【58話目】ブラックルーラー
「うへぇ、疲れた〜」
ボロボロの傷だらけになりながらデイは観客の俺たちのいるところにやってきた。手にはさっき俺が貰った魔力を回復させる瓶を持っていた。
「あら、お疲れ様です。」
「お疲れ様でぇす。」
「お疲れ様!」
「おつかれ〜」
ヴァーリン、パートリー、レイナそして俺はそれぞれデイに労いの言葉をかけた。
「ということで、やっとお前と戦う時が来たな!」
「何言ってんだ、戦うのなんて学園で何回かあったじゃないか。」
デイが次に試合をする俺に向かって戦う事が嬉しかのように言った。
それに対して俺は戦っている事が普通かのように返す。
「いや、お前とやっと本気で戦えるんだ。
……いいか、手加減はするなよ?本気でかかってこい。」
「!!」
さっきのただ明るいだけの言葉とは違いその言葉には真剣の意志が感じられて俺は少し背筋がざわつく。
「……あぁ、もちろん本気でやるよ。」
俺はデイの本気に応えるべく、返事を返す。
あぁ、たしかに俺の魔法が使えるようになってから決着が着くまで戦う事なんて無かったからな。
俺もこの試合でデイとの決着をつけるとも。
「うげぇにっがっっ!」
デイは瓶の飲み物を飲んで苦いと言ってむせた。
『さぁー!続いての試合に参りましょうニャ!!クリーズ学園、クラック選手とスルール学園、バニラ選手です!!』
どうやら次の試合が始まるそうだ、戦うのは……クラックだ。
相手のバニラという奴はクリーム色の髪の男、ガタイが意外にも良い。
魔性輪をはめるように言われて2人とも魔性輪をはめる。
バニラの人器は片腕に棘やらが生えたゴツい装備だ。
それに比べて、クラックの人器は紺色の鞘に包まれた長太刀……というより日本刀に近い物だった。
そして、試合開始の合図がされた瞬間。
「ブラックルーラー」
突如として、クラックの周りから黒い靄のようなものが溢れ出した。
その靄はクラックから離れてバニラの周りを囲む。
バニラはこの黒い靄から抜け出そうとゴツい装備がされている腕で辺りを振り回すが、状況が変わる事なくバニラは靄に包み込まれる。
そしてバニラを包んだ靄は上空へ浮き始める。そして……
バニラを地面に叩きつけるかのように落とした。バニラと地面が激しくぶつかり合い衝撃音が鳴る。
地面に叩きつけられたバニラはというと、目を回りして気絶しておりそのままクラックの勝利の宣言がされた。
まさに秒殺。一回戦での魔法無しでの人器だけで勝ったのとは逆で今度は人器無しで魔法だけを使い圧勝したのだ。
その事実に少し気が引ける。
俺はこんな奴に勝てるのだろうかと。
でも、それ以上になんだがワクワクしてくるのだ。あんな奴と戦える事に。
心の奥底にある、古く小さな気持ちが大きく熱くなっていった。
「俺、もう次の試合の準備してくる。」
熱くなった気持ちは戦う事を求め、我慢が出来ずに早めに試合の準備の為、少し体を動かしに行こうとする。
「そうか、それじゃあまた後でな。」
デイは手を振り、次の試合でのまた会おうといった意味を込めた言葉を発する。
「が、頑張ってね。」
レイナは少し気まずそうに声援を俺に送ってくれた。まぁ気まずいのも無理はない。
次の試合は俺とデイ、どちらを応援しようかで迷っているのだろう。
「おう!」
と一言だけ話し、俺は観客席から離れて行ったのだ。




