【201話目】 脅威は迫り来る
深層の魔獣が散り、体に埋め込まれた種が枯れ落ちたことで魔獣の死を確信する。
あたりは静寂に包まれ、その静寂を俺が破った。
「デイ!……倒したぞ!」
来ているのは知っていた為俺はすぐに後ろにいるデイに振り返りながら駆け寄って拳を突き出した。
「あぁ、お疲れ様!」
デイも拳を突き出して拳同士で重なり合う。
まぁかなり疲弊しているようだけれどそこまで重症は負ってない。
後は他のみんなの様子を見てちゃんと喜ぶとしようか!
「……っとその前にあの魔獣が何か落としてたな」
深層の魔獣を倒した時、体のほとんどが塵になって消えたが一部残って地面に落ちたのが見えていた。
少しでもこの魔獣が中層に来た事についてわからないか調べてみる。
「土まみれだな……ん?何か硬いものが……」
土だらけの中に硬いものがあるのが触っていてわかり俺はそれを取り出した。
「なんだろうこれ……えっ?」
「どうしたユート?」
何か丸い板のようなものが土の中から出てくる……俺が驚いたのはそこじゃない。
板に描かれているものだ。
王冠と華……
俺はこれに見覚えがあった、それは下層に落ちた時に謎の人工物を発見した時にこれと同じものがあったのが見えた。
これが何なのかはわからない……いったいどうしてこの魔獣がこんな物を持っていたのだろうか?
ユウト達が深層の魔獣を倒し終えて疑問が発生した時、地上では……
すでにディハンジョンから出てきた人達が集まり内部の人間のことお構いなくワイワイと騒いでいた。
「でさ〜」
「ガハハ!!」
普段、関わらない人間ともこうやってコミュニケーションを取り様々な情報を交換したりただただ雑談したりとそこは人様々だ。
けれど今話題になってるのは……
「マジで凄かったんだぜユウトはよ!!」
ユウトについての話題だった。
元々話題になっていた彼だが、今回彼に助けてもらったヤベ達の話でさらに彼についての話題は加速する。
「いやでも俺達こんなところでのんびりしてていいんですかね?」
1人の若い青年が疑問に思い口に出す。
「いいんだよ、俺達は途中で脱落したんだ。今更行っても足手纏いになるのがオチだ。
それよりも俺達はここに来る不審な奴に警戒するのが仕事だ……今みたいにな」
瞬間、空気が変わる。
ワイワイと騒ぐ声はなくなり彼らの視線は1人の人物に向いていた。
彼らの視線の先にいるのは1人の少女、桜色の長髪をなびかせそこに立っていた。
街中であるならば普通の少女だと思っただろう、しかしここはディハンジョン。
都市からも離れているこの地に1人の少女がいる事に疑問を覚えない奴なんていない。
まず少女の前に立ったのはヤベだった。
「お嬢ちゃん、何者でここに何しにきたんだい?」
優しげな聞き方とは裏腹にいつでも戦闘に移れるよう少女の周りを他の人間で固める。
「遊びに来たの!」
無邪気に笑いながら少女は答える。
「遊びに……?」
「うんっ!ここにいるっていうユウトって人と遊ぶために来たんだ!!」
ヤベの問いかけに少女は素直に答える。
ユウトと遊ぶため……自身の恩人と少女は何か関わりがあるのか?と疑問を浮かべる。
けれどヤベは感じていた……この少女が放つ圧倒的な存在感を……
この年にして自分より強いと……
だからこそヤベ達は引き下がれない、こんな危険な人物とユウトを合わせないためにも。
「そうかぁでもユウトは忙しいんだ……代わりに俺達が遊んであげるよ!!」
そう言った瞬間に少女に向かって多くの男達が襲いかかる。
「はぁ……仕方ないなぁ、ちょっとは楽しませてよねっっ!!」
男達が少女に襲いかかって数分が経ち……ディハンジョン地上部隊はほぼ壊滅する。
「つ、つよい……」
地上では炎により燃え盛り、負傷者が多数。
その者を救護する者、燃え盛る炎を消すために駆ける者により地上部隊は機能しなくなっていた。
そんな隙に少女はディハンジョンへと降る階段へと足を踏み入れた。
「さっきの人達はそんなに楽しめなかったなぁ〜代わりにたくさん楽しませてよね、ユウトお兄ちゃん♡」
凶震戒、十戒士の1人である彼女は身の丈に合わない剣を担ぎディハンジョンへと入っていった。
それと同時刻、ディハンジョン深層。
1人の人間がその地を歩く、ロングコートを羽織りフードを深く被りし者、他の魔獣を寄せ付けるどころか同じ階層にいることすら恐怖させ上層へ逃げさせるような威圧感を放ちながら。
歩き、中に入り、さらにそこで階段を見つけ降りていく。
「……これか」
そこにあった物は……
天井に吊るされてる卵のような物……しかしその卵は光り、揺れていずれ還る日を待っているかのように動いていた。
「かつてこの"都市"を滅ぼし自ら眠りについた魔よ……今眠りから覚そう」
そっと手を触れる。
卵の光は強くなり揺れも活発になったかと思いきや……
光は消えた。
この卵を覆っていた光は自身を守るための魔法の結界、その結界がたった消えた。
卵の底にヒビが入り大きな音と共に割れて中の物が生まれ落ちる。
黒く体毛のなく痩せ細った体、けれど馬のような頭部から見える紅き瞳は真っ直ぐ自分の結界を解いた者を見据えていた。
それは目覚めさせてはいけない物。
それは全てを衝動のままに破壊する厄災。
その厄災に彼は言う。
「──力を見せよ」
ただその一言、その言葉を聞いた厄災は4本の脚で立ち上がり彼を見る。
「上にいる神の魔力を持つ者を狙え」
フードから厄災を見つめる眼。
次の瞬間には厄災は彼の目の前から立ち去る。
その動きの速さにあたりに強風が吹き、彼のフードが捲れ朱色の髪が彼以外誰もいないその場にあらわになった。




