【206話目】 燃え上がるは激闘 吹くは絶望
「す、すごい……」
ユウトと十戒士フレリアの攻防が激しさを徐々に上げていく。
火力のフレリア、小手先のユウト。
風の魔力と炎の魔力の相性でフレリア優勢で動いていた戦いだが、ユウトの神の魔力使用により戦況は変わっていく。
それをアーデン達は炎の壁の外から魔獣達の数を減らしながら視界に入れ呟いた。
神の魔力を放つ。
それは炎の魔力をすり抜け、少女の元へと到達しようとするも全弾、少女の人器により防がれる。
「だんだんとお兄ちゃんのその魔法も慣れてきたよ!もっと他にはないの!?」
攻撃を防ぎながら少女は依然、楽しそうに笑う。少女の笑顔は崩れない、まるで戦いを楽しんでるよう……いや楽しんでるようではない、実際に楽しんでいるんだ。
少女が距離を詰める、自身の得意とする接近戦に持ち込むつもりだ。
そうはさせない、少女へと再び魔法を放つ。
「同じ手は効かない……ってキャッ!」
少女は俺の攻撃を防ごうと人器を盾にしながら突き進もうとした、しかしそれは神の魔力への対抗手段、俺が放ったのは少女の足元から吹き上げる風の魔法である。
俺が神の魔力を使うと思い込んでいたのか炎を出していなかった少女には攻撃が入った……はずなのだが、少女の体を見るにこの程度ではそこまでのダメージには至らない。
なら続けて攻撃あるのみ、神の魔力から風の魔力へ変わったというまだ対応は出来てないはず。
そう思い再び風の魔法を少女へと放った。
しかしその風は少女によって生み出された炎によって消滅した。
即座に対応してきたのだ。
少女は風の魔法を打ち消し、そのまま俺へと真っ直ぐに向かってくる。
風と神の魔力をまた切り返して惑わせるか……?
「どうしたの!?もっと私にぶつかってきてよ!!」
いや、それはなんか違うな……
少女がこちらへと向かってくる、笑顔で。
楽しそうに、欲しかったものをようやく手に入れられるような無邪気な表情で。
相手は十戒士……それはわかっている、でも俺は……俺も彼女みたいに。
気がついた時には真っ直ぐ走っていった、少女との戦いをしっかりとやるために。
短剣を空に放ち両腕に神の魔力を纏わせ迎え撃つ。
振りかざす少女の一撃、白銀の眼でその太刀筋を見極め炎を掠めながら躱し拳を少女に打つ。
少女の腹部を捉えたはずの拳はその寸前で違和感を捉えながらも少女を後ろへと吹き飛ばす。
「……うぅっ!!やったなぁ〜!!」
俺と少女の距離がまた離れる、拳が熱い……これは殴った衝撃じゃない、多分少女の腹部を守っていた炎の魔力によるものだ。
熱いがこっちも魔力で手を覆っていた為そこまで重度の火傷にはならないだろう。
それより……もっと彼女との戦いを!
互いは飛びかかりあい戦闘は続く。
炎の剣は振りかざされ俺を燃え裂こうとする、だからそこに合わせにいく。
炎の剣を持つ彼女の手に短剣が飛んできて剣の柄が少女の手に直撃する。
「いたっ!」
「そこだ!」
予想もしない方向からの攻撃、少女の注意と剣を持つ手が緩む。
そこを狙う右足に体重を乗せ左足を地面から離し少女の剣の腹の部分を狙って蹴り飛ばす。
「あっ!」
少女の剣は地面へと落ちて少女から離れた場所まで滑って止まる。
少女は人器を失う、けれど止まらない。
一眼離れた人器に目をやっただけで彼女はすぐにこちらへと振り返りニヤリと笑いながら拳に炎を纏って振るう。
神眼による視覚強化により彼女の攻撃の軌道は読め俺の顔に向かってくる拳をギリギリで避けてカウンターを狙いにいく。
「あっっつ!!」
しかし俺の顔のすぐ横を通った瞬間に彼女の拳の炎は燃え上がる。
ギリギリで避けていた弊害でその炎を避けられずにモロに顔面に直撃する。
対応してきている、俺が彼女の攻撃を読み切って回避することに。
それに合わせた攻撃へとすぐに切り替える、戦いにおける順応が早い。。
それでも負けられないっ!
もっと俺も攻撃を!!
魔力を帯びた拳同士が炸裂する。
互いにダメージを受けても怯まずに攻撃をし続けそのあたり一帯に2人の魔力が飛び散る。
「なんだあれ……?」
「加勢は……足手纏いになるな……」
ほとんどの魔獣を倒し終えたアーデン達はユウトの援護へ回ろうとしていた……が2人の魔力の攻防がその意思を削ぐ。
彼らには十戒士と戦えるほどの強さはない、ゆえに彼らは2人の戦いの決着をただ見守るしか出来ないのだ。
そんな最中2人の拳がぶつかり合い強い衝撃波が生まれ互いに同距離後ろへ離れる。
衝撃波で飛ばされたフレリアの足元には先ほどユウトによって弾かれた人器が落ちていた。
彼女はすぐさま人器を拾い上げ、ユウトへと向かう。
「──断罪の剣」
ユウトはクラディ戦の時同様に神の魔力から剣を作る、クラディ戦の巨大な剣よりも小さく自身が手に取り振るうのに最適な大きさにしてしっかりと握りしめてフレリア相手に真正面から向かう。
近づいた2人は同時に剣を振う。
しかし剣は交わらない、ただ2人の剣は直接相手へと向かう。
「うっ!」
「ぐぁっ!」
同時に剣の腹が2人の脇腹へ直撃し2人は呻き声を上げながら飛ばされる。
違和感……
剣で互いに攻撃して吹き飛ばされる……その事に俺は違和感を感じていた。
今の攻撃……彼女は剣の腹ではなく刃で行っていたら俺はやられていた。
俺は人を殺す事を拒んでいる、だから相手を死なないよう剣の腹で攻撃をした。
ならなぜ彼女も……まさか……
「いやぁ、やるねぇお兄ちゃん。でもまだまだっ!」
俺と同様に飛ばされた彼女は骨がいくつか折れてる俺とは違い、先ほどの攻撃をくらってもまだ余裕を見せていた。
「じゃあ!本気ぃぃ!!」
少女が叫ぶと同時に白金の眼は少女の魔力の高鳴りを感知していた。
この感じ、知っている。
少女は結界魔法を使う気だ!
まずいっ!俺はまだ結界魔法に対する対策なんて持っていない、そんな状況で結界魔法を使われたら俺の負けは確実。
使われる前に止めないと!!
駆ける、少女の行動を止めるために足を動かし、けれど……
「──結界魔……」
結界魔法が発動されることはなかった、その場の空気が少女の行動を止めていた。
誰も動けない、いつのまにかあったその強大で異質で悪質な存在感を感じて動じない人間なんていない。
ただ全員、同じ場所を
黒き絶望がそこにいる。




