【5話目】ついに外へ!
体がとても軽い。
ガバンを返して貰って俺は外に出た。
なぜか背負うのではなく手で持った方がいいと俺の直感がいうので手に持ったまま。
青く晴れ渡った空、見たことの無い不思議な店が立ち並ぶ街、そしてここが異世界という事実
店の文字は俺の世界にあるカタカナのようなものだった恐らくさっきセリティアさんに記憶を貰った為、俺の頭でわかる文字に置き換わっているのだと思う。
初めてのものが多く驚きを隠さないでいた。
これから行く先々で何があるのかに少し興味を持ち胸を弾ませていた……ただ俺の隣にいるのが男だって事は気になる所だが。
隣で俺に笑いかけてくる男がいたのだ。
この人はディーオン、さっきセリティアさんと一緒にいた灰色の髪の男だ。
なんでもこの都市にある騎士団の騎士長……
つまり、この都市で1番強いと言われる人だ。
この人は俺の生活品の買い物の手伝いや護衛の為について来てくれているそうだ。
ディーオンは街でも支持があるのか俺達の近くを通る人達はディーオンに注目している。その中には俺をジロジロと見てくる人達もいた。
でも、俺が見た感じこの人は他の人から尊敬されるとは思えない程気が抜けていて陽気てふざけたの感じでそんなに強くは無さそうだなぁと思い俺は怪しむ目でその男を見ていた。
すると、ディーオンは俺の目線に気付いたのか俺の方を向く。その瞬間もの凄い衝撃が俺の背中を襲った。
「なんだぇ、ジロジロ見てねぇでなんか言いなぁ!」
爺さん口調で言ったディーオンは俺の背中を叩いた、しかし叩いたというにはあまりにも威力が大き過ぎてまるで背中が爆弾か何かで爆発させられたような感覚に襲われた。
あまりの衝撃に俺はその場でむせこむ。
さっきの強く無さそうという感想は前言撤回させてもらう、この人めっちゃ強い。
ガバンを背負ってなくてよかった……
とりあえず、何か喋らないとそう思い話す話題を頭の中で探した。
俺はふっと空を見上げた。青空が広がって綺麗だな……ん?青空?
さっき空から見た時にはオレンジ色のドームが広がっていた筈だそれがここからでは確認出来ない。
「えっと……空から落ちてくる時なんか壁らへんにオレンジ色のが見えたなぁって……」
とりあえず疑問を問いかけてそこから話を繋げなくてはそう思い真っ先に浮かんだ事を話した。
「おぉ!そうだったなお前さん。他の奴と違って空から落ちて来たんだったな。
あれはゾーンつってパゼーレ家が代々受け継いで来たこの都市を守る為の結界ってやつだ。
無許可の連中や勝手に入って来た奴がいたら城に警報を鳴らしたり、外からの攻撃を防ぐ役割があるんだぜ。
都市の内部からは景観を損なわねぇようにして外側からは警告の為にドームを外側から見えるようにしてるって感じだ。」
と明るい口調で普通に教えてくれた。
先程までの雰囲気や強く背中を叩かれた事で多少の苦手意識があったがなんだか楽に話せそうだ。
「普通の転移者がやってくる時は外から入って来たんじゃなくて元からいた判定になっていてゾーンは反応しないんだが、お前さんの場合ゾーンの外から転移して無許可でゾーンに入ったから反応されたんだな。」
まだ説明は続いていた様だ。
なる程、ゾーンに反応されたから転移者とは違う対応をされたのか。
「空から見た時、この都市以外にも集落があったんですけどそれは……?」
上空から下を見た際、この都市以外にも何か集落みたいなものがあったのを思い出した。
「あぁあれを見たのか!あれは独立集落っていうんだ。」
「独立集落?」
「何か事情があってその場所を離れない奴らが住む集落の事だ。偶にこっちから出向いて物品を交易する事があるんだ。」
独立集落という名前だから何か差別とかの関係かと思ったが、別にそうという訳ではないらしい。
結構この世界にも事情があるんだな。
「あと、それとお前さんに言っとくことがあるんだが……」
「チャーチスについてだが、あいつをあまり悪く思わないでやってほしい。」
チャーチス、俺がこの世界に恐らく初めてあった男だろう。
茶色の口髭が物凄く生えていてで俺の足に槍を突き刺した男だ。
その男についてないかあるらしい。
「あいつはだな……セリティアへの信仰がちっと強くてな。今回暴走しちまったのも来たのが凶震戒の奴らだったらと心配して、危険な事を避けさせようとしてああなっちまったんだ、許してやってくれ。」
凶震戒?また知らない言葉が出てきたが、とりあえずそれは後で質問することにして……。
その言葉を聞いて俺の中のチャーチスの印象は少し変わった。
憧れている相手に危険な目に遭って欲しくはない、そんな行動理由に俺は共感してしまったのだ。
なる程なら先程セリティアさんが来た時に見せた恐怖の顔はセリティアさんに対する恐怖ではなく勝手な行動を取った自分がセリティアさんに嫌われてしまう事に対しての恐怖だった。俺はそう捉えた。
そういう理由なら俺は彼に対して怒りの感情をぶつける事が出来ない。
「大丈夫ですよ。勘違いはもう解けた様ですし、何よりもう傷も塞がりましたから。
それよりもディーオンさんに聞きたい事があるんですけど。」
俺はチャーチスのした事を許して、興味のある方へと話題をずらした。
自分自身に質問が来るなんて思っていなかった様なディーオンは少し首を傾げた。
「貴方セリティアさんの事って普通に呼び捨てなんですか?……もしかしてそういう御関係……」
この世界に敬語という概念があるのかは知らないが、少しそういった事情は気になってしまい質問をする。
「そ……そんなんじゃねぇよ!ただあの人は俺の恩人だってだけでぃ。」
図星のようだ。
2人がそういう関係じゃないとしても、ディーオンに関してはセリティアさんにそういった思いを抱いているのはその顔からわかる。
「はっ!そんな事言ってねぇでまずは服を買いに行くぞ!その格好じゃ目立ってしょうがねぇからな!」
少しさっきの話を誤魔化そうとしてディーオンは俺を近くの服屋まで引っ張って行った。
俺は改めて自分の格好を見る。
確かにこの異世界に俺と同じような制服を着ている奴はいない、しかも俺のズボンはさっき刺された時に空いたズボンの穴がまだ開いたままだったのだ。
通りで他の人達から不自然な視線を集めた訳だ。
そうして俺は服屋へと連れられたのだ。
そうして俺とディーオンは服屋に入った。
こっちの世界とは違ってN○KEだとかAD○DASといったメーカーみたいな物は無く柄もそんなにない様な感じだった。
俺が服を選んでいる最中、ディーオンと店の店主である女性との会話が少し聞こえた余り内容はわからなかったが「転移者」という単語が聞こえたのはわかった。
その後店の店主がディーオンと共に出てきて体のサイズを測ると言って俺の体の寸法を測るが、その間店主はジロジロと俺の方を見ていたのがバレバレだった。
服の寸法を測り終えて適当な服をディーオンに買ってもらいその服に着替え、店の外へ出た。
学園の制服は俺が試験に合格してから作り、そのまま送ってくれるという事をディーオンから教えてもらう。
少し気になる点はあるが、今の所とても楽しいと思える、初めて見る物は多いし人は優しそうだし……いや優しすぎる。
なんでこの人達は別の世界から来た俺にこんなに優しいんだ?俺にこんなに良い待遇をしてなにか得があるわけではないだろうに……
「な、なぁちょっと聞きたい事が……」
その時だった。
空腹でディーオンの腹が大きくこちらに届く程に鳴ったのは。
そういえば明るさ的には今はもう昼の飯時の様だ。
「おっとすまねぇ、腹が減っちまったから飯屋に行こうぜ?話はとりあえずそこでしようぜ。」
ディーオンは飯屋に行こうと提案
俺も昼……ではなくてあっちの世界では夜にこの世界に飛ばされた為まだ夕飯を食べてなく、少しばかり腹が空いていた為にその提案に俺は頷いた。
そうして俺はディーオンに連れられて飯屋へと入る。
飯屋……というよりは中世の酒場の様な場所だった俺達はその中に入った。
中にいる客の人達はそれぞれで食事をしていて店中が賑わっていた。
俺達は端っこの方で空いている席に腰をかけた。
その後店の店員が水を持って来る。
その時にディーオンは店員に注文をした。
俺が何がいいかも聞かずに勝手にだ。
そして注文を聞いた店員が離れていき再び2人だけになった。
「……それで?さっきは何を聞こうとしてたんだ?」
とディーオンはこちらを見つめ聞いてくる。
俺は少し呼吸を整えてさっき聞こうとしていた質問を出す。
「なんで貴方達は俺みたいな転移者にこんなに良くしてくれるんですか。そこまでして貴方達になにかメリットがあるんですか。」
予想していなかった。
そんな顔をして少し気まずな雰囲気が出てしまう。
「まぁ……言ってもいいかぁ?そんなに秘密にする様な事じゃねぇからな。」
ちょっと考えた結果どうやら教えてくれる様だ。
「その質問に答える前に俺からちょいっとした問題だ、お前さん達の世界にあってこの世界にない物はなんだと思う?」
えっ?問題?この世界になくて俺達の世界にある物?いきなりそんな事を言われても俺に思い当たる節はなくわからない。
少し考えてみた……
元いた世界とこの世界を比べてみた、こっちの街並みはどことなく中世を思わせる感じで元いた世界とは違う感じだが、さっきの質問の答えとは違う。
他の所から考えてみよう。
こっちの世界にない物?そんな物あるのか?逆にこっちの世界に魔法がある分、元の世界の方がない物の方が多い気がする。
街の方も凄く人が歩いていて活気に溢れていた……あれ?そういえば街には歩いている人ばっかりで車とか自動車が全くなかった……もしかして?
「もしかしてこの世界に無いものって車とかですか?」
俺の導き出した答えを彼に伝えた。
あまりこの世界を知らない為にこれが正解だとは確信出来ないけどこれぐらいしか俺には思いつかなかった。
「んー半分正解ってとこだな。答えは車じゃなくて機械全般ってやつだ。この世界にはお前さんの言った車を含めた機械製品が今は存在していない。」
少し違っていたか……それにしても、機械全般か……確かに街中には機械みたいな物はなくて魔法だけで店の宣伝とかしていたな。
それにしても、俺の質問に対して逆にこんな質問をしてきたのかいまいちわからない。
「この世界に機械がない事はわかりました。でもそれと転移者にこんな良待遇をしてくれる事に何か関係があるんですか?」
俺はこの質問の意図を彼に問いただした。
「まぁ落ち着け、俺達は転移者から機械の存在を聞いてこの世界に機械を作ろうとした、そして考えたんだ実際に機械に触れている奴らから機械について教わればいいってな。」
ディーオンはそう言った。
しかし俺は異世界に来てから今まで機械についての情報を誰からも聞かれていない。
もしかしてこれから色々と聞かれるのだろうか?
「ただ、口下手で説明が出来ない奴もいるだろうし、間違った知識を持っている奴もいるかもしれねぇ、ならどうするか……ひとつだけ確実な情報を手に入れられる。
セリティアの他人の記憶を読み取る魔法ならな。」
そのディーオンの説明を聞いて俺はハッとする。
確かに記憶を読み取れば確実にそれもあまり時間も取らずに情報を手に入れられる、なんせさっきセリティアさんから文字の記憶を与えられた時、言葉ではなく感覚みたいな物で覚えられた。
そして記憶を読み取るのと記憶を与えるのが同じ要領ならこのことは簡単に出来る。
なるほどこれで不思議だった事が全て繋がった。
「その方法で様々な機械の情報を貰ったが、それだとこっちだけが特になって不公平だろ?だから転移者は記憶を読み取らせて貰った礼としてこの街での安定した暮らしの手助けを受けれっていう事だ。」
これでさっきまでの疑問は解消できた。
記憶を読み取らせて貰ったお礼としてのこの待遇という事か案外悪くは無い交換条件だと思うお互いに何も不利益な事はないからな。
「今俺達が取り組んでいるのは車の制作をしていてな、車はいいよな!俺達の世界には馬車くらいしかなくて移動とか不便だしなにより車は武器にもなるこれで奴等を更に追い込められる。」
車を武器に……
本来の使い方ではない事に対して少し怒りを感じてしまっている自分がいる。
俺は車に対しての嫌な記憶を思い出す、絶対忘れては
いけない過去を……少し思い出して気分が悪くなる。
いやこの世界の人にだって事情はあるんだからあまり深く気にしない方がいいのかもしれないとりあえずこの事は一旦置いておこう。
そして奴等という事はこの世界では何かと戦っているのか?
「奴等……?」
少し衝撃的な事を聞いた俺は少し動揺して思った言葉を呟いてしまった。
それにしても奴等って誰の事なんだろうか?さっき言っていた凶震戒と何か関係があるのか?
「あぁ、奴等っていうのはな今俺達に敵対している凶震戒という組織だ。
ここ5、6年の間に現れた組織でな、相当手練れの集団って奴だ。俺達も討伐に尽力を尽くしてはいるが今のところ奴等の……十戒士という10人の奴等の幹部の内3人までしか殺せていなくて俺達も苦戦しているんだ。」
凶震戒……そんな組織がこの世界にはいるのか……でも、俺がいるのは1年だけだからそんなに気にしなくてもいいのかな?
それにしてとこの人多分相当強いはずなのにそんなに苦戦する奴等なのか?
「そんなに強いんですか?その十戒士っていうのは?」
気にしなくていいといっても、もしかしたらがあるかもしれないと一応その集団の危険性を聞いてみた。
「あぁそうだ!十戒士の連中はたった1人で都市1つを滅ぼせる程の実力の持ち主でな!
1人倒すのでさえ、相当な被害を受けるんだ。
俺も奴等と戦った事があるがぁ、結構手こずっちなった。
まぁ他にもこの都市の近くに武装集団がいるって話だがまぁ凶震戒共々お前がいる間には遭遇しないだろうし大丈夫だろ。」
俺が心配しないように最後に一言加えて言った。
それにしても、この都市は見た感じ相当大きな所だっていうのにそれたった1人で滅ぼせる?
それ程にその十戒士は強いのか……
それなら何か俺に他にも提供出来ないかと持っていたカバンを漁った。
あんまり意味は無いと思うが少しでも現物があった方が少しは役に立てる物があるかとカバンの中の物を探った。
しかしそんなにディーオンに渡せる物はなくカバンを閉じる。
その時ポケットの中にスマホを入れてあるのを思い出した。
俺はポケットの中のスマホを取り出した。
スマホの電源を入れてみる……異世界なのか電波が入っておらず写真の機能しか使えないようだ。
「もし良ければなんですが、これもお役に立たせてやってください。実物があった方が少しはいいでしょう」
今は写真くらいしか使えないが、これを渡すことによって電波が通り、この世界限定だが、スマホが使えるかもしれない、そう思った俺はディーオンにスマホを差し出した。
「いいのか?これはお前の物だろ?」
俺のことを心配してかディーオンは許可を聞いて来た。
それについては大丈夫だ、たったそれだけでこの世界が発展するなら軽い物だ。
そう思いスマホを渡す。
ディーオンは俺の気持ちを察してくれたのか素直に受け取ってくれた。
そしてさっきディーオンが頼んでいた料理が今届いた、来た料理はパンのような物と少し大きめの肉だった。
そして俺達は来た料理を食べ始めた。
……凄い!こんな美味しい料理初めて食べたパンは柔らかくてふわふわして口の中にパンの香りが広がっているし、肉もジューシーで香ばしく直ぐに口に溶けていくような感じでパンに合って食が進んだ。
ディーオンによると小麦などの作物は元いたの世界の肥料とかは使ってはおらず、栽培に関する魔法使いが研究しており、その魔法は元いた世界の肥料より性能が高く、その作物を動物にも食べさせているようでだからパンや肉といった料理もこれほど美味しいそうだしかし問題があってこの世界にはどうやら米とかが無いようでそこは少しがっかりした。
そして食事が終わり店を出ようとする。
ディーオンが店員に銀貨を2枚程手渡して銅貨を数枚受け取っていた多分料理の代金だろう。
そして店を出て次は日用品や試験の為の勉強道具を買いに行った。
しかし、行く先々でディーオンが俺の事を異世界人と紹介しているようで店の人にジロジロと見られ恥ずかしくて顔が赤くなる。
他にも行く先々でディーオンがちょっかいかけてくるのが少しうざかった。
そして店を巡って結構な荷物を抱えて歩く。
この魔法の世界独特の物を買って少し機嫌が良くなっている。
「次は何を買いにいくんですか?」
俺はディーオンに尋ねた。
「次の場所で最後だ!次はお前さんの待ち望んでいる魔法を使う為に必要な魔性輪を買いに行くぞ!」
そうディーオンは笑いかけながら言った。