【209話目】 希望を積む
眺める。
目紛しい攻防を繰り広げているゲンと魔獣の戦いを
ユウトが死んだ。
自分と歳はそんなに変わらないのに自分より強くて憧れていた人だった。
そんな彼が死ぬ時、オレは何も出来なかった。
「……ねぇ!ダイヤ!ダイヤってば!!」
目の前の光景を見ているオレにラーラが強く声をかけた。
「ラーラ?」
「逃げようっ!!」
オレがラーラを振り返って返事をした瞬間、ラーラはすぐ言った。
逃げる……?
「あの魔獣は危険すぎる!私達じゃ勝てない!だからここから逃げよ?」
ラーラそう言ってオレの手を引こうとする。
この人は本気だ、危機管理能力が多分高いんだろう。
そうやって危ない時は逃げるよう促してオレもそれに従っていた。
それでいいんだと思ってたから。
でも……
今回だけは……オレはこの魔獣に何も出来ずに引き下がるのだけは嫌だっ!
「……ごめん、でもオレ逃げないよ」
「……え?」
今はゲンが戦っているから大丈夫だけど、あの人が倒れたら次はオレの番かもしれない!
オレだけじゃない……ラーラだって……!
「オレ、行ってくる!」
「待って!ダイヤ!!」
駆けるオレの手を掴もうと伸ばすラーラの手は届かない。
怖いけど……泣きそうだけど……オレは行くよ、ありがとうラーラ。
───
「私はラーラ!よろしくね!」
「ねぇダイヤ!この服可愛いと思うんだけど着てみない!!?」
「何かあったら頼って!私達は仲間なんだから」
「ダイヤ、疲れてない?ちょっとここら辺で休んでいきましょ?」
「ダイヤ、貴方はきっと偉大な人になれる。私は信じてるの」
───
ラーラとの色んな事を思い返す。
色んなことでお世話になった……でも今は振り返らない!
ただ真っ直ぐ魔獣へと進む。
だけどこのまま突っ込んたんじゃオレ程度何も出来ずすぐにヤられる……
あの魔獣は爪による攻撃だけじゃなくて尻尾でも攻撃してくる。
爪の方はゲンが引き受けている、今は攻撃のチャンスなんだ。
走る、自分に出来ることをするために。
ジャキッと両腕に人器を付ける、これで一撃……出来るなら顔にぶち込みたい。
そのためには魔獣に近付かなくちゃいけない、出来る?やってみるしかない。
背後のラーラの他から視線を感じる、このタイミングで動いたオレを他の精鋭部隊の人達が見てるんだ。
でもそんな事気にしてられない、攻撃が来ないことを願う!
跳ぶ、魔獣との距離が近くなりそろそろ攻撃を仕掛けられるようになったから。
近付く、人器を魔獣へ向ける。
このままなら攻撃は当たる!
でもそんな近くに来た人がわからないほど魔獣の視野は狭くない……
ゲンに向けられた手の一本がオレへと向けられる、真っ直ぐにただ命を奪うために。
オレは避けることすら出来ずにその手の先端の爪へと進んでいく、止まれないオレはただ死へと向かってくしかなかった。
魔力の弾が飛んだ。
なんの変哲もない魔力の弾、だけどそれはオレの目の前の魔獣の爪に当たった。
魔獣の爪が上に弾かれる、少ししか上がらなかったけど……そのおかげでオレへ当たる事は無くなった。
「死なせない……ダイヤは絶対に死なせない!」
下でラーラが涙を流していた。
魔力の弾を放ったあの人の事を目の端で捉えて少し口元を緩ませてオレは進む。
「くっ!少しでも攻撃をしろぉ!!」
「ダイヤやゲンが戦ってる!俺達も力になるんだ!!」
さっきまで戦意を失っていた他の精鋭部隊の人達が立ち上がって各々魔獣へと攻撃をする。
そのどれもが遠距離からの攻撃で魔獣に対しての恐怖を感じられるのにそれでもこの人達は奮起したのだ。
だからオレだって力に……
魔獣の尻尾がこちらを向いてる。
そして尻尾へ魔力が集約されてそのままオレへと放たれる。
ユウトを殺した一撃……
そんな攻撃をオレが予測してないわけがないっ!!
左手に付けた人器を腕から離して放たれた魔獣の魔力に向かって投げる。
人器と魔獣の魔力はぶつかって魔力の進行方向が変わった。
「いたっ……!」
進行方向が変わった魔獣の魔力はオレの足を貫いた。
でも致命傷じゃない!!
「はぁぁぁぁぁっっ!!」
そしてようやくオレは……この一撃に確信を抱いた。
「──エヴォルグ……」
──バキッ!ピシッピシッ!!
あの魔獣の顔に右手の一撃を思いっきり叩きつけられた。
その一撃は静かだけど激しい一撃。
殴られた魔獣は顔が反り、そしてその硬い外殻に大きなヒビが入った。
でもその程度で魔獣は怯まない。
すぐに魔獣の手が覚醒を遂げたダイヤへと向けられる。
覚醒を迎えてもこの体勢からの回避は不可能、それはその場にいる人全員がすぐに察していた。
ゆっくりとスローモーションでもかかっているような感覚で全員が魔獣の爪がダイヤを貫こうとする光景を何も出来ずに眺めているだけだった。
けれど魔獣の腕は止まり、ダイヤを貫く事はなかった。
魔獣の背後で異変を感じ取ったからだ。
先ほど自身の尻尾から放った一撃でそこにいた命を消したはずだった。
ありえない、そこにはもう誰もいないはず……
けれど魔獣の目がその場にいる全員の目がその人間を見ていた。
さっき死んだはずの彼のその白金の眼が魔獣を
見据えて立っていたのだった。




