【197話目】 他の底に雷名を轟かせる
俺は臆病だ……自分の指示で誰かを失う事が怖くなった。
塞ぎ込む。俺には隊長は向いていなかったのだと、みんなは俺に期待しすぎたのだと自身に言い聞かせて他人に指示を任せる。
そう……これでいい、これでいいんだ。
自分の中の何かが割れそうになる音なんて無視すればいい……
だけど……
──俺はデイに期待している。
やめろ、思い出すな。
真っ直ぐな目が俺を見つめていた。
──デイは俺より凄い奴だって信じてる。
彼の言葉を思い出す。
俺に期待していた人……けれど彼はいない。
それでも……彼の言葉が胸に突き刺さって抜けない。
……俺は。
「くっ!なんて数ですの!?」
前方を大小様々な魔獣の群れが埋め尽くす。
背後の通路……その先には滝しかなく実質的な行き止まり、つまり私達は追い詰められてしまった……
かなりの数の魔獣に加えて先ほどの深層の魔獣までもがこの場に居合わせる。
魔獣同士は敵対……なんてせずにこちらへ向かってくる。
その様子はまるで何かに怯えているよう……まさか、あの深層の魔獣への恐怖から従ってるとでも……!?
いや今はそこまで考えている余裕はない。
ここをなんとか切り抜けないと!
出来るの!?今の私達に……
ユウトが消え、デイも精神状態が不安定になって怪我人も複数人……
それでもここで諦めるわけにはいかない。
私は信じてる……彼があの程度では死なないことをユウトが無事に戻ってくることを!そして……
「みなさん!すみませんが力を貸してください!!
ユウトは今はいませんが……絶対に戻ってきます!!ですので!それまで力を貸してください!!」
「くっ……!!」
「仕方ねぇ!!」
まず前線に出てくれたのは私達とは別に追いかけられていた人達。
「やる!やる!!」
「私達は巻き込まれただけなんですが……はぁ仕方ありませんね」
次に出てきてくれたのはダイヤと彼と一緒にいる女性。
そして彼らに続きレイナ、ラスフさんも魔獣へと向き合う。
そして彼は……
そんな心配をしている余裕はなく魔獣の群れが私達に襲いかかる。
深層の魔獣は奥の方で立ったまま動かずこちらを見ているだけだ。
「来ます!!」
そして私達はそれぞれで魔獣の撃破へと向かっていった。
中層の魔獣と対する私達、単体での戦闘力はこちらが上で1匹1匹ずつなら倒せる……が。
「オラァ!……クソッ数がへらねぇ!!」
「ぜぇぜぇ、泣き言言ってる場合じゃないぜ」
数が多すぎる……100以上いるであろう魔獣の群れ、私達で戦えるのは10人にも満たない。
今は一体づつ来ているからまだいいが、残っている魔獣達が複数体で襲い掛かられれば崩壊するのは時間の問題……
「くっ……っはぁぁ!!」
デイも戦っている……だけどわかる。本調子じゃない、動きにいつものキレがない。
「くっ……!!」
なんとかしなければ……そう思いながらも私も魔獣との戦闘でデイに意識を割けられない、割けられない……のに。
魔獣を数体倒した時だった。
私達が倒した魔獣に緑のツタが伸びて魔獣へと絡みつく。
「なにを……」
そんな反応を見せた時にはすでにツタに絡みつかれた魔獣は深層の魔獣の元へと引き寄せられていた。
ツタに絡みつかれた魔獣は深層の魔獣より上に吊るされ深層の魔獣は口を大きく開く。
「まさか……!」
そして深層の魔獣は死した魔獣を食す。
先程の深層の魔獣がいた場所にあった多くの骸……アレはこの魔獣が今まで食べてきた魔獣達だったということだ。
他の魔獣を食し深層の魔獣の魔力が上がっていく、自身の強化そのための食事。
まさにこの状況はあの魔獣にとって最高の状況。
このままあの魔獣を強化してなるものか。
「はあぁぁぁ!!」
手を合わせ水の魔力を手と手の間に溜め込み圧縮する。
今できるだけの圧縮を行いそしてあの魔獣目掛けて一直線にそれは放たれた。
圧縮された水は岩をも穿つ、それに魔力を上乗せすれば更なる凶器へと変貌を遂げる。
しかし魔力の水が魔獣へと到達する前、深層の魔獣は別の魔獣にツタを伸ばして絡みつけ自身の前へと突き出した。
水の魔力は深層の魔獣の前に突き出された魔獣に当たり攻撃が逸れる。
「なっ!?」
他の魔獣を盾に取るといった手段、今までこういった相手と戦ったことのない私には理解が出来ずにいた……
そして深層の魔獣に意識を向けている私に向かって1匹の魔獣が飛び上がり襲いかかる。
「しまっ……!!」
「……!ヴァーリ……」
反応するのが遅かった……今からではこの魔獣に対処が出来ない!
やられる……!
デイが叫ぶ声を聞きながら私の中で悟った時だった。
「危ない!危険!!」
魔獣に向かって一石が投じられ直撃し私に襲いかかるはずだった魔獣が退けられる。
「あ、ありがとう……」
私を助けてくれたダイヤという私達よりも幼い少年にお礼を言う。
「油断!大敵!!」
単語単語で区切るような少し賑やかな口調。
それだけ言うと彼は他の魔獣へと視線を向ける。
彼が狙うのは他人が戦闘をしている魔獣。
他人へサポートを行うように、彼の魔法である岩石を撃ち魔獣へと直撃させる。
「くっ……ぁぁあ!!」
デイは叫びながら魔獣に人器の斧を振るい落とす。
「はぁ……はぁ……」
「……デイ!!」
息切れを起こす彼の元に数体の魔獣が押し寄せる。
今は人の心配している場合ではない……ではないのだが……
そんな事を考えるよりも速く、私の体はデイを突き飛ばし魔獣の攻撃を受けていた。
「──ヴァーリン!!」
───
俺は隊長には向いていない。
そう思いながら襲いかかる無数の魔獣との戦いに挑んでいた。
隊長としての責務を果たせていない現実が俺の体を蝕む。
仲間を助けないといけないのに……ヴァーリンがピンチの時に俺は助けに行けずに他人が代わりに彼女を助ける。
俺は……俺は……
「──デイ!!」
そんなヴァーリンが俺に向かい走り、そして俺を突き飛ばす、そして次の瞬間……
四足歩行の獅子のようなタテガミを持つ魔獣のその鋭き爪が彼女の体を傷つけていた。
「ヴァーリン!!……あぁぁぁぁ!!!」
俺は湧き上がる怒りに身を任せ近辺の魔獣を一掃しヴァーリンを助け出す。
「大丈夫か……ヴァーリン!」
周りは乱戦状態……他の人が俺達より魔獣の方に気を割かれる。
「まったく……ただのかすり傷ですわ」
「俺は……俺は……」
彼女から流れ出る赤き血を見て視界が歪む、何が仲間を守るだ。
守るどころかむしろ自分が守られて仲間が傷付いているじゃないか……
俺は一体何をしてるんだ……!!
「まったく、そんな顔するもんじゃありません」
「ヴァーリン……!でも……」
「でもじゃありません……隊長としてしっかりしてください」
「俺は……別に隊長の器じゃない、俺にはみんなの期待に応えられる自信なんて……」
「大丈夫……あなたならしっかり出来ます……だって私にとっての貴方は私を連れ出してくれた時から輝かしい光でしたから」
「ヴァーリン……」
「貴方のことを期待しているのはユウトだけではありません、私もみんなも貴方が信じていない自分自身を信じています」
「だから、立って前を向いて踏み出してください。あなたならきっと出来ます」
そう言って彼女は目を閉じた。
大丈夫……息はしている、傷も深くなく冷静に見れば出血も止まっている。
みんなに期待されている……俺自信はそうは思わない。
だけど……ユートが、ヴァーリンが、みんながそう思ってくれているのなら……立ち上がろう。
ここで終わるわけにはいかない。
「魔獣が……多すぎる」
「ここまで……か?」
魔獣の群れが段々と追い詰めるようにこちらに迫る。
そんな大軍に絶望するもの。
「まだ!まだ!!」
「大丈夫!きっとユートは戻ってくる!!」
それでも抗い戦い続ける者。
けれども魔獣の勢いは止まらない。
そんな……時だった。
「──グロムインパクト」
後方から巨大な魔力を帯びた電撃が彼らの横を通り抜け前衛の魔獣達を薙ぎ払うように一掃する。
「なっ!?」
その巨大な魔法を放った人物を見ようと全員がその魔法が放たれた場所へと視線を向ける。
そこに立っていたのは先ほどまで特に目をかけていなかった男がいた。
動きも遅く、魔獣を倒すのに苦戦していた男。
でもここにいる彼の隊員以外は知らなかったのだ、彼の……本当の実力を。
「みんな遅れてすみません!頼りにならなくてすみません!!迷いは晴れた!
俺の名はパゼーレ魔法騎士団 小隊長デイ・マクラーゲン!ここから先!ここにいる俺の仲間は傷付けさせない!!だから俺に協力してくれ!」
真っ直ぐな目で堂々と立ち彼は宣言し懇願する。
これが彼、デイ・マックラーゲンの新たなる道への一歩である。