【199話目】
レイナが結界魔法を発動して戦況は変わる。
彼女は以前結界魔法を展開しており魔獣の群れの中にレイナの結界魔法である雪の竜巻のような風が吹き荒れていた。
あれほどいた魔獣の大半が消えた事で魔獣達による数の有利が段々と弱くなっていく。
いける……!このままなら魔獣の大群を殲滅出来る……あとの問題は、あの深層の魔獣。
そして魔獣達の数が減りついにその時、深層の魔獣の静寂は終わりを告げ右の腕を上げ、こちらへと穴を向ける。
魔獣の行動を察する。
あれはパートリーが今でも苦しめられている種の射出攻撃!!このタイミングでくらうのはまずい!!
「──全員!岩陰に隠れろっっ!!」
俺は即座に全員に指示を出す。
ダイヤが生やしてくれた岩の塊……既に破壊はされてはいるが物陰としては充分。
全員俺の言葉を聞き、隠れそして魔獣から種の射出が始まる。
──ズガガガガッッ!!
先ほどまで戦ってる間に俺達が倒した魔獣の死骸を密かに喰らってた影響なのか種の威力が先程までとは全然違う。
地面に当たろうとも傷が付かなかったはずなのに今では……俺達が隠れている岩陰に当てまくり段々と岩を削っていってる。
このペースだと1、2分もしないうちに岩陰が壊されてあの種の猛攻を受ける事になる。
何か手は……
「まったく、仕方ありませんわね」
背後から声が聞こえて誰かが立つ気配がした。
この状況で立つ?そんな自ら攻撃を受けに行くなんていったい誰が……?
「──アクアストリーム!!」
後ろから俺の横を通るように水の渦が放たれ深層の魔獣の種を相殺している。
この魔法は……
「ヴァーリン!?」
後ろを振り返るとそこには立って水の魔法を放っているヴァーリンの姿がいた。
彼女は攻撃を受けて倒れていたはず……
「あまり舐めないでもらえます?言ったでしょかすり傷だって」
彼女は平気だと言うかのように誤魔化す。
だけど彼女は立っているのがやっとの様子なのがわかる。
それでも彼女は立ち上がり頑張る……なら俺だって頑張らないとな!!
「──エレクニング!!」
稲妻がヴァーリンの魔法を追うように走る。
俺も立ち上がる、そして少しでもあの魔獣の種を撃ち落とす!!
「隊長なのに危険な真似をして……全くしかたない人ですね」
やれやれと……それでいてどこか誇らしげな顔でヴァーリンはデイを見る。
2人の魔法は襲いくる種を幾度となく撃ち落として他の人達が身を隠してる岩への被弾を防いでいた。
けれど種の数は多かった。
「ぐっっ!!」
「うぁっ!!」
立ち上がっていた2人の魔法をくぐり抜け魔獣の脅威は届く、デイとヴァーリンに種が植え付けられた。
そしてそれと同時にレイナの結界魔法は崩壊を迎える。
結界魔法であった竜巻は消えレイナが現れる、結界魔法で巻き込んで氷漬けにした無数の魔獣と共に。
けれど彼女が現れた位置……そこは深層の魔獣の近く、このままではレイナもあの魔獣の種の餌食に──
「くっ……レイナ!!」
そう叫んだ時だった……レイナのいた場所に突如としてゲンが現れそしてゲンがいた場所にはレイナがいた。
これは……ゲンの魔法?
レイナの場所に現れたゲンは刀を抜く……居合の構えを取り自身に放たれた種を切り落とした。
「大丈夫ですのレイナ!」
レイナの元に駆け付けたのはヴァーリン、大丈夫って……それはヴァーリンにも言える事だぞ。
「うん……魔力がちょっと底を尽きそうってだけ……ヴァーリン達よりは無事だよ。
それに……」
「風が……吹くから」
レイナはヴァーリン……の奥にいた俺に顔を向けて静かに言った。
その言葉の意図をすぐに理解した。
「──っ!!ダイヤ!今すぐ全員入れる堀を掘れるか?」
「えっ?出来る、けど?」
「頼む!やってくれ!!後はゲンさん!ひとまず戻ってきてください」
俺はダイヤに頼むと今度は種を斬り落としてる最中のゲンに声をかける。
割と無茶なお願いではあるが……
「……!承知!!」
彼はそれだけ言うとすぐに岩陰の方へ戻ってくる。
そして深層の魔獣による岩への攻撃が再開される、時間はないすぐに行動に移せ。
「それでなんでござるか?」
「ゲンさんはすぐに仲間達の元に戻って避難するよう言ってください
「?何故」
「……風が、来るからです!」
「……よくはわからぬが貴殿がそう言うのであれば承知した!ではまた会おう!」
そう言ってゲンは魔法でその場を去った。
「デイ!出来た!堀!!」
それと同時にダイヤの方も終わった。
「よし全員!堀の中に入って身を隠せ!!」
俺の掛け声と共にその場にいた人らはダイヤの作った堀へと隠れる。
さぁ俺が出来ることはした、後は任せたぜ。
俺は彼に託して後ろへ視線を移した。
199話目 そして風は吹く
上の層から巨大な魔力を感じ取っていた。
この魔力には薄らながら覚えがある、俺が十戒士クラディと戦ってる最中に出てきた魔力だ。
あれはレイナの結界魔法。
その魔力の元へ駆けつけに行く。
上に上がる階段の場所は知らない……けれど他にも上に上がる方法を俺は思いついていた。
彼女の魔力を感じた場所の近くには大きな滝があった。
その滝を駆け上がる。
道中巨大なチョウチンアンコウのような魔獣に襲われたがなんとか倒して上がる。
片手に2種類の魔力を合わせ反発させ合いながら保たせながら。
滝を一気に駆け上がると地面が見えそこに着地する……多少呆気なくはあるが中層への帰還を果たした。
たどり着いた時にはレイナの結界魔法の魔力は消えていた。
急がないと、魔力がしたのはこの通路の先。
駆ける駆ける、速く彼らの元に届くよう魔力を惜しみなく使い駆け一帯に風が吹く。
そして広い空間が見えそこで目に入ったのは……深層の魔獣だった。
戦闘中……いや、デイ達の姿は見えない……そう思ったがすぐに白金の眼が手前の堀の中に無数の人の魔力を察知する。
さっきまでいた人数とは違うが、状況を察した。
そのまま進む。途中で堀を越え、レイナの姿と俺を呼ぶ声が聞こえたが俺は止まらない。
深層の魔獣の付近にはそこそこの数の魔獣が見える幸いにも数は多くない……けれど現場を見たら彼らが魔獣達によって追い詰められている状況……それだけわかればいい。
心置きなく、吹き飛ばせる。
風と神の魔力
それら2つの魔力は別々の魔力であるが故に完全に1つに融合することはない。
もし無理にでもくっ付けようとすると互いに反発し合いその際、反発し合う力が新たな魔力を生みそして増幅する。
抑えて抑えて魔力が飛び散らないように圧縮する、それを解き放てば膨大な魔力が相手を襲う。
故に滝から上がる際からずっと圧縮して保ったまま彼は跳ぶ。
魔獣達が見上げるくらい上へ上がり、そして魔力を保っていた腕を魔獣へと突き出した。
「──翡翠」
十戒士クラディとの戦闘中に生み出された魔法はユウトから前へ放たれ辺りをその膨大な魔力で埋め尽くした次の瞬間には魔獣のいない空間へと変化を遂げたのだった。
「ユート!!無事だったか!!」
後ろから俺を呼ぶ声が近くなる。
後ろを振り返るとそこにはパートリーの時のようなツタが体に巻き付かれたデイ達がいた。
「おう、まぁな」
「よく……無事で……」
「凄い!あの魔獣を!一瞬で倒した!!」
「……いや、まだだ」
何故かいるダイヤのねぎらいの言葉に俺は素直に返した。
俺は見ていた白金の眼で
あの深層の魔獣が俺の魔法を見るなりものすごい勢いで後ろへと下がるようすを。
あの魔獣はまだ生きている!
「ユート、俺は自分の出来ることをした。
だから……」
「あぁ、次は俺の番だ。もう油断も慢心もしない、絶対に勝つ!!」
そう言って俺は先へ再び駆ける。
デイは彼なりに出来ることをやり切った、戦いに遅れて参戦したんだ。
デイが頑張ってきた分、俺もやってやる。
デイ達がいた場所から先の少し離れた少し広い空間、そこで彼らは睨み合う。
片方はデイからの指示で自身の味方の避難を促していたゲンとその仲間達、その向かい側には翡翠をなんとか避けギリギリで逃げ切れた深層の魔獣。
両者睨み合いで動かない、だから俺が飛び蹴りを魔獣にくらわせて飛び入る。
「そ、そなたは!!」
「あとは俺に任せろ」
ゲンの驚きの声を俺は大人しく答え、前へとジン器を握りしめて短剣を深層の魔獣に向けて。
「さぁ終わらせようか」




