【33話目】 ユウトVSドサイその2
「ロックブラスト!!」
真っ先にドサイは岩の破片を浮かび上がらせ、飛ばしてくる。
先程より多くの数の岩が飛んできたのが見えた、それを真正面に見据え、ジン器である短刀を握りしめる。
体が自然と動き、岩がくる場所に短刀を置くように動かした。
飛んできた岩を短剣と風の魔法を使い、1つ1つ叩っ斬る。
全てを叩っ斬り、次は俺の番だ。
地面を蹴り、猛スピードで駆ける。
体中に力が溢れてくる、魔法が使えるようになったらこうも違うものか。
一緒でドサイのところまで飛び近づいた。
先程より速くなっていて、ドサイは反応出来てなく、顔面に強烈な蹴りをくらった。
「グフっ!!」
そして、短剣に魔法を重ねて首を切る……
俺の体が宙に浮きながら止まる、このまま切ったらこの男は死んでしまう。
この男は学園を襲撃してきて、レイナ達を危険な目に合わせようとした奴だ。
紛れもない、悪人だ。
でも、だからといって殺していい理由にはならない。
それに俺は人が死ぬところを見ている、あんな人が死ぬ光景はもう見たくない。
だが、俺が殺したくないと思っても相手が同じ考えだとは限らない。
攻めが止まったのを感じたドサイはチャンスだと思い戦鎚を振る。
それを2つの短剣でガードしようとするが、流石に武器の重量が違い、ガードした瞬間に衝撃で短剣は手から離れていった。
更に隙が俺に隙が生まれ、ドサイは追撃しようと戦鎚をふってくる。
とっさに灰色の短剣を魔性輪から出してなんとか防ぐ。
それでも重量差がかけ離れているのは変わらず、飛ばされるが安全に着地をとる。
ドサイは更なる追撃をしようとこちらへ走ってくるが、ドサイは自分の左右に違和感を感じて後ろへ飛ぶ。
ドサイの目の前を2つの物体が通った。
それは先程自分の戦鎚で吹き飛ばしたはずの黒と白の短剣だった。
そうこのジン器には2つの特性がある。
ユウトはその特性をジン器に触れた瞬間、すべて理解したのだ。
2つの短剣がユウトの手元に戻ってキャッチした。
ユウトのジン器の特性の1つ目は、さっき見せた通りジン器を手元から離して自由自在に操れる特性だ。
その特性を生かして奇襲を仕掛けたが、ドサイはその奇襲を避けられた。
ならば……
このジン器には2つの特性がある。
1つ目はさっき説明した通り、そしてもう1つは……
「接続……!!」
そう唱えた瞬間、黒と白の2つの短剣が合わさり形が変わる。
その形はまるで弓だった。
黒と白の短剣は灰色の弓になったのだ。
そして灰色の短剣は細長い、弓矢になっていた。
そうこれがジン器の2つ目の特性。
3つの短剣を合わせて、3段階の武器に変えるという特性だ。
1段階では短剣、2段階目は弓となっている。
弓を構える、狙うは足。
足に当て動きを止めさせて時間を稼ぐ。
矢を強く引く、その矢に風の魔力を込めてドサイに向かって放った。
矢は真っ直ぐドサイ目掛けて飛ぶ。
魔法の力がこもった矢は風のように速く飛んでドサイの足に向かう。
「当たるかぁ!!」
ドサイはその場でジャンプした。
矢を低く飛ばしたのが仇となったのかドサイがジャンプしている間に矢は通り過ぎてしまった。
ドンッッ!!
ドサイは力強く地面に着地する。
着地した後、ドサイは地面を蹴りこちらへ攻めてくる。
まずい……はやく避けないと……
「ぐっ……!!」
そう思った瞬間、手足に痺れが走って体が動かなくなった。
反動……!!たった一発打っただけでこんな動かなくなるのかよ……。
体が動かなくても構わず、ドサイは攻撃を仕掛けようと戦鎚を振り下ろそうとしていた。
戦鎚が振り下ろされそうになる瞬間、体がなんとか動くようになり後ろへ飛んだ。
しかし、戦鎚が地面に叩きつけられた衝撃が襲ってくる。
それでも体制を立て直し着地する。
その間にも放った矢を手元まで引き寄せた。
どうする?
弓はさっき見せて躱されてしまった、同じ手は通じないだろう……。
だとすると3段階目……2段階目であんな反動があったんだ、それより上だとどうなってしまうんだ……?
そうこう考えている間にも、矢が手元に戻ってきた。
やるしかない……。
覚悟を決め、ジン器である弓と矢を両手に持つ。
「接続!!」
弓と矢は合わさり、刃の長い1つの灰色の刀となり右手に持ち、上へ掲げる。
これが俺のジン器の最高形態だ。
この刀に全てを賭け、あいつを……。
ジュッッ!!
右手から何かが焦げたような臭いがする。
右手の感覚が何故かなくなっており、刀が手から落ちてジン器の形態が刀から短剣に戻った。
恐る恐る異変を感じている右手を見る。
腕は真っ黒、皮膚がズタボロになっており見るに堪えないような酷いヤケドになっていた。
「ぁが……あ"あ"あ"あ"!!」
ヤケドを見て動揺し、右手を押さえて絶叫する。
腕が下に垂れ、上がらなくなる。
だが、痛がっていてもドサイが止まる訳ではない。
真っ直ぐに躊躇う事なく、俺に近づく。
……これは死んだな。
右腕も体もズタボロ、額から血が流れているのも感じる。
恐らく、最初から魔法が覚醒していたらこうはならなかっただろう。
他の奴と一緒に戦っていたらもっと違う結末になったのだろう。
それでも、俺は1人でドサイに立ち向かった。
みんなが傷ついて欲しくなかったからだ。
けどそれはみんなを信用していなかったのと同義だ。
その結果がこれだ。
まぁ反省はしている、次があるならもっとみんなを信じてみよう。
次なんてないだろうが……
待てよ……なんでお前は諦めようとしているんだ神洞優斗。
過去の事、思い出せたんだろ?
それを伝えにいくんだろ?
なんで片腕がイカれたくらいで絶望しているんだ、お前はまだやれるだろ?
突如として、自分の中にいる自分ではない自分にそう説教される。
なんだよ……どうでもいいじゃんか……もう死ぬんだ、俺以外がどうなろうと……。
あぁ、そうだ死ぬんだからどうでもいいよな?お前の体がどうなろうと。
こいつはなにを……。
逃げるな!立ち上がれ!そしてお前だけにしか出来ない使命を果たせ!!
訳のわからない言葉、そいつはもう声をかけて来なくなった。
おかしな奴だ……でも……もう少しだけ頑張ってみるよ!
「ジン器……連続接続!!」
短剣が弓になり、そして例の刀になった。
刀を持つ右手が焼け、さらに黒く焦げる。
熱い痛い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
負の感情が湧いて出てくる、だけど踏ん張れ!力を振り絞れ!!
刀を振り上げて、渾身の魔力をこめる。
「魔力 最大解放 神風刀斬」
今出せる魔力のこもった刀を振り下ろす!
風の魔法がこめられた斬撃がドサイに向かって放たれる。
「なんだよその魔力……ストーンエッジ!」
驚きながらもドサイは地面から石柱を5本も出し、斬撃を防ぐようだ。
斬撃は真っ直ぐ、ドサイ及びドサイの出した石柱へと斬りにいった。
斬撃はドサイの出した石柱とぶつかり、1本2本3本と破壊しながら進んでいった。
いける……このままなら……体と魔力の限界で視界がぼやける、ぼやけながらも斬撃が石柱を4本、5本と破壊していくのがみえて、そして斬撃は……
「はぁはぁ危ないところだったぜぇ。」
斬撃は石柱によって進路をズラされてドサイのすぐ横を通り、ドサイには当たらなかった。
「これで……死ね!!」
汗をかきながらも、ドサイは両手に魔力を溜めている。
その両手には岩が集まっていく。
体がもう動かない、魔力もない……
これまでか、でも……かなり時間は稼げた。
ドサイが今から放とうとしている魔法はかなりの魔力がこめられており、魔力の消費がデカいだろう。
役目は果たした……もう疲れたな。
そして俺はゆっくりと倒れていく……はずだった。
倒れていく最中、ドサイの放とうとしていた岩の集合物がガラガラと音をたてながら、地面に落ちていくのが微かに見えてそして……
「よく、頑張ったね。もう大丈夫だよ。」
女の人の声が聞こえ、倒れるのが止まった。
聞いた事のある声、この声は確か……あぁ思い出した。
確か3年が遠征に行く時にバリオンが俺に戦いを挑んだ時にバリオンを止めていた3年の声……
あぁそうか、時間稼ぎは充分だったのか。
戦いは負けたが、時間稼ぎという勝負には勝った。
少し誇らしげに俺は深く意識を落とした。




