【24話】吹雪に挑む
「レイナを助けに行くって……あの猛吹雪の中に行くってのか!?無理だ凍死するぞ!」
デイは俺の言葉に対しての反対意見を言う。
確かにデイの言う事は正しい、俺があの吹雪に突っ込んで行ってもすぐに凍死するだけだろう。
例え魔力で体を覆ってもこの魔力量、長時間は保たないだろう。
それでも、俺は……
「そんなのはわかってる!だけど……このままレイナを見殺しになんて出来ない!!」
このまま魔力を消費し続けたらレイナの命を失う、だから俺はレイナを助けに行かなければいけないのだ。
たとえ、俺自身が命を失う事になっても……
「だからって……お前が行かなくても……他に助けられる人を待ってからでも……」
デイは俺を説得してくる。
けれど、俺はそんな言葉で止める事は出来ない。
「今、この学園は遠征の影響で教員が少なくなっている、残っている教員の中でレイナをすぐに助け出せる人がいると思うか?」
俺はそうデイに言う。
今こんな事を言い合っている間にも、レイナの魔力は無くなっている、これからレイナを助け出せる人を探せたとして、レイナが死ぬまでに助けられるかどうかはわからない。
他の人に頼っている事に時間を使うよりも俺が死ぬの覚悟で行ったほうが時間が少なくて済むかもしれない。
わかっている、こんなのただの俺がレイナを救いたいというわがままだってくらい。
俺があの時、早くレイナ達の異変に気付いていたらこんな事にはならなかった筈なんだ。
「そ、それは……」
俺の問いにデイが言葉を詰まらせる。
「行かせてくれ、俺にはこんな事しかやれる事は無いんだ。頼む。」
俺はデイにそう頼むように言った。
デイは何か心配して言いたげ顔をしたが、それを堪え少し笑顔つくった。
「わかった!行って来い!だけど……」
デイは俺の提案に了承する。
更にデイは何かを言おうとした。
「俺にもレイナを助けるのに協力する。」
デイが俺に提案をしてきた。
「きょ、協力って……お前なにするつもりだよ、お前もあの吹雪の中に入るってのか?
そんな事してこの2人はどうするんだよ。」
俺はデイにそう言った。
デイが俺と一緒に行くと、吹雪の近くで倒れている2人の安全が取れないからだ。
「勘違いすんなよ。俺はあの吹雪に突っ込む勇気は……ねぇ……
だけど、俺の魔法であの吹雪を一時的に吹き飛ばしてお前の道をつくる事は出来る、まぁこの強い魔力で出来た吹雪だ数秒しか保たねぇだろうがな。だから後はお前が頑張れ。」
デイは自分が考えた案を俺に伝えてくれた。
確かにデイの魔法でサポートしてくれるのなら多少、レイナを助けられる可能性が高くなる。
「そうか、そういう事か。あぁ、わかったぜデイ、頼んだ。」
デイもレイナを助けたい、そう感じた俺はデイの案を飲んだ。
俺達はレイナを助ける為に吹雪に更に近づいた。
デイと俺は魔性輪を構えて、人器は出さずに魔法が使える状態にした。
人器を出したままだと早く動けないからだ。
「最大火力をあの吹雪にぶつける!ちゃんと後に着いて行けよ!」
俺の少し後ろにいるデイは両手を前に突き出し魔力を溜めながら俺に言った。
バチバチとデイの両手から雷の轟音がしている。
「あぁ、まかせろ!」
俺はデイにそう一言返す。
待ってろレイナ、今からお前を助けに行く。
「いくぞ、ユート!覚悟はいいか!」
魔力の溜めが終わり、デイが俺にそう覚悟を聞いてくる。
覚悟?そんなのは決まっている。
俺はデイの方を向き、首を縦に振る。
いつでも大丈夫だ!
「最後に一つ言っておく……絶対2人で帰って来いよ。」
デイから俺に対しての頼みだ。
俺もデイに頼みを聞いて貰ってるんだ、俺だってデイの頼みを聞くのは当然だ。
俺は親指を上に立て、グッドポーズを立てた。
それを見たデイは安心そうな顔をする。
そして……
「ボルテックスサンダー!!」
デイが技名を叫び、後ろから凄い魔力の篭った電撃が来て、俺の横を通り過ぎ、電撃が通り過ぎた瞬間、俺は吹雪へと駆け出した。
そして俺はデイのボルテックスサンダーと共にレイナがいる吹雪へと入って行った。
デイのボルテックスサンダーがあって、吹雪に足を止められずに進める事が出来て、このままレイナの元へ辿り着けるそう思ったが、そう上手く物事が進む筈がなく。
吹雪に突入してから数秒が経ち、前を進んでいた電撃が次第に小さくなっていき。
遂に電撃が消滅した。
電撃が消滅した瞬間、吹雪が俺の体を襲う。
一瞬にして俺の足元に多くの雪が積もって、俺の足の動きが遅くなる。
更に風と雪により俺の体温が奪われていく。
雪はあっという間に俺の膝まで積もった。
それでも俺は足を止める事なく、一歩ずつ足を前に進めた。
デイから託された頼みがある、俺自身がレイナを助けたいと願っている、こんなところで足を止めて何になるっていうんだ。
そう自分を奮起させて足を前へと進めた。
目の前は吹雪しか見えなく、視界が悪い。
けれど、この吹雪の中に魔力が濃い場所があると感じる。
恐らくレイナが最初に出していた半透明の壁だろう、俺はその魔力を頼りに進んだ。
しかし……
全身がしびれるような痛む。
この吹雪に少しいただけなのに、既に凍傷になり素肌が赤くなっていき、もう寒さなんて感じなくなっていた。
魔力を纏ってガードしていても、この濃い魔力の中では効果が薄いようだった。
あと少し……あと少しで魔力が濃い場所に着く。
しかし体の感覚がなくなっていき、意識が段々と薄れていく。
ダメだ、こんな所で寝てしまったらマジで死んでしまう。
俺がこんな所で死んだらレイナまで死ぬ。
そんな事は絶対に許されない。
レイナは俺より辛い目にあっている、だからこそ俺がここで諦める事は出来ない。
さっき短刀で刺された傷も治療しに行かなければ……傷……。
そうか、そうすればいいのか。
俺は手に纏っていた魔力の形を変えて、刃状にして……
腕を魔力で切り、傷口からは血が流れた。
腕を切った痛みに吹雪が傷口に染みて、更に痛みが走り、薄くなっていた意識が戻る。
意識が戻り、俺は魔力を傷ついた手に集めて傷口を塞いだ。
まだ行ける。
そう思い俺は段々と足を前に前へと出す。
もう優斗の体は既にボロボロ、意識もハッキリとしておらずいつ倒れてもおかしくはない状態だった。
それでも優斗の足は止まる事は無く、赤くなった手を前へ突き出して手探りで壁を探す。
そしてようやく。
俺の手に固い感触を感じた。
遂にレイナがいる壁へと辿り着いたのだ。
俺は残る力を振り絞って声を出した。
「レイナ……そこに……いるのか?もう……大丈夫だよ……帰ろう……」
喉がダメになっており、大きな声が出せず、掠れ声になっていた。
俺は壁に顔を近づけて、中にいるレイナにより聞こえるように話す。
レイナにこの声を聞こえているのかなんて、殆ど賭けだった。
「……ユートなの?」
壁の向こうから声が聞こえた。
聞き覚えのある声、レイナの声だ。
「レイナ……大丈夫か?もう大丈夫だ……さぁ帰ろう……」
俺はレイナに帰ろうと言う。
これでレイナが吹雪を消してくれてこの件は解決だ。
そう思っていたが。
「……私は……帰らない。」
予想外の返しが来る。
「ど、どうして……」
限界が近い、だから俺は若干急ぐようにレイナに聞く。
「わ、私は……さっき刺されて……ユートも見てたでしょ……私は……みんなから……嫌われて……私がこんな魔力を持ってるから……」
レイナは掠れた声で俺に言う。
声を聞くだけでレイナが泣いているのがわかった。
だから俺は少しでもレイナの悲しみが取れるような事を言う。
「大丈夫……俺が付いている、俺が……君を……」
レイナが安心出来るようにと、そう思っての言葉だった。
だけど俺の言葉は途中で遮られる事になる。
「ユートには私の気持ちなんてわからないよ!私がどれだけ魔法の事で悩んで、辛い思いをしているかなんて!いっつもユートは私に優しくしてくれるけど、私の辛さを知らない人にそんな事されたって嬉しくない!」
レイナの心の叫びが俺に突き刺さる。
俺はレイナの本当の辛さに気付けていなかったのか。
何が"レイナを助ける"だ。
レイナがこんなに辛い思いをしているのに、それに気付いていなかった俺がレイナを助けられるなんて図々しいんだ。
でも、それでも俺はレイナを助ける。
たとえレイナから拒絶されていても、レイナの辛さがわかっていないからといって助けないなんて選択肢は俺には出来ない。
俺はレイナを助けて、レイナの辛さに向き合ってレイナを本当に助ける。
その為にはこの俺とレイナを隔てている壁が邪魔だ。
俺は人器を出す。
人器を両手に持ち、振り上げた。
「……レイナ……少し離れていてくれ。」
俺は壁の中のレイナに語りかける。
「ユート何するの!?」
レイナの驚く声が聞こえる。
「君とちゃんと話したい、だから……この邪魔な壁をぶった斬ってやる!」
レイナの問いにそう答える。
人器に今あるだけの魔力を込める。
……絞り出せ!俺の全てを!!
俺は今ある全力を込めて、人器を振り下ろし壁をぶった斬る。
壁にヒビが入り、壁が割れていく。
簡単に壁が壊れたと思うが、壁と人器がぶつかる少しの間だけ優斗は魔法を使えていたのだ。
しかし、この魔法が使えたという事実に優斗は気付いてはいなかった。
壁が破壊さた瞬間、中庭にあった吹雪は吹き飛び、無くなっていた。
そして、壊れた壁の向こう側からレイナが現れる。
レイナは両膝をついて腰を落としていた。
その目には涙が流れている。
俺の体は既に限界をむかえ、立っているのがやっとだった。
それでも、俺はレイナに近づいた。
「どうして……どうしてそこまでして私を助けるの!?私なんて……私なんて……」
レイナは俺を見るにそう言った。
「君は、優しい人だ。だから俺やデイは君に死んで欲しくないんだ。だから俺は君にどう言われようとも君を助けるよ。」
レイナは俺に勉強を教えてくれた。
それによくわからないけど、レイナと一緒にいるとなんか楽しいんだ。
だからレイナには笑って欲しいんだ。
俺自身がレイナを助ける理由なんてそれだけだ。
レイナに近づきながら俺は、人器を離そうとする。
けれど、人器と俺の手はガッチリくっついており、離れなかった。
あんな寒い吹雪の中、金属を素手で触っていれば当然こうなるだろう。
そんな事気にしている場合じゃない、そう思った俺は人器から手を無理矢理剥がす。
ブチブチブチ
手の皮が剥げる音が聞こえた気がしたが、それを気にすることなく、レイナに近づく。
俺はレイナの前に来て両手を広げる。
そして、そのまま。
ギュッ
レイナを抱きしめた。
「君は1人じゃないよ、俺がいる。もし辛くなったら俺が助けてやる。だからレイナ、もう1人で背負い込むな。」
俺はレイナに優しく、そう言った。
レイナの目から涙が溢れ、レイナは俺を抱き返す。
「……ほんと?ほんとにユートは私を傷つけない?私を助けてくれる?」
レイナは泣きながら言う。
「あぁ、俺が君を死んでも守るよ。」
俺がそう言った瞬間、レイナの泣き声が辺りに響いた。
俺は意識が遠のいていって、レイナの泣き声を聞きながらゆっくりと目を閉じ、意識が途切れていったのだ。




