【62話目】次に
『決まりましたニャ!息つく間もなく行われた接戦を制したのはユウト選手だニャ!
これで決勝進出はユウト選手に決定ニャ!』
『いやぁ2人ともいい勝負でしたね。
いいものを見れました!』
実況の2人がそう言った瞬間、観客席からは多くの拍手が鳴り響いた。
俺はその拍手を聞きながら地面に倒れているデイを見ている。
「あー!負けた負けた!!ちくしょう!勝てると思ったのになぁぁぁ!!」
デイは地面にねころがりながら駄々をこねる子どもみたいに悔しがった。
その様子を見て初めて俺は「勝ったんだ」と実感できた。
そして俺は悔しがっているデイに向けて手を差し伸べた。全力で勝負をしてくれた事に対する感謝の現れだった。
「……ったく、仕方ねぇな。」
デイも俺の意志に気付いてくれたのか、俺が差し伸べた手を掴んで立ち上がる。
「次は絶対勝つからな。」
立ち上がったデイは俺にいい顔でそう宣言してきた。
答えはもちろん。
「いや、次も俺が勝つぜ。」
満足げに、自信満々にデイに返す。
「ふっ、はっはっはっはっ!!」
そして2人揃って笑いだした。
何がおかしいかわからないけど、それでも2人は笑いが止まらなかったが。
「はっはっ……いててて!!傷口が広がってきた。」
笑っていたデイが脇腹を抱えてその場に座り込んだ。
その後、救護班が駆けつけて脇腹を抑えているデイを連れて行った。
「君も結構ボロボロじゃないか、私たちと来なさい。」
救護班の人が俺を見て心配する様に言ってくれたが、俺は。
「すみません、次の試合見終わったら行きます。」
彼は救護班の人のやってる事は仕事であれば当然の事だが、それでも見ておきたかった次に俺が戦う相手の姿を。
「そうかい……酷くなるようならすぐに来るように。」
そう言って救護班の人達は去っていき、俺もグラウンドを離れて通路に入った。
そこにいたのは次に試合を行うクラック、そしてその少し後ろにはこの前と同じように緑髪の大人しそうな女子生徒がいた。
クラックとすれ違いざまに
「決勝、覚悟しておけよ。」
と早速の宣戦布告だ。
まるで自分がこの試合に勝つのが当然のような喋り口調だった。
「なら、この試合で負けるなんて事ないようにな。」
「もちろんだ。」
俺の返しに短く返答をしてクラックはグラウンドへと歩いていく。
そしてその少し後に緑髪の女子とすれ違う時に……
「これ、後で見てください。」
俺にしか聞こえないような小声でそう喋り、俺のポケットに何かを仕込んだ。
緑髪の女子はそのままクラックへとついて行った。
いったいなんだったのだろうか、と不思議に思いながら俺は観客席へと向かった。




