【210話目】
──なんで俺は生きてるんだ?
俺は確か、魔獣の尻尾に胸を貫かれてそのまま尻尾が放つ攻撃を避けきれなかったはずだ……
それなのに俺は生きている、貫かれた胸、切られて潰された腕それらをその身に揃えて立っている。
死んでない……生きていると実感出来ている。
理由はわからない、俺にそんな力なんてないからだ、でも今俺がやることはわかる。
今は俺の服の中で粉々になったヒラコパスという竜から貰った鱗の事は考えていられない。
時が止まったみたいに皆が止まり俺を見ている、それは魔獣も例外ではない。
自分自身で亡き者にしたはずの人間が立っていた事にどうやら魔獣は驚いているようだ。
魔獣にもそんな感情があるのかと俺は少し驚いた。
魔獣が俺をすぐに感知した事で奇襲なんてほぼなくなったが、他の人を囮にするような真似はしたくなかったから助かるところではある。
ゆえに真正面からの突破して魔獣へ攻める、それが俺達の勝ち筋。
動く、魔獣を狩るために。
それに反応するように魔獣もこちらへと攻撃を集中させる。
一撃一撃がこちらの命を奪う攻撃、当たる事は許されない。
だから神眼でその全てを見極めるのだ。
向かってくるその全ての殺意を手に持つジン器をもって。
1、2、3……4、5!
次々と向かってくる魔獣の手をジン器で弾き返し前へと駆ける。
自分に当たる攻撃とそうではない攻撃、その全ての攻撃の挙動を瞬時に見極めて反応してジン器を振るう。
間近に迫る魔獣、このまま渾身の一撃を叩き込む。
再び魔獣から攻撃が発せられ、対応しようとする……
しかし……速い。
魔獣の攻撃の速度が先ほどのまでの攻撃とは比較にならないほど速く、俺の周囲を埋め尽くさんと迫る。
神眼でその行動は見れてもこれは……これでは……体が追いつかない。
この攻撃を回避する道筋を理解できても体が追いつかない、それじゃあ避けられないのと変わらない。
このままじゃ攻撃を喰らって俺はまた終わる、そうはさせない。
生かされた……色んな人から、そんな命をまだ終わらせるわけにはいかない。
「──翡翠・脚」
翡翠、それは俺が持つ風の魔力と神の魔力という相容れぬ魔力同士を混ぜ合わせた時に互いに反発し合って生まれる高質量を放出する魔法。
しかしこの魔法をしっかりと攻撃に使うには混ぜ合わせて相手に放つまで一時留めておく余裕がない。
だけど普通に混ぜ合わせて暴発するように雑に放つ事は出来る。
俺は右脚に風と神の魔力をぶつけてその反発する力で加速する。
グキッ!
右脚が反動に耐えきれず骨から鈍い音が聞こえる。
それでも気にせずに魔獣が仕掛けた攻撃を魔法で加速して掻い潜り突き抜け跳ねる。
上空へ至る寸前のところで俺は2人の男へと視線を送った。
その2人は俺がいない時に覚醒を果たした猛者、俺達が勝つためには必要な力。
上空へと至った俺は拳に魔獣を倒すためにと渾身の魔力を込める。
魔獣も俺の貯めた魔力の危険性に気が付き排除しようと攻撃を仕掛ける。
しかしその時、魔獣の下より多くの岩石が向かってくる。
ダイヤによる岩の魔法の援護……岩石は魔獣の横をすり抜けたり当たったりする。
それをくらってもなお、魔獣は俺への攻撃を止めず魔獣の爪が俺の寸前まで迫る。
が次の瞬間、魔獣の目の前から俺の姿が消える、ゲンの魔法だ。
彼の魔法は範囲内の魔力を帯びたもの同士の位置を入れ替える魔法。
俺はダイヤの放って魔獣の後ろを通り過ぎようとしている岩石も位置を入れ替えられたのだ。
魔獣により砕ける岩石……すぐさま魔獣は俺へと振り返り、攻撃しようとするも再び俺の姿は魔獣の前から消えた。
魔力を帯びたもの同士……それには大きさは関係しない。
砕けてもなお残ってる岩石の魔力、ゲンの魔法の対象内だったのだ。
魔獣は2度の入れ替えの魔法に翻弄され反応を遅らせる。
渾身の魔力を込めた一撃、それをくらわせる場所はもう決まっている。
ダイヤが魔獣の顔につけたあのヒビは今まさに魔獣の弱点となっている。
だからこそ俺がダメ押しの一撃を撃つ。
その拳はは魔獣の顔面を捉えその瞬間に確信する。
勝ったと。
「神掌破っっ!!」
その拳はダイヤによって付けられていたヒビを広げついには、そして顔を覆い守る外殻は砕け散りあらわになった生身の魔獣の顔へ衝撃を与えた。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
会心の一撃。
魔獣は悲鳴を上げるように叫び地面へ倒れ動かなくなる。
「……勝った?勝ったぁぁぁぁ!!」
その光景を見た精鋭部隊の1人が声を上げその場の全員が勝利を叫んだ。
「勝った……か?ありがとう2人とも」
俺は地面へと着地した後、ダイヤとゲンへ感謝の言葉を述べたあの一瞬の間に俺のしてほしかったことを理解して実行してくれた……彼らがいなかったら俺はやられていた。
「いや!ユウト凄かった!!」
「あぁ……そうでござるな、それでそちらの方はどうするでござるか?」
ダイヤは俺へ労いの言葉を述べ、ゲンはとある1人を向いて話す。
そう十戒士が1人フレリアの事だ。
あの魔獣の印象のせいで忘れていたが俺達は彼女から襲撃を受けていた……その彼女はあの魔獣を見た瞬間から動かなくなっていたが、それは今も変わっていない。
「少し声をかけてくる、おーい」
「あっ、ちょっ……」
俺はフレリアの元へと移動する、敵意がなければ良いのだが……
フレリアは以前と膝を地面につけるように座った状態で動かない……動いたのはたった今口だけ……
「まだ……生きてる」
その言葉を聞いたと同時に背後から再び悪寒が走る。
新しく来たのではない……起き上がったのだあの魔獣が……
生きていたのだ。
全員が驚きと絶望の中、再び戦闘の構えを取ろうとした時だった。
「ギィヤァァァァァァアァアァァ!!!!!!
魔獣が叫びあたりの人をその衝撃で吹き飛ばす。
「うわっっ!!?」
俺のその叫びによって少しほどその場を離れて倒れる。
魔獣は叫びを上げながら周辺へあたるように暴れる。
地面、壁、天井……それら全てを手や尾で叩きつけまくる。
「まだ生きていたなんて……」
「ユウト!流石に逃げる!!」
あそこまで全力を尽くして倒れない相手……それによりゲンとダイヤを含めた精鋭部隊は他の場所に続く通路に逃げるように走り込む。
逃げるのには俺も同感だ……流石にさっきの神掌破に込めた魔力の消費、そして翡翠・脚による片脚へのダメージ。
これを負っての戦闘は難しい……俺も退避しようと走ろうとする。
そんな時だった、俺はふとフレリアを見る。
彼女はあの叫びで飛ばされなかったのが場所は動かないままその場にいた……
そんな彼女に魔獣が迫る。
それでも彼女は動かない……いや、動けないのか?
彼女は敵である凶震戒の十戒士……助ける義理なんてない……ないはずなんだ。
それでも……
「助けて……お兄ちゃん」
「──翡翠・脚」
その言葉がフレリアから聞こえた瞬間、俺は彼女の元へ走った。
まだ無事な片脚が悲鳴をあげ骨が折れるのを感じながら。
彼女が今言ったお兄ちゃんが俺のことじゃないのはわかる、だけど……俺は。
魔獣の攻撃がフレリアを襲う直前、俺はフレリアを抱きしめてそのまま通過して魔獣の攻撃を躱した。
魔獣の腕はそのまま強い勢いで地面へと衝突する。
それだけならよかった……先ほどまで魔獣が暴れてダメージを受けていたのか地面に深いヒビガッツリ入り、それは辺り一帯へと広がり俺達の元まで到達していた。
即座に地面にヒビが入っていない通路へ駆け込もうと脚を踏み込むが……
「ぐあっ……!!」
両脚に走る翡翠・脚の反動による痛みが俺の動きを止めた。
その一瞬が全てをわけた……
地面が落ちる。
ヒビの中心である魔獣のいる地面から崩れて下へと魔獣と共に落ちていく。
脚が動かない俺、そしてそんな俺が抱えているフレリアも地面と共に飲み込まれていく。
落ちていく寸前、ダイヤがこちらへと身を乗り出し手を差し伸べていたがとても遠く掴むことは不可能だった。
そのまま俺達は落ちていく。
暗い穴の底をずっと、ずーっと落ちていき広い空間つまりは深層を目にすることになった。
「……はっ?」
落ちていく最中、俺は見た。
朽ちて崩れツタで覆われた古き家屋、何かと争っていたのか大きな傷や穴が目立ちもはやその用途を果たせない城壁。
そして天井にまで伸びるほど高く建てられたその場所にとって1番重要とも呼べる古き建物である城。
下層の下の深層……その空間に存在していたものを俺なりに表すと──沈没都市、そこに俺達は落ちていく。
都市であった場所のどこを見渡しても人はいないどころか辺り一帯に多くの魔獣が彷徨いている。
この地獄から生きて帰りたくば
力を見せよ
210話目 ようこそ沈没都市 グラナドザンラへ




