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やさしい異世界転移   作者: みなと
マジックフェスティバル!!
58/263

【57話目】グロムインパクト

魔力を溜める。今目の前にいる相手を倒す為に、俺の限界を超えるために。


 だが俺が放とうとしている魔法には少しばかり使用の際の条件がある。それを満たしていなくとも使えはするが、これをしなかったら魔法の成功率は落ちてしまう。


 そしてその条件とは、相手に直接触れる事だ。


 タイガの動きは素早く、普通なら俺では触れることは敵わないだろう。

 けれども、必ずその突破口を見出して見せる。


 俺は動きを止める。タイガはその間にも俺の周りを高速で動いている。

 その動きは俺の隙を見ながら攻撃する機会を窺っているようだ。だから俺は自分を守っていたサンダアーマーを解除した。


 もちろん、これが罠だって事ぐらいタイガは理解しているだろう。それでも彼女は仕掛けてくる、自分の脚力に自信があるからだ。


 早速、タイガは俺に向かって飛び込んでくる。……ダメだ、これは捕らえられない。


 タイガの位置と向かってくるタイミングを考えて、今回では触れることは無理だと悟る。

 触れられないならどうするか。決まっている。


「グッ……!!」


 攻撃を受ける他ない。左脇腹を思いっきりタイガのデカイ爪で引っ掻かれる。

 そう、今は待つんだ。俺がタイガに触れられるタイミングが来るまで。


 2回目の接近、これもダメだ。攻撃を受ける。3回目、これもだ。それを繰り返していった。

 体はズタボロにされながらも、倒れることなくただ待った。


『どうしたのでしょうかニャ?デイ選手さっきから全く動きません、これはもしや諦めたかニャ??』


 実況席からそんな感想が飛んでくる。諦める?そんな馬鹿な。もう少し、もう少しで掴めそうなんだ。


『ふっ……いや、これは。』


 ルコードがボソリと呟く。どうやらデイが何をしたいかわかったらしい。


 そして……ついにだ。


 …………


 "きた!"

 前方からこちらへ真っ直ぐとトラが向かってくる。チャンスは一瞬、ここを逃すな。


 「ここだ!」


 バチンッ

 タイガの通り過ぎるその一瞬、俺の手が少しだがタイガの肩に触れた。

 その代償として、また爪で引っ掻かれはしたがこれで充分だ。


 これで俺の勝利への条件は揃った。

 さっきよりも多くの魔力を体中に溢れさせ空に向かって魔力を放つ。

 そして、俺の魔法の影響で青い空がねずみ色の雲に覆われ、雷鳴が鳴り響く。


 今、最大の魔法を放つ。


「グロムインパクト」


 静かに唱える。ねずみ色の雲から魔力を帯びた無数の雷が集まってくる。

 

『な、なんニャ!?ありゃ!!』


『これは凄まじい魔力量だ……』


 実況席にいた2人を初めとして、観客達が俺の魔法に驚きの反応を示していた。

 

 魔力を帯びた雷は1つの巨大な雷へと姿を変え、地面にいるタイガに向かってその雷は落ちていった。


「なんだよ、ありゃ……クソッ。」


 驚く様子を見せるタイガだったが、すぐさま雷が落ちると思われる場所から離れる。

 これが俺の最大の魔法の弱点だ、ある程度素早い者ならこの魔法を避ける事が出来る。

 もちろんそうなったら流石に俺の負けだ。だがしかし、その弱点を補う方法がたった1つだけあるのだ。


 巨大な雷は地面に落ちる寸前で直角に曲が、タイガのいる方へ真っ直ぐと進んでいく。

  

 そう、あの雷はタイガに命中するまで消える事はない。なぜなら、さっきタイガに触れた時に俺はタイガに印をつけておいたのだ。


 だからこそ、タイガに触れるのが必要だったのだ。そのままなら避けられて魔法は炸裂する事がなかった。


 タイガはグラウンド中を駆けて雷を避けようとする。しかし雷はどこまででもタイガを追いかけている。


 途中タイガは俺に命中させようと俺の方に誘導を行なったが、それは無駄である。

 なぜなら、この雷はタイガの動きに合わせて進むからだ。


 そして少しずつタイガに疲れが出たのだろうか素早さが落ち、雷が後ろへと少しずつ迫っていく。


「……ッッチックショォォォォ!!」


 そう叫んでタイガは雷へと飲み込まれていった。タイガが雷へ飲み込まれた瞬間、無数の雷鳴が轟いた。


『ニャァァァ!!タイガちゃぁぁん!!』


 実況席からニャリスの絶叫が聞こえる。


 そしてしばらくしてグロムインパクトは解除されて、タイガは地面に倒れて審判達が駆け寄ってくる。


 審判達はしばらくタイガの様子を見た後、生存確認か取れたのか安堵のため息を吐く。


 どうだ、俺はお前と同じ舞台に立ってやったぞ!

 ズダボロになった体で俺は観客席にいたユートを睨みつけた。


 そして間もなくして、デイの勝利が宣言されたのだった。

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