【214話目】 おちる炎
「お兄ちゃん!!」
鎧騎士の爆発に巻き込まれて水路へと落ちていく俺にフレリアが叫ぶ。
チャポンッ!
激しく流れる水に落ち、抵抗も出来ずに流れていく。
「……ッッ!!」
フレリアはユウトの後を追って水路へと身を投げた、敵対している者同士だとか助けられたからだとかそんな事なんて考える間なんてなかった。
水の中では炎の魔法は使えない、ゆえに彼女は魔法には頼らず流されていくユウトを追いかけ泳ぐ。
泳いだ経験……あの熱い日、家族で集落の川に遊びに行った時からないっけ。
暗く冷たい水の底、あの日溺れた私を助けてくれたのはお兄ちゃんだったっけ?
もう戻ってこない日常がフラッシュバックする、そんな事を今思い出しても意味がないのにね。
今はただ助ける、私があの日強くなるって信じてた彼に……
手を伸ばす、もう目の前にまで彼は迫っているお願い……届いて!
そして捕まえる、その手を。
しっかりの握る、自分より大きなその手を。
ガキンッ!
人器を水から出して壁に突き刺す、これに捕まっていれば流されることはない。
彼を引き寄せる、そして……
「はぁっ!!」
魔力を人器から放ち、壁を破壊して登れるようにして私が先に上がって彼を引っ張り上げてひとまず水路から出す。
「はぁ……はぁ……はぁ」
安全……とは言えないけれど、ひとまず水路から離れた場所まで彼を引きずって動かす。
その際フレリアは気が付いたことがあった。
「息……してないの?」
そうユウトの呼吸は止まっていることである、さっき溺れたのが原因なのだろう。
「死んじゃった……?大丈夫、脈はある」
フレリアはすぐに生死の有無を確認してまだユウトが生きているなのだと判断する。
しかし時間の猶予はない、このまま何もしなければユウトは死んでしまう、それはフレリアにも理解はできている。
「どうすれば……」
こんな場合どうすればいいのか、フレリアは戸惑う。
だって凶震戒では教わってこなかったから……ただ相手と戦って遊ぶ、それだけが彼女の役割だったからだ。
だからフレリアは深く深く、記憶を辿る。
凶震戒に入るよりも前の記憶、さっきもふと思い出せた故郷の記憶。
「……確か」
辿る、そして見つける。
昔近所に住むおばあちゃんが教えてくれたこと、私が川に溺れた後、確かどうすればいいかっておばあちゃんみんなに異世界で広まっている対処法を教えてたっけ。
「確か胸を強く押して……」
彼の胸に両手を添えて強く押し出す。
それを何度も何度も繰り返す。
何回かやったらあとは……
「…………」
フレリアはユウトの唇を見る、助けるために教わったことをする……しかしその方法はこの世界では浸透はしていない。
だからこそ、その行為に乙女ながら抵抗があった。
それでも彼女は自身の顔をユウトへと近付ける。
なんでそこまでしてユウトを助けるのか……確かにフレリアはユウトに何度か助けられた、その恩もある、なんで自分を助けたのかという疑問を投げかけるという理由もある……けれど彼女は。
──よかった。
目を覚ました時に見えたその彼の安堵した顔があまりにも尊いものだったから。
だから失いたくなかった。
そうして彼女はユウトの口へ息を送り込むため唇を重ね人工呼吸を行ったのだった。
そんな時、深層での別の場所では例の黒い魔獣に対して別の鎧騎士が送られていた。
外見はユウト達が戦った鎧騎士だが、持ってる武器が斧ではなく剣と一点が違っていた。
そんな2者の戦いだが……鎧騎士は自身の剣により魔獣の体をいくつかに分けて斬り裂き魔獣の血で血塗れの地面にバラバラの状態で置いていた。
『脅威、排除』
勝利、都市を脅かす脅威を倒したと思いその場を離れようとする鎧騎士だったが次の瞬間、信じられないものを見る。
先ほどバラバラに斬り裂いた魔獣の体が一点に集まっていたのだ。
『危険、ただちに排除……っっ!!』
何かする前に排除しようと剣を魔獣の肉片が集まっている地点に振り下ろそうとするも弾かれる。
鎧騎士はただ見ていることしかできなかった……魔獣の肉片が集まり一つの球体になるところを……
そしてその中から人間の手が突き出されて出てくるところを。
『危険度の上昇を確認、今すぐ排除を……』
そうして鎧騎士とかつて黒き魔獣だったモノの第二ラウンドが始まるのだった。




