【54話目】憤怒
さて時間を第2回戦まで戻そう。
僕が見たのは捕まえていたはずの女、レイナそしてその後ろには腕を後ろにして拘束されている2人組。奴らは僕がこの大会に優勝する為に用意した駒、僕の計画が失敗するはずが無いと思っていた僕はつい……
「バカな!?アイツらしくじりやがったのか!!」
と口走ってしまったのだ。
これからは女にモテる美貌 莫大の資産の一人息子として成功していた僕の人生が崩壊する事となる。
「"しくじりやがった"か……」
その一言で僕は我に返った。
しかし、もう遅かったのだ。
顔面に強い衝撃が走った。何が起こったのかわからないまま、視界が暗くなり気が遠くなっていく。
このまま一撃KOになるか、と思いきや再び顔面に強い衝撃が走る。
気を失いかけてた僕に対してユウトは拳で僕の顔面を殴ったのだ。多分さっきの衝撃もそうなのだろう。
今度はその衝撃で意識がまた戻ったのだ。
「おい、何すぐに倒れようとしてるんだ?」
突き刺さるような冷たい声がする。
その声の主は当然、今僕が戦っているユウトであった。
また拳が飛んでくる。
当然、反応が出来ずにまた顔面にユウトの拳が直撃して後ろに吹っ飛ばされる。
痛い 強い しかし、僕は諦めてはいない。
なぜなら僕にはこれ(魔法)があるからだ。
「コンフュージョン!!」
吹き飛ばされた僕を追撃するように迫るユウトの前に手を突き出して、魔法を放つ!
魔法は直撃!これでしばらく奴は錯乱状態になる。その間にさっきまでのお返しをしてやろ……
顔面に強い衝撃が走る。気がつくと僕は再びユウトに殴られていた。
「なにかしたか?」
ユウトは冷たくゴミを見るような感じで殴っている。
嘘だろ……僕の魔法を喰らってなにも変わらないだと!?
そんなはずはない!!と僕は再び魔法をユウトに掛ける。
「コンフュージョン!!」
しかしその後に来るのはユウトの拳。
魔法が効かない?
そんな僕の魔法は脳内にある思考をめちゃくちゃにかき回して、相手を錯乱させる魔法、効かないなんて事はない!
だが、まさかこいつは……
頭の中にとある仮説が生まれた。しかしそんな事あり得るのか!?
だとしたらこいつ……!!
僕の事を殴る事しか考えてない!?
そう思った直後、脇腹に蹴りを入れられ横方向へ飛ばされる。
訂正、僕の事を痛めつける事しか考えてない!?
思考が一つだけの奴なら、どれだけ頭の中をかき回されてもその思考が揺らぐ事はない。
だが、そんな奴本当にいるのか?
だとしたら、僕はとんでもない奴を敵に回してしまった。
そう思った瞬間、ユウトに対する恐怖が芽生え始める。
殴る 蹴る 殴る 殴る
ユウトは僕の顔や腹など至るところを痛め付ける。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
手が血まみれになりながらも殴る事をやめないユウトがその時の僕にとっては人には見えなかった。
ただひたすらに僕を痛めつけているその姿はまさに化け物のようだった。
そしてついに僕の心が折れる。
「ごめんなさいごめんなさい。あの時は調子に乗ってたんです。もうあんな事は二度としません。ですから……殺さないで……」
その命乞いをした時には、自慢だった顔は血まみれでぐちゃぐちゃになっており、体中にあざがいくつも出来ていた。
恐怖のあまり涙が大量に出ては地面に落ちていく。その姿は無様で見るに耐えなかった。
その姿を見たユウトは。
「……まぁいい。もうやらないってんなら、俺がこれ以上する必要はねぇ。"今の俺は"許してやるよ。降参でもするんだな。」
そう言ってユウトは僕から離れていく。隙だらけな背中を晒しながら。
僕に背中を向けたな?お前が僕を許そうが僕は貴様の事を許しはしない。
隙だらけだ。今襲えば必ず殺せる。
殺してやる!僕にこんな醜態を晒した事をずっと後悔させながら殺してやる!!
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
残った力で立ち上がり僕はユウトの背中に向かって襲いかかろうとした。
ユウトは僕の事を見ていない!殺れる!!
「……"今の俺は"って言ったよな。」
背中を向けながら発したユウトの言葉が聞こえた時にはもう足を踏み入れていた。
突如、足元から風の魔力が溢れ出した。
その風の魔法は僕をすぐに取り囲み。
僕の体が無数の風の刃で斬られる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」
体中に無数の切り傷が付く。
ユウトはあの時、魔法を使っていなかったはずなのになぜ!?
「"少し過去の俺"つまりお前を殴っている間に地面に魔法を仕掛けたんだよ。そこを踏み入れた奴を切り刻む魔法をな、地雷みたいな物だから地風とでも言おうか。」
ユウトはこの魔法について語っている。
けれど僕の意識が魔法により、段々と遠くなっていって……
「頭を冷やす事だな。お前には正式に罪に問われるだろうよ。」
ゲドウは倒れる。そしてその後審判によりユウトの勝利宣言が行われたのだった。




