【56話目】トランスフォーム【タイガー】
ユートと別れて、試合に望む為グラウンドへ足を進める。
俺はユートに勝ってこの大会で優勝してみせる、そして認めてもらうんだ、兄貴に。
ユートと俺との勝率は俺の方が高い、だがそれはユートが魔法を使えなかった為だ。
予選ではあのまま続いていたらどちらが勝っていたかわからないだろう。だからこの大会でどっちが強いかハッキリさせたい。
正直に言うと俺は負けず嫌いだ、誰にだって負けたくない。
あのクラックという奴にも、ユートにも、そして兄貴にも。
俺は進む、この道の先の光差す未来まで。
これは俺の存在を証明する為の戦いだ。
『さーて、そろそろ第2試合を開始するニャ!!』
そうアナウンスがなる頃にはもう俺は通路から出てグラウンドに足を踏み入れていた。
『どうやら両者揃ったみたいですね。』
ルコードの言葉に俺は目線を向う側に向けた。そこには俺の対戦相手である、少し黒と白色の髪が入り混じったショートヘアの女生徒が立っていた。
その少し野性味があふれる顔立ちに俺は臆する事なく前へ進む。
そして互いが中央へ到達する。
『それでは選手の紹介ニャ!パゼーレ学園のデイ・マックラーゲン選手、そして我らがフレント学園の期待のエース!タイガ・バースニャ!!』
いきなり実況のニャリスは選手紹介と言い、自分の学園の生徒を応援する姿勢を見せている。身内贔屓全開だ。
『それでは両者、魔性輪を構えるニャ!』
アナウンスが聞こえ、お互いに魔性輪を構えて魔力を解放する。
俺は人器である雷斧を手に取る。そして相手であるタイガは。
魔性輪で魔力を解放した時、紺の制服から姿が変わり黄色に黒いや茶色、白色の線が複数本混ざりあっている動きやすいような格好に変わる。
その姿はまるで猛獣、トラのようである。
まずは先制、そしてそのまま俺の流れへと持っていく。
「それでは試合……開始!!」
試合が始まる。よし、まずは攻める!
「トランスフォーム【タイガー】」
タイガは姿を変える。
先程の格好から両手両足が獣のトラのような形に変貌する。
爪が生えて、足の筋肉が膨れ上がり手を地面に着けて四足歩行のようになる。
さっきより魔力量は増えてはいるが、それでもまずは先手を取る!
手に雷の魔力を集め、タイガへと放つ。
がしかし、放たれた先にはタイガの姿は既に無かった。試合の開幕、速攻でタイガは俺の後ろをとっていたのだ。
獣になった事で凄まじい脚力を得たのだろう、それにしても速い……!
そして鋭く尖った爪で容赦なく俺の背中を切り裂く。
「……ッッ!!」
『それにしても凄い脚力ですね。タイガ選手もニャリスさんと同じで【トランスフォーム】の魔法の使い手ですよね。』
実況席のルコードはニャリスに質問を問いかける。
『そうニャ!トランスフォームは特定の動物の特技を身につける魔法ニャ!私はネコで、タイガ選手はトラになれるニャ!』
実況席でそんな説明が語られている今でもタイガによる猛追は続いている。
反撃しようと斧を振っても、素早く俺との距離をとり攻撃を避けて、また隙を突いて攻撃を行う。その繰り返しだった。
彼女の猛追に俺は手も足も出せず、負けようとしていた。
その時、ふと観客席のユートを見た。
こんな弱い自分に呆れているのだろうか、無様だと笑っているのだろうか。
答えはどちらも違っていた。
ユートの顔を見た、その顔は俺への期待が存分に込められていた。
「期待してるぜ。」
あぁ、そうだ。ユートが俺に呆れたり、無様だと笑う事なんて無いはずだ。
なら、その期待に応えよう。
「サンダアーマー」
俺の体から魔力が放出されて、タイガは危険を感じたのか引いた。
これは体全体に雷の魔力を纏う魔法。
魔力を結構消耗する魔法なのだが、温存なんてしていられない。
それに魔力消費ならば、今から使おうとしている魔法の方がデカイ。
まだ使いたくは無かったが、ここで負けたらそんなことも言っていられない!
見せてやるよ!俺の最大の魔法を!!




