【22話目】休日
このパゼーレ魔法学園で初めての休日がやってきた。
俺はレイナに誘われて出かける事にした。
メンバーは、俺・レイナ・デイといつの間にかついて来ていたヴァーリンにパートリーの5人だ。
その5人で街へと出かける事になった。
学園の寮から5人で街へ行く間、誰も喋らずに歩いていた。
それもその筈、少なくとも俺・レイナ・デイだけならまだ話せたが、今日は何故かヴァーリンにパートリーもいる為、空気が悪い。
いや、なんでこの2人はついて来たんだ?
そんな事を考えていると俺達は街へ着いた。
「やっぱ凄いなここは!」
街には店の宣伝用の魔法や、道化の様な格好をした人が魔法を使って見物人を楽しませているのが見えた。
一度は目にした光景だが、まだ見慣れない光景に色んな所に目が移りながら、俺はそう言った。
「私もこんな凄い場所ははじめて。」
レイナが感激したように語る。
「ん?あなたはここは初めてですの?」
レイナの言葉を聞いて、ヴァーリンが不思議そうに聞いた。
「うん、私この近くのカナルから来たからこんなところははじめてなんだ。」
カナル?初めて聞く単語だ。するとデイが。
「レイナは独立集落の出身か。」
「うん、そうなんだ。」
独立集落、その単語には聞き覚えがある。確か何かしらの事情があって都市の外に住んでるっていう。
そんな独立集落の話で盛り上がっていると。
「珍しい組み合わせだね、どうしたの?」
1人の女子が俺たちに話しかけてきた。
その女子は俺達と同じく、魔法学園に通う1年のユインだった。
「どうしたんだ、ユイン?」
確か彼氏がいるとの噂だったが1人なのか……と思ったが後ろの方から男が近付いて来た。
「あ、うん!私と同じ1年の子だよ!」
ユインはそう笑顔で来た男に言った。
どうやらこの男が噂の彼氏らしい。
確か2年のノルトだっけか。
「そうか、それより他に行きたい場所とかないか?」
ノルトは俺達に一目見た後、すぐにユインの方を見て次に行く場所を聞いていた。
「私、この前ノル君が言ってたお店行きたいな〜」
ユインはノルトの腕にくっついて、そうねだる様にお願いをした。
めっちゃイチャイチャしてるのを見せつけられてるじゃん、なんか悔しい。
「そうだ、お前達も一緒に来ないか?」
ユインに腕を抱き付かれながら、ノルトは俺達に向かってそう言った。
こいつマジかよ……
普通デート中に他の奴誘うのかよ、正気か?
多分、ユイン含めてこの場にいるノルト以外の人が困惑しているだろう。
だが、困惑している俺達にお構いなしにノルトは。
「どうした?早く来いよ。」
と急かすように言った。
さ、流石にデートに水を差す様な真似は出来ない。
ここは断った方が吉だろう。
そう思って俺は断ろうとしたが。
「ノ、ノル君もそう言っているし、みんなも一緒に行こっ。」
ユインがノルトの案に同意した。
しかし、ユインの表情は笑顔であったが、やっぱりノルトと2人っきりで居たいのか、悔しいのを我慢しているような声だった。
このままじゃ不味い。
早くこの誘いを断ら……
「いいですわね、皆さんも着いて行きましょうか。」
ヴァーリンはそう言ってノルトの方へと歩いて行った。
ざっけんな馬鹿野郎!
これじゃあもう断る事出来ねぇじゃねぇか。
そんな事を考えていると、後ろから肩を叩かれた。
「諦めろ、俺達の判断が遅かったんだ。」
デイが耳元で小声で言った。
確かに俺の判断が遅かったのが悪い。
もう腹を括って着いて行こう。
ここで下手に断った方が後々不味い事になりそうだ。
「で、ではお言葉に甘えて。」
そう言って俺達はノルト達に着いて行ったのだ。
ノルトは歩いている最中、街の様々な店について教えてくれた。
書店や雑貨屋などノルトのオススメなところを教えて貰った。
どこにどんな店があるかを知れたのは結構良かったし、雰囲気も最初の5人の時に比べればマシになった。
ユインの機嫌が悪く、空気が悪い事以外は。
そんな空気の中、俺達はノルトとユインが2人で行く筈だったオシャレなカフェへと入って行くのだった。
この人、本当にユインの彼氏さんか?
そう思う程にユインの態度が悪くなっていく一方だった。
店の中に入ったのはいいが、流石に7人も入りきる筈が無く、4人と3人で別れて座った。
割り振りは、4人のところに俺・レイナ・ノルト・ユイン。
3人のところはデイ・ヴァーリン・パートリーで近いところに座り、俺達はノルトがこの店でオススメしていたスイーツを注文し、しばらく待つ事にした。
3人席の連中、全く接点ないやん……
しかもヴァーリンいるやん、デイ大丈夫か?
俺はデイの方を横目に見ながら心配をする。
いや、他の連中の心配をしている場合じゃない、俺達4人席にもユインというとんでもない地雷がいるんだった。
気を付けないと、いつ爆発するかわからないぞ。
しかし嫌な予感というのは当たるのが定番というもので……
注文していたスイーツが最初に1つ来て、先輩にこの店を勧めて貰ったお礼も込めてノルトに譲った。
そしたらだ……
「これめっちゃ食い難いな。」
スイーツは少し大きめで切りづらく、食べ難いのか、ノルトは食べるのに手こずっている。
「よ、よかったら私、切り分けましょうか?」
食べづらそうにしているノルトを見かねて、レイナがスイーツを切り分けようかと、尋ねる。
レイナなりの気遣いなろだろう。
「マジで!?お願いするよ。」
ノルトはいきなりテンションが上がって、嬉しそうにレイナに切って貰うように頼んだ。
いや待て、違うだろ。
そこは普通、隣にいるユインに頼んだ方がいいだろ……
まぁレイナからの気遣いだから仕方ないとは思うけど。
それでもお前、レイナの逆サイドに座っているお前の彼女の顔見てみろよ、凄い鬼の形相だぞ。
俺もう知らねぇ……
俺はユインとノルトの事について触れないようにする為目線をレイナにズラした。
少しに苦戦しながらもスイーツを食べ易いように切り終わって少しホッとしたような顔をしてそれを見た俺もホッとなった。
そして俺達全員分のスイーツが来たので、食べる事にした。
ノルトが言ってた通り、スイーツは多少食い難かったがそれでも甘くて口に入れた瞬間に舌の上で溶けていく食感は相当俺好みで、美味しく頂けた。
「そういえば、お前達学園を卒業したら何かやりたい事とかあるのか?」
先にスイーツを食べ終えたノルトが俺たちに向かってそう問いかけてきた。
卒業したらやりたい事か……そうは言っても、俺は一年で元の世界に帰る予定だからこの世界でのやりたい事を考えても特には意味がないのだが、それでも元の世界に戻っても高校を卒業した先の進路を考えなければいけないから一応何か考えなければいけない話題だった。
「俺はパゼーレの騎士団に入団希望です。」
真っ先に言ったのはデイだった。
パゼーレの騎士団……ディーオンが騎士長を務めているところだ。
そういえばデイのお兄さんは騎士団に所属しているって聞いたことがある、それ関係だろうか。
「私はウォルノン家の次期当主になる為にウォルノン家で様々な事を習いますわ。」
次に言ったのはヴァーリン。
ヴァーリンはウォルノン家というパゼーレでも上位の家系で確か1人娘、必然的に次期当主は彼女になるという流れのようだ、その為の準備を学園卒業後に行うのだろう。
「ぼぉくは、研究者になりたいでぇすね。
学園卒業後は自分だけの研究室でも建てて、色んな事を実験したいですぅね。くふふふふ。」
パートリーはそう卒業後の進路について語った後、不気味にも笑った。
パートリーについてはあまり知らないが、まぁその実験というのには関わりたくないな。
そんな感想しか頭には出なかった。
「んで?お前ら2人は?」
3人の進路を聞いた後、ノルトは俺とレイナを見ながら話を振ってきた。
やりたい事か、そんな事特には思いつかないな。
前には何かそんな感じのものがあった気がするが、その事に関しては頭の中に霧がかかっているようで思い出せそうにない。
そもそも、ノルトは何故こんな事を書いてきたのだろうか?
そっちの方が気になった。
「私は……特には決まって無いんですが、人の役に立てる事がしたいと思います。」
そんな事を気にしている俺の横でレイナが自分のやりたい事について話した。
前の3人に比べると、ふんわりとした内容だった。
まぁ、特になにも決めてない俺が言えた事では無いが……。
「そうか、そっちのは?」
ノルトが俺の方を見る、それに釣られて他の奴らも俺に目線を向けた。
こんなに見られたら、ひとまず何か話しておこう。
「俺は……特にやりたい事は今はないですね。」
俺はそう言った。
「そういえばお前は異世界出身だったな、いつ帰れるかとか決まっているのか?」
ノルトは俺が異世界出身という事実を確認して、いつ元の世界に帰るかを聞いた。
そんな事を聞いてくるということはノルト達はゲートが開く周期とかは知っていないのだろうか。
本当は一年だが、ここは……
「えーと、まだいつ帰れるかは決まってませんね。」
俺は嘘をついた。
下手に本当の事を言って、レイナ達を困惑させるような事を避ける為だった。
「そうか……はやく帰れるといいな。」
ノルトは俺に優しく語りかけた。
その後も色んな話をしながらスイーツを食べる。
全員が食べ終わった頃には夕日が出ていたので、今日はこれで解散という事になった。
予想外な事が結構起きたが、こうして終わってみると中々楽しい休日を過ごせたと思う。
あの店を教えてくれたノルトには感謝だ。
そんなノルトはユインと共に別の場所へ行った。
パートリーは欲しかった参考書があると言って書店の方へ行った。
ヴァーリンは何か気になった物を見つけたとか言ってどこかへ行ってしまう。
デイもデイでどこかへ行ってしまい、寮への帰路には俺とレイナの2人だけになってしまった。
いきなり2人っきりになって、少し気まずくなって俺達はあまり会話をしないまま歩いていた。
そういえばレイナと2人っきりになったのは結構久しぶりだ。
なんだかんだいって最後に2人きりになったのは入学試験前に勉強を教えてもらった時だ。
「ねぇ、ユート。」
先に話しかけてきたのは、レイナの方だった。
「ん?どうしたんだ?」
レイナは何か聞きたそうな声だったので、俺は返事を返した。
「さっきやりたい事はないって言っていたけど、本当に何もないの?子どもの頃とか何かやりたい事はなかったの?」
どうやらレイナが聞きたかったのはさっきの店でのノルトの質問に対する俺への発言による疑問だった。
やりたい事が無いというのは本当だが、何もないと言われればそれは恐らく嘘なのだろう。
そう言える要因は頭の中に霧がかかって思い出せない記憶があるからだ。
さっきは言えなかったが、たった1人には言っても構わないだろう。
「多分、昔ならあった気がする……でもなんでか知らないけど、思い出せないんだよな。」
俺は素直にそう答えた。
「そうなの……」
レイナはそう呟くと俺の方に顔を向けて、笑顔でこう言った。
「やりたい事、見つかるといいね。それともしむかしやりたかった事を思い出せたら、私にも教えてね。」
レイナの見せる綺麗で輝いているように見える笑顔を直視出来なく、俺は顔を逸らした。
レイナは時々ズルイ。
その後もちょっとした雑談をしながら俺達は寮へと帰って行ったのだ。
その時、俺は知らなかった。
女の嫉妬心はとてつもなく強く、燃え滾る事を。




