ったまま雲の高さまで到達すると自由落下し、吸血矢が吸い上げた血を地面に盛大にばらまきながら地面に激突……しない。
ヤエが挟んだ舌をぱっと離して避けただけだからだ。
つまりカエルがジャンプして普通に着地しただけだ。自分の血で身体と大地を汚しながら。
ヴェルゼはもう一度とばかりにヤエをにらむが、ぐらりと視界が揺れる。
「時間切れね」
4本の吸血矢によって血を出し尽くしてしまったのだ。
少し前、ヴェルゼには剣も矢も銃も大砲も効かないと言われていた。
だが、一匹のヴェルゼに試作機のヴァタリオンで挑んだ愚か者が噛み付きで傷をつけたことで、特殊な血によって恐ろしいほどの再生力を得ていたことがわかったのだ。
それからヴァタリオンは今の盾とボウガンのスタイルで量産され、吸血ができる専用の矢が開発されたわけだ。
「任務完了」
三機は帰還する。
妖精の国、第三の木所属、サクラ妖精隊駐屯地へ。
彼女達は緑色の機体にそれぞれ八重桜、染井吉野、枝垂桜のトレードマークを付けたヴァタリオンの後ろ首筋の出入口から外へ出る。
彼女達は蝶のようなサクラ色の翅、サクラ色の瞳、そして少女のような身長、見た目をしている。
彼女達は果たしてヴェルゼの侵攻から妖精の国を守ることができるのか。
「そのナレーションいつまで続けるつもり?シダレ?」
軍事記録ってやつですよ。
「先にお風呂入ってますぅ」
「隊長優先でしょ!」
やれやれ……えと、ひとまず記録終了。ポチッ。




