【31話目】過去
あれは確か8年程前の8歳の頃だった。
その時の俺は友達もつくらず、一匹オオカミを気取っていた。
はやめの思春期というものだ。
今にして思えばただ周りの人と接するのが苦手でそれを誤魔化すために強がっていたんだろう。
そんな俺によく話しかけてきて接してくれている女の子がいた。
その子とは小学校からのつきあいなのだが、何故か俺のことを気にかけてくれていたいわば幼なじみというやつだ。
最初は話しかけてきている彼女をうっとおしく感じていたのだが、だんだんと彼女と話していくうちに自然と打ち解けて仲良くなっていた。
なんなら俺は彼女の事が好きだった。
多分初恋というものだろう。
「ねぇ、ユーくんってば。」
今日はいつも遊んでいる近くの公園にいた。
彼女と俺は一緒にブランコに座っていた。
「ん、どうしたの?」
呼ばれて、それに応じるよう彼女の方を向いた。
「昨日のテレビ見てた!?凄かったよね!」
彼女はとてもウキウキで話しかけてくる。
テレビってなんの番組だ?
昨日のテレビと言われてもどんな番組があったかなんてあまり覚えていない。
「えっと、なんの番組のはなし?」
戸惑いながらも俺は彼女に聞いた。
なんの番組かもわからずに答えるのは失礼だと思ったからだ。
「えっ!?ユーくん見てないの?困ってる人を助けるみんなから正義の味方って言われてる人のはなしだよ!!」
彼女は昨日みた番組について熱弁に語る。
その目はキラキラに輝いており、それ程その正義の味方と呼ばれている人に心を奪われたのだろうか?
なんか悔しいな。
「あー!私も正義の味方になりたいな!」
そんな俺の気も知れず、彼女はワックワクで語る。
聞いた通り、これは子どもながらの夢。
いつか大人になったらきっと、こんな事忘れてしまうんだろう。
「そんなのなれるわけないよ。」
その頃の俺は子どもにしては酷く冷めていて彼女が語った夢もどきに対してなれない、と言った。
「そんな事ないもん!ぜったいなるの!」
俺の言葉を聞いても諦めるどころか更に火がついたかのように俺の言葉を彼女は否定する。
「……じゃあ、もしなれなかったらどうするんだよ。」
少しいじわるな言い方をした。
そんな俺の言葉に彼女は。
「その時はユーくんが私の代わりになってよ!正義の味方に!!」
いきなり無茶振りをしてきたのだ。
「いや、なんで俺が正義の味方にならないといけないんだよ。」
俺は彼女の提案に強く抗議する。
そもそもなれないって自分に言ってるやつにこんな提案するか、普通?
「だって、ユーくん私にはなれないって偉そうに言ってくるんだったら当然、ユーくんは正義の味方になれるんでしょ?
だから私が正義の味方になれなかった時はユーくんが私の代わりに正義の味方になって。
お願い。」
彼女はめちゃくちゃな事言ってくる。
そもそもなれないってのは現実的な話で、誰が"なれる""なれない"という話じゃないんだが……
さっきも言ったがこれは子どもながらの夢、なれるはずもなく、大人になったら忘れてしまう夢だ。
だが、
彼女の眩しい程に輝きを放っている目、その希望がたくさんつまっている表情をされると断ることができなくなった。
だから……仕方なく……
「はぁ……わかったよ、もしきみが正義の味方になれなかったその時は俺が代わりに正義の味方になるよ。」
と彼女のお願いを聞いてしまったのだ。
「本当!?ありがとうユーくん!」
可愛らしい笑顔をして、嬉しそうに彼女は笑った。
俺も彼女の笑顔につられて自然と笑顔になっていく。
「正義の味方になるんだから、人助けしなきゃね!」
「あぁそうだね。」
その会話がのちに"ゆうと"にとっての呪いになるとも知らずに。
その数日後休みの日だった為、ひとりで町の歩道を歩いていた。
昼だった為明るく、とても陽気な雰囲気で楽しい気分になった。
そんな時、車道を挟んだ向こう側の歩道にとある人物が見えるその人物は俺の幼なじみだった。
約束もしていないのにこんなところで会うなんてと思い嬉しくなって彼女に向けて大きく、笑顔で手をふった。
俺がいることに気が付いたのか彼女は俺の方を向いて手をふりかえしてくれて、歩道から車道にでてこちらへ向かってきた。
俺も嬉しくなり、手をふるのに夢中で周りが見えなくなっていた、それは彼女も同じだった。
俺達は遠くで車のエンジン音がなっているの気付いていなかったのだ。
目の前にきた瞬間だった、彼女の横にトラックが接近しているのに気付いたのは。
「まっ……」
とっさに彼女がこっちにくるのを止めようとした……けれどその行動は遅かった。
ほんの一瞬、トラックのスピードが速くなった気がした瞬間……
キキィィィィィ!!バカン!!
鈍い音がして彼女の体は赤い血を辺りにまき散らしながら宙を舞った。
グシャッ
と音を立てて彼女は地面に落ちた。
彼女だったものが辺り一面に広がっている。
彼女の脳は飛び出し、体はひしゃげ、道路のあらゆる場所に鮮血が飛び散っていた。
「キャァァァァァ!!!」
その光景を見ていた通行人が悲鳴をあげる。
その場にいた人達は、救急や警察を呼んだりしている人、轢かれた彼女に近づいて生死確認をしていた人は首を横にふった。
色んな人が色んな事をしている最中、俺はその場で立ち尽くして彼女が轢かれた道路を見ているだけだった。
泣きもせず、悲鳴もあげずただ見ているだけだった。
……俺だ……俺のせいだ……。
あの時、彼女に向かって手をふりさえしなければ、トラックが来るのにはやく気付いて彼女に教えていればあの子はこんなことにならなかったはずだ……。
あの子は……俺が殺したようなものだ……。
あの子は……そういえばあの子の夢はなんだっけ?
夢が叶わなかったら、俺になにするように言ってたっけ?
目の前の事故のショックからか、優斗の記憶が一部欠損する。
幼なじみの彼女の事、彼女を轢いたトラックに乗っていた男の顔も。
結局、彼女を轢いたトラックを運転していた男が逮捕された話は聞いていない。
─✖️✖️だから、人助けしなきゃね。─
なんだったっけ……なんだったっけ……。
俺が彼女を殺したんだ……なんとしてでも思い出さないと……。
俺が殺したんだ……俺が……俺が……。
─……殺したんだから、人助けしなきゃね。─
段々と頭の中でとある言葉が完成しようとしていた。
─私の事を殺したんだ、人助けをして罪をつぐなって。─
あぁ、そうかそういう事か。
俺はあの子を殺したんだ、だから俺はそのつぐないをしなければ。
人を……助けて俺は彼女を殺した罪をつぐなわなきゃ……。
その日から優斗は作り笑顔しか出来なくなってた。




