【32話目】覚醒
……どれくらいの間、気を失っていたのだろう?
気がついた時には地面で倒れていた。
どうやら少しの間、気を失って走馬灯を見ていたらしい。
とても嫌な思い出だった……けれど……。
その嫌な思い出と同じくらいとても大切な約束だった。
なんで今まで忘れてたんだろう。
あぁ、思い出したよ。
頭の中あった霧が晴れれたのを感じた。
そうか正義の味方か……。
俺が子どもの頃なりたかったのはそれだったのか。
─思い出せたら、私に教えてね。─
数日前の約束を思い出した。
そうだ、せっかく思い出せたんだレイナとの約束しに行かないと。
だからここで死ぬ訳にはいかない、生きてレイナに伝えに行かないと。
立ち上がる、体全体に激痛がはしるが気にせずに大剣を持つ。
まっすぐ敵を見る、相手は格上、俺が勝てる相手ではない。
だが、そんな事は諦める理由にはならない。
強く、ただ強く生きる事だけを考え大剣をにぎりしめる。
その時大剣から光が放たれる。
ドサイが戦鎚をかざしてこちらにはしって攻撃を仕掛けてきた。
ドサイは近づき戦鎚を振り下ろす、それに対して大剣をふり2つの人器がぶつかり合いそして……。
バキン!ガラガラガラ……
白く光輝く大剣がくだけて破片が地面に落ちる。
ドサイは丸腰になった相手を見て勝利を確信し、にやける。
けれど、俺は絶望してはいなかった。
だってこれは……。
ドサイの戦鎚が間近にまでせまり、俺の頭を潰そうとした時だった。
「ぐわぁ!」
ドサイは後ろに吹き飛ばされる。
今度はすぐに立ち上がり、ふたたび攻撃を仕掛けようとしたが、目の前にとあるものが見えドサイの動きが止まる。
ディーオンは魔法についてこう言っていた。
─死の淵に立たされた時に魔法が使えるようになるって話だ。─
その言葉を聞いた時、自分の魔法に心当たりを感じていた。
この世界に来た時、空から落ちてくる時に普通に呼吸が出来たこと、地面に激突する寸前に何かがクッションになったのも、レイナを助ける為に壁を破壊した瞬間に吹雪を吹き飛ばしたのも思えば魔法が無意識に使えていたのだろう。
今もドサイの目の前に出現して、俺の事を守るように周りを覆っているこの"風の壁"もその魔法の1つだ。
俺の魔法は風を生成し、自然に存在する風と自分で生成した風を操れる……風魔法だ。
そして砕けて落ちていた輝いている破片達が集まり、3本よ短刀が完成する。
1つ1つ色が違い、それぞれ黒、白、そして灰色の3つだった。
その3本のうちの白と黒の2本を両手に持った。
その瞬間だった。突如として、目の前の景色が変わった。
何もない荒れ果てた荒野、しかしそんな場所に1人の男が立っていた。
灰色の髪の男はこちらに顔を向けずにずっと前を、果てしなく続く先を見ていた。
体が動かせない、俺はただその場に踏みとどまっていることしか出来ない。
「ついに踏み入れてしまったか。……だが、踏み入れてしまったのなら後悔の無いように生きろ。」
そう言った男は前へと歩きだす。やがてその背中は遠く、姿が見えなくなる。
そして気がつくと目の前は学園へと戻っていた。さっきのはいったいなんだったのだろうか、それは今の俺にはわからない。
それでも、俺が今すべき事は!!
俺は風の壁を解除し、ドサイと真正面に向き合う。
さっきとは違う雰囲気の俺を見てドサイは一瞬、動揺したがすぐに戦闘態勢を取る。
さぁ第二ラウンドの開始だ。




