【260話目】 ゴルディン城内
「さて、罠には引っかかるでしょうか?」
「シニガミはどうかは知らない……が、ユウトは違う」
ここは都市ゴルディン、凶震戒が支配下に置いた都市の城内、その一室にて、2人の男が話しをしている。
1人は老人、もう1人は青年、十戒士のシルドとアーサーの2人だった。
「その根拠は?」
「サンスインで奴と一緒にいた時の経験からだ。奴は人を見捨てるなんて判断はしない、だからこの罠にも引っかかるだろう
そこを俺が倒す!」
アーサーはサンスインでユウトと過ごした時を思い出しながら、シルドに説明する。
ユウトの仲間を思う気持ち、それを理解しているからこそのこの手段なのだ。
「いえ、我々で倒すんです」
「彼はもう十戒士相当の実力を有しています。
ここに待機させた総勢25名の十戒士候補、そして我々十戒士4人、全員で確実に脅威を消すんです」
ユウトを誘い出す作戦、彼1人で来るのか、それとも仲間を連れてくるのか……
とはいえ何人で来ようとも、ディーオンが来ない限り作戦の変更はないし、その肝心のディーオンはこことパゼーレが離れている事を考慮してないと仮定している。
一度襲撃にあった自分の都市を放っておけるなんて、ディーオンはしないとしているからだ。
「そんな事は知らない、俺は奴が強い者になるのを待ってたんだ、思っていたよりもずっと早かったがな」
「はぁ……とにかく、勝手な行動は慎んでください」
十戒士の2人が多少の言い合いをしながらも会話をしている隣の部屋に、1人の少女がいた。
彼女の手足には、拘束具が付けられており、逃げる事は出来なくなっていた。
しかし彼女自身は、そもそも逃げる意志がなかった。
そんな彼女を見るように1人の男が立っていた、彼はブラッドハンドと呼ばれし十戒士の1人だった。
そんな彼の閉じていた口が開く。
「なんでボスの邪魔をした?」
その言葉は短く冷たい、表情は喜びでも悲しみもなく感情が読み取れず不気味であった。
「わかんない、でも……助けたかったから、ユウトを」
ユウト……会ったことのない、アーサーから少し話を聞いただけの男。
そんな男のために彼女は自身の地位を捨ててまで動いたのか。
それにその表情、自分が処刑される身だという事を理解した上で、それでも前までとは違う、どこか希望を抱くような、安堵しているようなおとなしい表情に内心戸惑う。
「…………死ぬまで、そんな幻想に浸っているといい」
そう言い放ち、ブラッドハンドは扉を開けて部屋の外へ出た。
彼は部屋から出たあと、扉に背をつけ深く息を吐いた。
彼女は自分の死でも受け入れてるのか?そのくらい、抵抗もせずに大人しく待ってるだけ。
本当に彼女はいつも自分に戦いを挑んできた少女なのか?
魔性輪の魔石も破損して、彼女が敗北したんだと察しはつく。
ボスは敗者を許さない、ましてやそれが自身の攻撃を妨害したという裏切りをしたとあれば尚更だ。
俺は……彼女に……
「おう!ブラッドハンド!!何してるんだ!?」
俺の心情には合わない大声が廊下に響き、俺に1人の男が近づく。
彼は十戒士の1人、大柄で筋肉質な体型の男マッチスであった。
彼の声量はいつでも大きく、耳をつんざくほどで少し声量を落としてほしいくらいだ。
「……別に、何も」
「おっ!ここはフレリアがいる部屋だな!さては裏切り者に罵声でも浴びせたのか?」
彼は俺の後ろの扉を見て、勝手に推測して言葉を続ける。
「まぁ魔性輪が壊れて、魔法が使えなくなって、さらにはボスに楯突いたんだ!こうなっても仕方ねぇよな!!」
彼はさらに言葉を続ける。
彼とはいつも話が合わない、だからこの場に留まり続けるのをやめようか。
「お前は確か都市の見張りの番だったな、なら俺が変わろう」
「おっいいのか?」
俺の提案に彼は興味を示す。
「あぁ、俺の魔法なら見張りに向いてる。そして何より……ここの地形は俺の方が詳しいからな」
「じゃあ頼むわ!見張りなんて暇なだけでつまんねぇからな!!」
彼からの了承も得られた事だ、すぐにその場を離れて外に出よう……フレリアのいる部屋の扉を少しの間、静かに見つめた後、俺はそのままその場を立ち去る。
外は風が吹いて、街では祭りのように住人が騒いでいる。
ここの統治者だった男はよほど嫌われていなんだろう、ここの住人は俺達の支配を受け入れ歓迎している。
今だって俺達がユウト達を嵌めるために張った裏切り者の処刑を心待ちにしているのだ。
「…………ここも変わったんだな」
城壁から街を見下ろしながら呟く。
人の醜さなんていつだって見てきたし、自分が醜くないなんて到底思えない。
それでも人の死で賑わう街の人間を見て俺は、嫌悪感が出てしまっていたのだ。
「何か、来ないものですかね」
城壁から都市の外を見る。
あたりは荒れ果てた荒野、ここに来るものなんて見てればすぐにわかる。
けれど何故だろう俺の心の中でフレリアを変えたユウト、彼が来るのを少しばかり待っている自分がいる。




