【50話目】1回戦終了
『第1試合終了!勝者、ユウトだニャ!!』
実況席から勝者コールがされる。そして観客席から多くの歓声が鳴った!
息を切らせながら俺はその場で勝利の実感を味わっていた。
俺は勝ったんだ。
歓声が体に染み渡る。だけども次の試合もあるだろうしもう戻ろう。
ウィングルはダメージも大きい為、タンカーに乗せられて治療室へ運ばれる。
俺もタンカーがウィングルを運ぶと同時にグラウンドから出る。
グラウンドから選手待機室、そして観客席に向かうまでの通路でウィングルを乗せたタンカーとすれ違う人物がいた。
それは開会式前日に俺たちに喧嘩を売ったウィングルと同じ学園に所属するクラックだった。その他にも隣には1人の女子生徒も一緒にいた。
クラックはタンカーに乗せられていたウィングルを見た後、こちらに顔を向ける。
「俺はウィングルを迎える為にここに来たんだが、お前が勝ったのか。」
どうやら俺に何か言いたいようだ。
「あぁ、期待に応えられず残念だよ。」
皮肉めいたセリフをクラックに向かって放つ。
「ふっ面白い事を言う。 だがそんな事を言うん、きっとお前も勝ち上がってくるんだろうな?」
そう言ってクラックは俺を睨みつける。
けれど今更そんな事で怖気付くような俺じゃない。
「あぁ!もちろんだとも!俺は優勝するつもりだとも!」
トーナメントを見た感じ、俺とクラックが相対するのはお互いが順当に勝ち進んだとしても決勝。 そこで勝った方が優勝となる。
この俺の発言は言わばクラックに対しての宣戦布告だ。
「なら俺に倒される前に誰にも倒されない事だな。」
そう言ってクラックは俺はすれ違い俺と逆方向、グラウンドに向かう。
あれ?でも……
「ク、クラック!?あなたの試合はまだでしょ?なんでグラウンドに向かおうとするの?」
クラックの隣にいた女子が驚いたようちクラックに尋ねた。そうだクラックの試合は確か後半の方だったはず……なのになんでグラウンドの方へ?
「……察してくれ。 今更踵を返して、あいつと一緒に帰るのが……あれなんだよ。」
クラックはそう沈んでいるような雰囲気で話す。
プ、プライドでも高いのだろうか?それともクラックがアレなのか……それなら俺は。
「じゃあ俺はもう戻るからじゃあな。」
俺は逃げるようにその場を立ち去った、あのままの空気感だったらおれが耐えられないからだ。
ユートが去ってその空間には2人だけになった。 そしてそこでとある音が……
ゲホッゴホッ!
激しく咳き込む声、その声がするのはクラックの方からだった。
クラックの顔はとても苦しそうにして片手で口を押さえていた。
「クラック!!」
隣で立っている女子はクラックを心配する。
しかし彼は。
「大丈夫だ……心配するな……」
息を切らせながらも平気だと、主張する。
そして口を押さえていた手が離れて、手の中にあったものは……彼の血だった。
「まだ、もってくれよ俺の体。」
クラックは血がついている手を強く握りしめた。
※ ※ ※ ※ ※
優斗は観客席の方に行っていた。
次の試合、勝った方が俺と戦う事になるのだからその相手の観察にと。
「おーい!ユート!!」
少し遠くで俺を呼ぶ声が聞こえた。
その声の方向を見ると、そこにいたのはレイナや同じ学園の生徒達だった。
「1回戦勝利おめでとう!!」
「凄かったよ!!」
「このまま優勝しろよな!」
などといった感じて詰め寄ってくる。
嬉しいけどなんだかむずがゆいような気分になる。
「あっそろそろ第2回戦が始まるみたいだよ!」
と1人の女子が言って全員がグラウンドの方を見る。切り替えが早いな、まぁ俺もみたいからありがたいんだけど。
グラウンドにはもう既に1人の選手が待機して相手を待っているようだ。見た感じあの選手、かなり顔がいい。なんか羨ましい。
相手はまだ来ないようだ。ちなみに一定時間来なければ棄権扱いになり相手の不戦勝になるようだ。
あれから数十分が過ぎた。だが対戦相手は現れずにそして……
「ドウ・クゥ選手棄権!よって勝者ゲドウ・カロオ選手!!」
勝者は決まったものの、歓声を上げていい場面か分からず観客の殆どが困惑していた。
恐らく歓声を上げていたのはゲドウと同じ学園の女子生徒であろう応援団だった。
どんな魔法を使うのか見たかったがこれは仕方がない。当日にぶっつけ本番をしよう!
そして1回戦は続いていく。
3試合目でデイの試合だったが問題なくデイは勝って2回戦へと進む。
そして最後の試合はクラックが出る。いったいどんな魔法を使うのか見ようとしたが、クラックは相手を瞬殺させて勝利し、魔法大会1日目が終わった。
「おめでとうユート!」
会場から寮へ帰るまでの道で俺もレイナは話しながら歩いていた。
「ありがとう。 でもまだまだ!だって俺は優勝する気だからな。」
俺はレイナからの労いの言葉に感謝の言葉で返して、まだやれる!という意思も表した。
「ふふっユートなら大丈夫だよ。」
少し微笑みながらレイナは大丈夫と言ってくれた。そのまま俺達は寮に帰って行った。
後ろから誰かに見られている事にも気づかずに。
翌日の朝、その知らせは届いた。
「た、た、た、大変ですぅ!!ユウトさん!!」
パートリーが俺の部屋の扉を壊すような勢いで入ってきた。
息を切らし何か物凄く焦っているようだ。
「どうしたんだ落ち着け。」
俺は興奮状態のパートリーを落ち着かせようとする。
だがパートリーから出た言葉は俺がパートリーを落ち着かせている場合ではないと思い知らされる。
「レイナが今朝から行方不明なんですぅ!」




