【21話目】3年生
俺はその日の朝、遠征へ行く3年生の為、学園の玄関前へと集まって3年を送り出す為の集団へと加わりに行った。
玄関前には物凄い数の生徒が両脇に並んで学園から出てくる3年を待っていた。
俺はその集団の後ろの方へと並んで、3年生が来るのを待っていた。
今回の3年の遠征は、あと少ししたらやる魔法大会の為の遠征で、マジックフェスティバルが行われる都市まで行くようだ。
遠征へいく人は3年全員とアーニスをはじめとした教員数名だった。
「来たぞ!」 「わぁぁぁ!!」
3年が来たのに誰かが気付いて、それに反応して並んでいた人達が歓声を上げた。
学園の中から3年が出て来るのが見えた。
学園の3年は俺達1年や2年とは違い、実戦経験を多く積んでおり、一部の生徒、非戦闘タイプを除いては1人1人がかなりの実力者である。
その中でも1人、3年の中でも格が違い、学園最強と呼ばれる生徒がいるらしいが、その生徒が今出て来たらしい。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
さっきよりも大きな歓声が上がった。
その歓声を聞くに、その生徒がどれ程人気なのかがわかる。
俺はその生徒を見た。
その生徒は赤……いや、朱色と言ったほうがいいか、朱色の髪をしている優しい顔つきの青年だった。
その人を見た瞬間、俺の心に変な感情が湧いた。
こんな感情、今まで感じた事がない。
何故だろう、俺はその生徒に他の人とは違う特別な感じがしていた。
恐らく、この感情は憧れだろう。
まぁ今まで俺は他の人を尊敬するといった行為をしていなかった気がする。
多分俺は、その人の特別なオーラかなんかに当てられておかしくなっているんだ。
少し落ち着け、そう俺の心に言い聞かせた。
しかし、そう言い聞かせても俺の右手が震えているのを感じた。
そして……
ガシャン!!
俺の右手にはめていた指輪が光って、人器である大剣が出てきて、地面に落ちたのだ。
いきなりの事で困惑する俺。
大きな音が聞こえたので、その音の方を向く多くの生徒達。
「なんだ?」 「人器だしてるよ?」
ここの空気がざわつくのを感じた。
まずいっ!と思った俺はすぐに。
「す、すみません。」
そう言って人器を拾おうとしたときだった。
「ちょっといいかい。ユウト君。」
誰かが俺の事を呼んだのが聞こえたから、俺はその呼んでくれた人の方に顔を向けた。
俺の目線の先にいた人は、他の生徒に尊敬されている、朱色の髪の毛の先輩だった。
その先輩は俺の方を向いて手を振っていた。
「少し来てくれないか?」
その先輩は続けて言った。
周りの人が俺を避けて、俺と先輩の間には人がいなくなっていた。
俺はその先輩の言う通りにして、先輩の元へ行き、目の前に立った。
「君の事は知っているよ。異世界人なんだって?少し手合わせしてよ。」
先輩からのいきなりの提案だった。
その先輩の発言に近くにいた3年の女の先輩は。
「ちょっと、バリオン!」
と静止したが。
「いいじゃないか、すぐに終わるよ。で、どうする?戦う?」
他の先輩の言った事に対してそう返して、俺に戦うかどうかを聞いてきた。
正直、戦いはあまりしたくないが、多くの生徒達が見て。
「おい、どっちが勝つと思う?」
「そりゃもちろんバリオン先輩でしょ。」
「いや、もしかしたらって事もあるぞ。」
みたいな、様々な事を期待しながら話しており、何故か戦わなければいけない雰囲気になっていたのだ。
「わ、わかりましたよ。」
俺は渋々と先輩との手合わせを承認した。
手合わせが行われる為、他の生徒達はかなりの空間を開けるように移動した。
結果、大きな円状のフィールドが出来上がり、その中央には俺と先輩の2人が向かい合うように立っていた。
「それじゃあ、はじめるよ。まずは名乗りを上げて。難しい事は無いよ、ただ自分の名前を言って人器を構えるだけだから。」
先輩がそう教えてくれた。
「じゃ、じゃあいきます。俺の名はユウト・シンドウ!」
先輩に言われた通り名乗りを上げて、既に出ていた人器を構えた。
「いいね、じゃあ僕もいくよ。僕の名はバリオン・フォルコメン。」
ニッコリと微笑んで、バリオンは魔性輪から人器を取り出した。
バリオンの人器は刃が細長い剣、レイピアだった。
バリオンはすぐに人器を構える。
「それじゃあいくよ。よーい──」
バリオンが戦いを開始する合図を出すようだ。
「はじめ!!」
くる!
右肩に向かっての突き!
咄嗟にそう思って、人器でガードする構えをした。
すると、本当にバリオンは俺の右肩に向かっての突きを放った。
ガキンッ!
俺の人器とバリオンの人器がぶつかり合う。
あれ?
なんで俺はバリオンがしようとした攻撃がわかったんだ?
ってそんな事考えている場合じゃない、次の攻撃がくる。
次は、俺の動きを止めようと左足に突きがくる。
一旦左足をさげてタイミングをずらして、人器でレイピアを振り払え!
バリオンのレイピアが俺の左足へと向かってきた。
俺はさっき考えた通りに、左足を後ろにずらして、レイピアが左足に刺さるのを遅らせて側面から人器でレイピアを振り払った。
「やるね。」
一言バリオンが俺に対しての称賛の言葉を送った。
そんな言葉を聞いても俺に返す余裕がない。
さっきからなんなんだ。
さっきから俺には次にバリオンがどういう攻撃をしてくるのかが手に取るようにわかる。
もしかして、予知の魔法でも使えるようになったのか!?
いや、これは予知じゃない。
これは予知というより、俺がバリオンの攻撃を知っているって感じだ。
次も
ガキンッ!
また次も
ガンッ!
バリオンが攻撃する所、タイミングで俺は頭に浮かんだ対処法をして攻撃を防いでいる。
バリオンと俺が戦うのは初めての筈だ。
それなのに、俺の頭の中には何百、何千回もバリオン戦ったかのように対処法が浮かんでくる。
自分でも、よくわからないが、そのおかげで今も学園最強の男と張り合えている。
しかし、張り合えていると言っても向こうがしてくる攻撃をただ回避しているだけに過ぎない。
このままでは、いくら時間がかかろうとも、決着が着かない。
そう思った矢先だった。
バリオンのレイピアの突く速度が上がった。
ザシュッ!
いきなり速度上昇した事でバリオンの動きを捕らえなれなくなった俺の右肩にレイピアが突き刺さる。
赤い血が刺された所から出てきた。
それと同時に体に異変を感じた、魔力が体の中から消えたような感覚を味わう。
「クッッッッ!!」
刺された事で冷静さを欠いた俺は、人器をバリオンの方へ振る。
この時、俺はバリオンとの戦いで初めて、頭で浮かんだ対処法を無視して攻撃してしまったのだ。
そこからは早かった。
ただ、バリオンは俺の右肩に刺したレイピアを引き抜き、俺が振る剣を余裕で躱し、俺の腹部を蹴り、後ろへと飛ばした。
立ち上がろうとしたが、俺の首元にバリオンのレイピアが寸止めする様な形で止めていたのだ。
流石に詰みなので、俺は人器をその場に置き、両手を上げて降伏を行い決着が着いた。
「「うおおおおお!」」
決着が着き、歓声があがった。
「まだまだだね。」
そう言いバリオンは俺に手を差し伸べた。
「流石に先輩には敵いませんよ。それより俺と手合わせしてくれてありがとうございました。」
俺はバリオンの手を掴んでバリオンを敬いと感謝の言葉を述べながら立ち上がる。
「いやこっちも勝手なお願いをきいてくれてありがとうね。でも、君もいずれは僕と同じくらい強くなれるよ。」
立ち上がった俺にバリオンはそう言った。
多分慰めてくれているのだろう。
「そうですかね?」
少し疑うようにバリオンに聞いた。
「あぁ、いずれきっとね。」
バリオンはそう微笑みながら言い残し、3年と共に遠征へと行った。
3年達が去った後の玄関では。
「さっきの戦い凄かったぞ!」
「いや、あのバリオン先輩相手によくやったよ。」
周りに他の学生に囲まれて、さっきの戦いについての称賛を贈られた。
多くの称賛を贈られて、恥ずかしくなり、照れ臭くなる。
恥ずかしいけど、こんな感じの学園生活も悪くないな。
けれど、こんな平和な学園生活は長くは続かなかった。
─────
これはパゼーレ魔法学園の3年生が遠征に行った一週間後……学園襲撃事件の翌日の事件の被害報告である。
都市の壁にくっついて建っていた、今回の事件で亡くなった老夫婦が住んでいる一軒家の中に外と繋がっている穴が空いいるのを確認した。
その穴には結界が消失しており、恐らく盗賊達はここから侵入し、学園へ向かったと思われる。
この老夫婦の死亡を確認し、人的被害の報告を確定する。
重傷者
学園の生徒21名
教員1名
意識不明者
学園の生徒1名
死者
学園の生徒2名
民間人12名
この被害を受け、教育委員会は警備不十分という理由でパゼーレ魔法学園の廃校が確定した。




