【4話目】セリティア・パゼーレ
現れた女性はこちらをじろじろと見ていた。
傍ら(かたわら)には、黒髪で口元を布で隠してる鋭い目の少し背の低い男と、少し気の抜けたような感じのガタイの良い灰色の髪の男がい立っていた。
女性は2人の男に話しかけた。
そして女性から何かを聞かされたその男の内1人はどこかへ行き、もう1人は牢屋へと入り俺の方へと歩いてきた。
歩いて来る途中で、さっきの髭の男と同じように右手を前に掲げた。
男の右手の人差し指にも宝石の付いた指輪がはめられていた。
そして男の指輪が光った。
光の眩しさに一瞬目を逸らし、また男の方を見る。
その男の手に握られていたのは槍ではなく、十字架のような形をした物だった。
その時、牢屋の隅でそれを見ていた髭の男が黒髪の男に何か物申しに近づいてくる。
しかし黒髪の男は髭の男を睨み何かを言った。
当然2人が何を言っているのかはわからない。
髭の男はその男に睨まれて、すぐに牢屋から出て一緒に来ていた男と共にこの場を去って行った。
男が近づいてくる。
男は持っていた十字架をさっき、髭男に刺された足に軽くかざして、そして目を閉じた。
十字架が光を放った。
十字架が光を放った瞬間、痛かった足の痛みが引き始めた。
それどころか、足の傷もみるみると治り気付いた時にはもう痛みは完全に引いて、傷も何事もなかったかのように治って普通に動かせるようになった。
傷が治ったのを確認して俺の後ろにまわって、俺を縛っていた縄を解いた。
「あ、ありがとうございます。」
状況が読めず困惑しながら、ひとまず感謝の言葉を言った。
俺の傷を治してくれた男は、俺にペコリと無言でお辞儀をして、牢屋を出てさっきと同じ女性の傍へと戻っで行った。
すると女性が俺の方に歩き出した。
拘束が解けて、いつでも逃げ出せるのだが、少しづつ俺に近づいて来る女性の美しさに見惚れて、動けずにいた。
俺の所に来た美女は膝を地面につけて座っている俺に顔を近づけた。
俺はその顔にドキッとくる。
その美女の容姿は、もしこの世界に神がいるのならば、誰もが一目惚れさせられる程に美しかった。
そんな見惚れている俺を見て美女は、口を開けて言葉を出した。
「安心して下さい。もう大丈夫ですよ。優斗さん。」
日本……語?
この人日本語を喋った?
さっきまでの男達は、訳の分からない言葉を喋って理解出来なかったらのに、何故かこの人は俺の知ってる日本語を喋った。
それに、この人俺の名前を?
色んな疑問が頭に浮かぶ、そんな困惑している俺に対して女性は微笑んで話しかける。
「色々と聞きたい事があるかと思いますがひとまず、自己紹介をさせて下さい。」
「私はこの都市、パゼーレの管理人のセリティア・パゼーレという者です。」
セリティア・パゼーレ
そう名乗ったこの美女は、右手を出して先程の男達のように宝石の付いた指輪を見せる。
セリティアさんの宝石は彼女の髪と同様の金色に輝いている。
「そ、その指輪は?」
さっきまで言葉が通じなかった為聞けなく、ずっと気になっていた事が口に出る。
セリティアさんはその質問に答えてくれた。
「これは私達が魔法を使う為に必要な物、魔性輪という物です。」
魔法、アニメや映画や小説とかでよく見かける存在。フィクションだと思っていたが、さっきまで俺が見てきた光景はその存在を認めるには充分だった。
そしてセリティアさんの魔性輪が輝いて、セリティアさんの手には豪華に飾られた純白の杖が握られていた。
「少し、失礼します。」
セリティアさんは俺の頭の上に左手と右手に持っている杖を当て目を閉じた。
これから何をされるのか、と心配もあったがそんな事よりも……。
さっきセリティアさんが立ち膝になり俺との距離が近くなった事で、その……。
2つの大きくて柔らかそうな山が俺の目の前に現れた。
俺だって思春期真っ只中の男子だ、こんな立派な物が2つも、目の前にあったら誰だって動揺するに決まっている。
そして沈黙の時が暫く流れる。
「なる程、そうですか……。」
暫くたった後、そう言ってセリティアさんは顔を離して俺の顔を少し哀れむ様な顔で見た。
「まず最初に謝らなくてはいけませんね。
先程は私の部下であるチャーチスがあなたに危害を加えてしまい本当に申し訳ありませんでした。」
セリティアさんはさっき、俺の足を刺した男、チャーチスのことについて謝罪をした。
誠心誠意こもった謝罪だ、なんだかこっちが悪いような気がする程に。
「い、いえ大丈夫ですよ。それにもう足は大丈夫ですから。」
俺はそうセリティアさんに言った。
「そうですか、優斗さんがそう言うのでしたら。
それじゃあ何か質問とかはありますか?」
哀れむような顔から笑顔へ切り替えて、セリティアさんはやさしい口調で俺に話してくれた。
「それじゃあ、ここは一体何処なんですか?」
まずは俺は自分のいる場所について聞く。
さっき空から見た都市、そして今俺がいる牢屋についてを聞いた。
セリティアさんは俺の質問を聞いて話をする。
「まずは、この世界について貴方に説明しなければいけません。ここは貴方が元いた世界ではありません。ここは、貴方達が異世界と呼ぶ世界です。」
……異世界?
異世界ってあのアニメとかでよく見るようなあの?
いや、魔法がある時点で異世界があってもおかしくない……のか?
「それじゃあ俺って?」
ここが俺のいた世界じゃなくて異世界だとしたら。
つまり、俺は……。
「えぇ、貴方はいわゆる異世界転移者、と呼ばれる人なのです。」
俺の疑問に対して、セリティアさんは普通の事のように落ち着いて答える。
その落ち着いた態度に、俺は疑問を感じた。
「結構、落ち着いているんですね。」
親切に説明してもらっていて、少し失礼な聞き方をしてしまって申し訳ないと思ったが、セリティアさんのその態度が気になってしまい、つい聞いてしまった。
「実は、転移者は珍しいのですが。貴方と同じ世界から定期的に転移者がやって来るんです。今でもこの都市に数人程住んでいるのです。」
そ、そうか。
転移者って俺以外にもいるのか。
少し複雑な気持ちになった、少しだけ、ほんの少しだけ俺は特別な人間なのだと、そう思ってしまった。
「貴方は他の方達とは違う方法でこの世界に来てしまってその為、こんな事になってしまいました。」
セリティアさんは説明を続ける。
「本来、異世界から来る方は突然、都市の何処からしらに現れて、現れた方を私達が保護するという感じなのですが貴方は……。」
あぁ、そうか確か俺がこの世界に来た時は都市ではなく空だった。
その違いがこんな事になってしまったのか。
「そしてここはパゼーレという都市の中心にある城の地下にある牢屋です。」
セリティアさんはわかりやすく場所の説明をしてくれた。
つまり俺が今いる場所は地下牢って事か。
都市、さっきから何回も出ている単語だか、さっき空から見た時にあった壁とドーム型の物に囲まれたのがそうだとしたら。
「もしかして、都市って他にもあるんですか?」
さっき空落ちている際、この都市と同じようなものがあちらこちらに存在していたのを思い出し、質問をする。
「ええ、そうです。ここパゼーレ以外にも都市があり、それぞれの都市には様々な特徴、特産品があります。」
やっぱり他にも都市があったのか。
よし、場所については大体聞き終わった。
他にも聞きたい事がある、次はそれについて聞こう。
「場所については、ある程度理解できました。次の質問ですが。
この世界と俺の元いた世界、言葉が違うのはわかります、それならなんで貴方はその両方の言葉を話せるんですか?」
言葉が違うことは身をもって思い知った。
だから、こうしてセリティアさんとの会話が成り立つ事に疑問を抱いていた。
「そうですね、これについては、私の魔法に関係しているのです。
私の魔法というのはですね、他の人の記憶を読み取ったり、私の記憶を他の人に与えたりできる魔法なんです。」
「私はその魔法を使ってこの世界に来た方々にその魔法を使い、貴方が使っているような日本語、という言葉を覚えさせていただいて、私の記憶から異世界から来た人達にこの世界の言葉の記憶を与えてこの世界で暮らせるようにしたのです。」
なる程つまり、この人が魔法を使って異世界から来た人の言葉の記憶を読み取って日本語を理解し、そしてその人に記憶を渡してこの世界で生活できるようにしているって事か。
という事は俺はこの人にこの世界の言葉の記憶をもらえれば生活は大丈夫そうだなと安心する。
そして俺は最後の質問をする。
「取り敢えず最後の質問になんですけど。
他の人で元の世界に帰った人は、いるんですか?俺は、元の世界に帰れるんでしょうか?」
この質問は、俺にとってとても重要な質問だった。
ここが異世界だと知った時から気になっていた事だ。
もしかしたら、俺はこのままこの世界で家族に心配をかけたまま一生を過ごす事になってしまうのか、それが気がかりだった。
その質問にセリティアさんは少し微笑んで。
「大丈夫ですよ。帰れる方法はちゃんとあります。現に異世界にいた人の中で元いた世界に帰った人はいますから。」
それは予想してなく、俺にとってとても喜ばしい答えだった。
普通こういう異世界転移物の作品って元の世界に帰れないのが多いからだ。
なら、元の世界に帰れるという言は聞く事は1つ。
「どうすれば元の世界に帰れるんですか?」
元の世界に帰れるんだったら帰りたい。
確かに、この世界は俺の知らない魔法がある事に魅力はあるのだが、俺には元の世界に妹や、両親がいる。
俺はその人達が待っている世界に帰らなきゃ行けない。
その為に俺はセリティアさんに元の世界に帰れる方法を聞く。
セリティアさんは少し困ったような顔をして話し出す。
「確かに帰れる手段はあります……ですが、今すぐに帰れるというのは難しい話なんです。この世界と貴方達の世界を繋いで行き来するゲートは定期的にしか出ないんです。」
定期的に?つまり、一回その世界を繋ぐゲートが開いたらしばらくゲートが出てこないって事か?
そして多分俺がこの世界に来る際、そのゲートが開いた、という事はまたしばらくの間はゲートが開かないという事だ。
そういえばさっきセリティアさんが転移者が定期的にやって来るって言ってたっけ。
それよりも更に聞くことが増えた、それは。
「定期的って、じゃあ次にそのゲートが開くのはいつなんですか?」
いつゲートがまた開いた帰れるのかという事だ。
なるべく早い周期だと信じてセリティアさんに尋ねる。
「そうですね、貴方が来てから次のゲートが開くまではーー大体1年先ですかね。」
「1年先……!?」
返ってきた答え驚き、思わず反射的な返事をしてしまう。
確かに1年はそれ程長くはないが、その間俺は元の世界では行方不明って事になるのか?
それに、その1年間俺はこの世界でどう生活していけばいいんだ!?
「い、1年と言っても、あっちの世界とこちらの世界の時間軸は違って、こちらでの1年は向こうの世界での一カ月程なんです。それにその間の生活は私達で保証します。」
焦りながらセリティアさんは説明をする。
一か月、それでも元の世界では心配されるのは間違い無いが、それでも帰る手段がないという事に比べれば相当温情なのだから、これ以上わがままを言っても仕方はない事だ。
それに、この世界での生活も保証してくれるのだから悪い事ばかりじゃない、プラスに考えよう。この世界では魔法があるんだ恐らく退屈な暮らしにはならないだろう。
そして、セリティアさんからこんな提案を受ける。
「貴方のような歳ですと、もし貴方が良ければですが私が学園長をしている魔法学園に来ませんか?
規則上入学試験は受けていただきますけど。」
魔法学園か普通、学校というのは普通、あまり行きたくない場所だが、魔法という言葉がつくだけで行く気が起こるとは。
「いいんですか?できるんでしたら是非、受けさせて欲しいです。」
そして俺は即答した。
その俺の返事にセリティアさんは微笑みかけて話を進める。
「喜んでいただけて嬉しいです。それでしたらこの後、生活に必要な物を買いに行きましょう。それと貴方の名前についてなんですが。」
セリティアさんは少し言いにくそうな感じだった。ん?俺の名前、なんか問題があるのか?
セリティアさんが説明を続ける。
「この世界での名前と貴方達の世界の名前は少し違いまして、一応貴方にもこの世界で生活しやすいように名前を少し変えて欲しいんです。
と言っても名前の部分と名字の部分を入れ替えるだけですが。」
なる程理解した。
つまり名前と名字の順番を変えるだけ、そういう事だなそれなら特に問題はない。
「わかりました。つまり俺はユウト・シンドウって事でいいんですか?」
俺が自分の言葉をすぐに理解してくれたのが嬉しかったのかセリティアさんの顔が少し明るくなった、
「はい、その通りです。すぐにわかってくれてとても感謝します。あとは、あぁちょうど来ましたね。」
さっきセリティアさんに何かを言われて何処かへ行った2人組の男が戻って来た、その手には何故か木製のバケツを持っていた。
何故?それにバケツ1つなら1人でもよかったのでは?と思ったがすぐに答えはセリティアさんによって出された。
「彼らには貴方と2人っきりで話しをする為に貴方にとって必要な用事を与えて、ここを離れてもらいました。」
そうセリティアさんは俺に笑顔を向ける、その笑顔にそして俺と2人っきりで話したいと言った事にドキッとするしたが。
ちょっと待って欲しい俺に必要な用事?
その木のバケツが?
今、灰色の髪の人が牢屋に入ってきて俺の前に置いたこのバケツが?
なんの冗談なんだ?
「じ、実はですね、私の魔法は自分で相手の記憶を読み取るのは特に難しくはないんですが。
他人に記憶を与えるというのが余り上手ではなくて少しの情報でも大抵の人は、吐いてしまうんです。
なので吐いてしまう時はそのバケツにお願いしますね。それでは、行きます!」
少し恥ずかしそうに言いセリティアさんは床に置いていた杖を拾って俺の頭を抑えて杖を俺の頭に置いた。
えっ?ちょっと待って……。
という暇のないような手際で俺は、目の前で置かれた木のバケツを取って俺の元に寄せるので手一杯だった。
バケツは他の転移者が使ったのを使い回しているのかゲロ臭い。ちょっとここは雑じゃない?そう思ったら頭に何か流れてくる。
知らない文字が大量に脳内に流れてきて、即座に強制的に理解させられる。
次第に気分も悪くなっていき……。
そして、遂に俺はセリティアさんに言われた通り。
「う、うっぷっ。お、おrrrrrrr」
バケツに吐いてしまった。