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#0 プロローグ
東京。路地裏。
どこの路地裏なのかは、言わないでおきます。
階段を下りた、とても目立たない場所にその喫茶店はあります。
喫茶店の名は、『TURN』。
開くのは、夜から。真っ暗な路地裏にうっすらと浮かぶワイン色の明かり。どこかBARのような雰囲気を醸し出す喫茶店ですが、お酒はメニューに全く含まれていません。
メニューにあるのは、たった3種類のコーヒーのみ。
そんな一風怪しげな喫茶店で働くのは店主1人のみ。
黒いエプロンを身につけ、紙をひとつにくくり、左頬に髪を一房たらし、丸く優しげな目をもつ素朴な女性である。
彼女の提供するコーヒーは、訪れる客全員の舌をつかむほどの美味しさであり、この喫茶店に訪れた客は皆、帰り際にこう言う。
『また、来ます。』
と。
だが僕が見てきたなかでそう言い残し、再びここを訪れた客は、
1人もいなかったと思う。