【230話目】 王城 グラナドザンラ
深層の沈没都市にそびえ立つ大きな城にユウトとフレリアの2人は入ることに成功していた。
一息つく……なんて余裕はない、この場には魔獣がいないが遭遇する可能性もある。
だからこそ2人は早々に上へ上がる為の階段をそれぞれで捜索し始める。
正直2人ともすぐに階段が見つかる……と思ってはいた。
けれど、一階に存在するのは昔使われてたであろう部屋ばかり……
古びてカビだらけのキッチン、濁った水が溜まっている浴場、そして昔は威光があったであろう玉座の間……他にも様々な部屋が存在しておりそれらを探すも上に行く為の階段は見つからずに悪戦苦闘していた。
そもそも天井をぶっ壊して無理やり行こうか……いや、下手に壊したら下層に続く道にも影響が出そうだしなぁ……
「ねぇお兄ちゃん!」
かなり城内を探索するも階段が見つからずにうーん……とうねり声をあげているとフレリアが何かみつけたようにこちらに来ていた。
俺は彼女の声の方に向かっていく。
そこにあったのは…
「これは……」
上とは逆の下に続く階段が不気味な雰囲気を漂わせながらあった。
上に行く階段はないが下に続く階段はある……何か意味があるのだろうか……
まぁでも上に行く階段は見つからないし……ひとまずは地下?にでも行って探したほうが何かわかるかもしれない。
急がば回れというやつだ。
「ひとまず行ってみるか」
「うん!」
フレリアに声をかけて俺達は階段を下って行った、ひんやりとした風が肌に触る。
涼しい……という他に不気味でちょっとした怖さすら感じる。
そんな階段を降りたら地下空間……壁や天井には苔が生えてジメジメとした空気が全身を包む。
当然ではあるがパゼーレやサンスインの地下牢よりも雰囲気的には陰鬱でなんだか足取りも重くなりそうだ、早く抜けなきゃ。
そうして地下捜索が始まる。
地下空間の広さはさっきと同じくらいか?
さっきと同様に手分けして階段の手がかりを探す。
「……ん?」
探索中、気になる物を見つけた。
部屋の中心に置かれた台座……その上には本が飾られていた。
この地下空間の湿気だとかで本来なら読めないはずの本……けれどその台座に置かれた本はまるで新品のように綺麗だった。
魔法……?誰かが残したくて本に魔法をかけていたのだろうか?
それほどの価値がこの本に?
少しばかり気になって本に手を伸ばす。
「ぐっ……」
本を取ろうとした右腕が痛む、骨が砕けてるのだから当然か……また魔力で無理やり動かして本を取って開いた。
『初めまして、今を生きる者たちよ』
語り書きはこんな感じだ。
『私は都市 グラナドザンラの第一王女メリネ・グラナドザンラです。
結構偉い人なんですよ。
この本が見れてるということは!私の死ぬ直前の魔法が成功して貴方の時代まで続いたという訳ですね、やった〜!』
この都市の名前……そしてそこの王女。
なんかこの人最後ちょっとテンション高いな……
続きを見よう。
『初めに言っておくとグラナドザンラはほとんど滅ぼされちゃってます、それもたった1匹の突如としてあらわれた黒き厄災によって』
ここで気になる言葉が飛び出した。
黒い厄災……ただの色だけの情報だが、たった1匹で都市を滅ぼす……そんな魔獣が多くいてたまるか。
『あの厄災名称をどうしましょうか……ブェイオン!どうでしょうか!可愛らしい名前!これなら滅ぼされても多少はゆるせそうです。
あっやっぱ嘘ですやっぱり許せません』
いや何1人で言って1人で突っ込んでるんだ?
そう疑問に思いながらもページを捲る。
『ブェイオンは強く、その黒き爪は全てを切り裂き。黒き尻尾は全てを貫く。
黒き装甲は全ての攻撃を拒み、その咆哮はまるで絶望の鐘の音。
そして都市に響く無数の悲鳴。
いくらグラナドザンラの兵士や魔法使い、私達が作ったこの土地を護るためのポープランウェイちゃん達を駆使しても厄災は全てを破壊しては去り、再び来てはまた破壊の虐殺の限りを尽くしました』
その特徴はまるで俺達が戦った黒い魔獣の事だった。
それに何かラクガキのようなイラストが載っており中層で苦戦して下層や深層でもみたことあるような感じの姿があった。
ひとまず先を読もう。
『それでも私達は諦めませんでした、ブェイオンを倒すべく対抗する為の兵士を作りました。
その名も四大守護騎士兵!彼らは全てが魔力で構成された兵士達、強さも申し分なし!
後はブェイオンと戦わせる……だけだったんだけどね』
『ブェイオンによって力が弱まった都市を他の都市が無視するはずもなく、近隣の都市から攻撃を受けグラナドザンラはきっと滅びます。
……さっきブェイオンが滅ぼしたって書いたのに滅ぼしたのは近隣都市か〜い!って思ったかもしれませんが、まぁ実質的に滅ぼしたのはブェイオンなんで……そこは見逃してください(テヘペロ)』
『有益な情報なんて一つとしてありません……四大守護騎士も貴方達の時代まで残ってるかなんてわかりません……けれどこの本を読んでる貴方にお願いをしたいのです』
『どうか……ブェイオンを殺──』
本はここで途切れている、本というより日記と呼ぶべきそれは確かになんの情報もなかったけれど……それでもあの魔獣はこの都市に住まう人も殺してたんだと思うと心が締め付けられた。
あの魔獣……ブェイオンは俺が……
「ねぇねぇお兄ちゃん!!」
フレリアの呼ぶ声が聞こえた。
また何か見つけたのだろうか?俺はこの都市の意志が込められた本を持ちながらフレリアへと向かって行った。
「まさかこんなところにあるなんてね〜」
フレリアが見つけたそれは……上に登る為の階段だった。




