【258話目】 最強と最凶
ディーオンと凶震戒のボス、両者が睨み合う。
2人の魔力が互いを牽制し合うように、ぶつかりあう様はまさに圧巻。
誰も彼らに近づく事さえ許されないほど、濃い魔力が2人の周囲に張り巡らされる。
「まさか来るとはな」
「ワープ爺さんの魔力を感じてな、なら今はパゼーレに攻め込めないだろ?」
「なるほど、流石はと言ったところだ」
「いかがなさいます?」
ディーオンと仮面の男の会話の途中、ワープゲートが開き、シルドが現れ尋ねる。
「お前は待機だ、少し奴の実力を見る」
仮面の男がシルドにそう指示した後、戦闘体制をとった。
「さて、やるか」
それに対してディーオンも構える。
沈黙がしばらく続いた後……
「────!!」
真っ先に動いたのは仮面の男だった、彼は俺の時同様に何かを呟いた後、拳をディーオンへと振りかぶり向ける。
しかしその拳がディーオンへ届くことはなかった、仮面の男の拳が届く前に、仮面の男の脇腹をディーオンの拳が捉え、仮面の男はその衝撃で遠く飛ばされていく。
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ボスッ!!」
自分のボスが殴り飛ばされるのを見て、シルドは空を飛ぶ彼に叫ぶ。
仮面の男は少し離れた空中で止まり、まるで地面に立っているかのように立ち、こちら……ディーオンを見下ろしていた。
「硬い感触、何かしたな」
そんなディーオンは、仮面の男を殴った手を見て呟き、その後すぐに仮面の男に視線を戻す。
「防御が間に合わなければ、終わっていたな。だが……これはどうだ?」
仮面の男が先ほどと同じような、魔力の球を生成する。
しかも1つだけではない、十数個ほどの球が仮面の男の周りを回るように浮く。
そして仮面の男が、指をディーオンへと向けた瞬間、彼の周りにあった球が一斉に、それも様々な方向に回りながら、ディーオンへ襲いかかる。
接触するタイミングも、場所も違う攻撃に対してディーオンは、特に変わった行動を取らない。
ただその場で戦闘の体勢を取ったまま、襲いくる球を待ち構えていた。
そして魔力の球がディーオンへと接触しようとした時、ディーオンは軽く球を受け流しては別の方向へと攻撃を跳ね返していた。
1つだけではなく、襲いかかるすべてに対応するように速く、そして正確に球を弾き返す。
弾き返すだけでも凄いのに、ディーオンは意図してなのか、魔力を球を誰もいない場所に向かって跳ね返しているようで、跳ね返った魔力は誰にも当たらずに1つ1つ、確かに消えていく。
そして残りわずかとなっても、球の突撃は続……かなかった。
ディーオンが球が来る、ちょうどで対処しようとした時、球はピタッと止まって動かなくなりディーオンの攻撃がギリギリ届かなかった。
それは他の球も同じ、ディーオンのすぐ近くで止まる。
「さぁこれはどうだ?」
仮面の男がそう呟いた瞬間、魔力の球はディーオンの周りですべて光る。
これは……!!
「ディーオン!!」
俺の叫ぶ声も虚しく、仮面の男が放った残りの魔力の球はすべて爆発する。
1つ1つがダイナマイトのように爆発し爆風があたりに巻き上げ、その場に砂煙を起こす。
あの爆発をまともにくらったらいくらディーオンでも……
「……で?これがしたかったのか?」
絶望しかけた時、砂煙から声が聞こえて砂煙が消える。
そこにいたのは……ほとんど傷を負っていないディーオンだった。
あれほどの爆発をくらってもものともしないディーオンを仮面の男は静かに見て……
「やはりまだ、この男を相手にするのは無謀のようだ。帰るぞ、シルド」
そんな光景を見た、仮面の男はシルドにそう命じる、帰る……?こんなにあっけなく、凶震戒のボスが撤退を。
それほどまでにディーオンとの戦闘を避けたがっているというのか?
「逃すと思っているのか?」
しかし彼らがディーオンに勝てないという事は、ディーオンが彼らに勝てるという事。
そんな好機をディーオンが見過ごすはずはない。
彼は拳に魔力を蓄える。
「そう来ると思っていた、だがお前のその魔力……ここにいる奴ら全員を巻き込むことになるぞ?」
仮面の男は揺さぶりをかける、ディーオンが拳に蓄えてる魔力……見ただけでわかる、あんなの放たれたら多分、ここにいる全員無事では済まない……
だが……
「少数の犠牲でお前を殺せるのなら、惜しくはない」
ディーオンは真っ直ぐ、仮面の男に向かって言い放つ。
あぁそうだ、ここで凶震戒のボスを倒せれば、頭を失った凶震戒への対策も出来るようになる。
至って合理的なやり方だ。
「やってみろ……シルド、もってこい」
仮面の男がそう言い、ディーオンが拳に溜めた魔力を放とうとした時だった、仮面の男の前にワープホールが展開され、そこから1人の男が出てきて仮面の男に掴まれる。
「な、なんだ!?」
彼はさっき仮面の男の魔力の球で倒されていたうちの1人、ここにきて仮面の男は人質を出してきたのだ。
「……!!」
一瞬、ほんの些細な一瞬、人質を出された瞬間ディーオンに躊躇いが生じ、攻撃の手が止まった。
「やっぱそうだよな!?どんな大層な綺麗事を並べようが、味方を殺すのは躊躇うよな!!?」
その一瞬の隙に、仮面の男は持っていた人質を手放し、シルドが生成したワープホールへと入りながら、さっきまで礼儀正しそうなキャラから一変した。
「おっと失礼……思わず」
「……本性表したか」
「まぁ私はこれで失礼するとしよう。お前の弱点も少しは出たからな、収穫はあったよ」
そう言いながら、仮面の男はワープホールへと入っていく、そしてそんな彼の手には……
「ちょっ……お父様!離して……」
フレリアの首が掴まれており、彼女は少しながらの抵抗を見せていた。
「お前の処遇は帰ってから話す、ただで済むと思うなよ」
仮面の男のフレリアの発言……それを聞いて俺は嫌な予感を募らせ、なんとか立ちあがろうとしていた。
「ま、待てっ!!」
「お前らには最後にちょっとした、お土産をやろう。感謝しろよ」
そう言って仮面の男はワープホールへ消える、そしてその次の瞬間、空が何かに覆われて暗くなる。
「なっ……」
全員が空を見上げて絶句する。
何故ならそこにあったのは……俺達に迫ってきていたのは超巨大隕石だからだ。
大きさ的には下手したら1つの都市を簡単に破壊できるほどの大きさ!
あんなのが落ちてきたら、生きてる連中は全員死ぬ!!
その場にいる全員が死を悟る。
しかし1人だけは違った、最強の男は静かに立ち、拳に魔力を溜めていた。
「全員、衝撃に備えろ」
ディーオンがその場の人間に命令する。
衝撃に備えろと言ったっていったい……そう思った矢先にディーオンは地面を蹴り、隕石へと真っ直ぐ飛ぶ。
魔力を蓄えしその拳が、そのまま隕石へと直撃し、あっけなく隕石が細かく破壊される。
そして俺達を襲ったのはディーオンの拳と隕石の衝突による衝撃波。
それあまりにも強い衝撃の中、俺の意識は静かに闇へと沈んでいった。




