【200話目】 中層決着
離れた距離で両者は見合う。
片方にパゼーレ魔法騎士団のユウト、もう片方には深層の魔獣。
ほんの少しの邂逅ではあるがそれだけでも互いが強いのだと理解している。
だからこそ両者、油断はしない。
相手を倒す、それだけを思い戦闘は再開される。
魔獣へと距離を詰めるようにユウトは駆け出す。
それを魔獣は種による攻撃により接近を避けようとするも彼にはもう効かない、白金の眼で種の軌道を全て読み切り短剣で斬り落とし、回避し目前まで迫る。
ユウトが接近したことで魔獣は種による攻撃をやめツタを鞭のよう扱い前方の彼を薙ぎ払うように振う。
がユウトはその攻撃を地面を蹴って跳び回避し両手に持った短剣で魔獣へ斬り込んだ。
体を斬られ怯み後ろへと下がる魔獣、そこに追撃を行う。
右手の親指以外の4本の指に神の魔力を溜め、親指で魔獣へと右手からジン器を手放しながら弾き飛ばす。
短剣による攻撃によっての怯みの影響が回避しようと動いた魔獣が完全には回避しきれず1、2発ほど魔力が直撃する。
ユウトはその隙に追撃を行う先ほど手から離れたジン器と元より手元に置いてなかった計2本のジン器を魔獣へと突き刺し、そのまま手元に残しておいたもう一刀を片手に魔獣へと踏み込んで斬る。
「──チィッ、浅い!!」
短剣による斬撃は魔獣に直撃するも傷は浅い、短剣のリーチの短さによる不利な点が出てしまう。
それでも彼は魔獣に突き刺さっているジン器を回収して一時距離を取る。
「──接続。」
そして3つの短剣を1つにまとめ刀へと変える。
先ほどまでの短剣は魔獣の攻撃に回避するための行動、そして今の刀は魔獣への攻撃に特化させる行動への変化の現れである。
ユートを追って通路を進む。
「大丈夫、痛む?」
「いや大丈夫だ……今はユートのところに行かないとなー
横には肩を貸してくれているダイヤと共にユウトの戦闘を見届けに行く。
幸いにもレイナの魔法のおかげで重症者は少ないが魔力切れやら体力を使い果たしてようで他のみんなは動けなくなっていた。
俺も割と体的には限界だ……けれど、俺は自分の部下であり友の戦いを最後まで見なければ……
そう思い通路を抜けて少し広くそして戦闘音が聞こえる空間へと辿り着いた。
「すごい……」
その時の光景を見てポロッと言葉が漏れる。
そこで俺が見たのもは……
たった1人で刀を持ち、あの深層の魔獣の攻撃を避けながらも攻めの姿勢を緩めないユートの姿だった。
重そうな刀を持ちながらも軽い身のこなしで魔獣を相手にする姿に俺は見惚れていた。
魔獣から放たれるツルの鞭を自らが宙に浮き躱しながらツルを切り裂くその鋭い攻撃。
アレほどの速く一手一手がしっかりした動きを俺は出来るのだろうか?
いや出来ない……
アレはユートがこの世界に来て行った戦闘により培われてきた技量、俺にはまだ届かない。
悔しい……あんなに強いユートを見ているとあの魔獣を倒してほしいという気持ちとは別に妬みが生まれてしまう。
それでも……
「いけっ……ユート!!」
俺が発した言葉は彼への声援。
妬ましい恨めしい……けれど美しくてかっこいい。
今は暗い気持ちより明るい気持ちを優先させよう。
デイからの声援が聞こえた。
彼は来てくれたんだ。
今はちょっと彼の方へ向くほどの油断はしない。
この魔獣を倒す!それだけを今は叶える。
それでも期待されてると恥ずかしくはあるけれど……やっぱりやる気が溢れてくる。
ありがとう、デイ
俺は負けないよ。
魔獣はさらにツタを増やしてこちらへと攻撃を行う、俺はそれに対して刀を棒幅跳びのように地面に突き立て再び宙へと上がる。
ツタがこちらに届く前に刀を地面から抜き、魔力を込め魔獣へと振りかざす。
魔力の気配に魔獣も素早く動く、右腕を上げ指に相当する場所に存在する穴をこちらへと向ける。
種は発射され、俺へと直進してくる。
けれど俺は避けない、そのまま種が顔や胴体に被弾し芽を咲かせても魔力を込めて攻撃の姿勢を解かない。
この一撃で──終わらせる。
「肉を切らせて……骨を断つ!!」
種を射出しようとも止まらない、ツタによる攻撃は間に合わない。
ただ吹き荒れる風を纏いし刀が自身に振り下ろされるのをただ見ていることしか出来ない。
「ぶった斬るっっ!!」
嵐のように荒々しい刃が魔獣の体を切り裂く。
そのまま魔獣の体は一部を地面に落とし崩壊し宙へと霧散し風の魔力により散らされる。
ユウトに今さっき付けられたはずの種から出た根は魔獣の消滅と共に枯れて地面へと落ちる。
それはユウトの勝利を表していた。




