【186話目】 テント地区内での話し合い
「おぉ!お前達はパゼーレから来た!!」
テント地帯に入るための入り口と言うべき場所に立っていたアーデンは近づいてくる俺達を見つけてすぐに声をかけてきた。
「はい、ここは?」
「仮拠点だ!序層攻略で疲れただろ?休むといい」
「はぁ……魔獣とかは大丈夫なんですか?」
魔獣住まうディハンジョンに休憩ポイントがある事に疑問を抱き、デイは聞く。
「それについては問題ない!なぜなら俺の魔法セーフティー・スペースによりここら辺一帯の安全は保証されてるからだ!!」
「へぇ……って感心してる場合じゃなかった。アーデンさん、報告したいことが……」
見た感じのテント区域の広さ、その全てが魔法により安全地帯だと聞き、一時の間感心するデイだったがすぐに我を取り戻して話を切り返す。
「わかった、それでは奥の俺のテントでその報告を聞こう」
そのまま俺達はアーデンの誘われるままにテント区域に入って行った。
中にはもうすでにかなりの人数が到着しておりテント内で休んでる者もいればテントの外で交流している人達が見える。
「何人か先にテントを取って準備しておいた方がいいんじゃないか?」
「……レイナ、ヴァーリン、パートリー任せていいか?」
アーデンの言葉にデイは3人を行かせようとする、まぁ報告は隊長であるデイとかなりの間あのヤドカリとバトってた俺がいればいいか。
「あの……」
そんな中パートリーが口を開く。
「僕も一緒に行ってもいいですか……!」
「……別に構わないけど」
パートリーの今まで見たことない真っ直ぐな視線と声にデイは呆気に取られ少し困惑しながらも許可を出して俺達3人もレイナとヴァーリンは別行動をとりしばらく歩く。
「おいあれがユウトか?」
「あの十戒士殺しの……」
歩いている最中、そんな小声が耳に入ってくる。
事実ではないことまでささやかれているみたいだなんだが殺したとか言われるのは嫌だな……
そう思っていた俺は後ろで暗い顔をしているデイに気が付かなかった。
「ここだ、入るぞ」
そんなこんなで他より少し大きめのテントに到着する。
そしてテントの入り口にアーデンが手をかけた時だった。
「だから何故!私からの捜索願いが受理されないのだ!!」
テント内部から怒号が響き渡った。
アーデンはその声に動じる様子もなく中へと進んでいく。
俺達は聞こえてきた怒号に少し戸惑いながらもアーデンに着いていきテント内へと入っていく。
テントの中は中央に少し大きめの机がありその他にも生活に困らないような最低限の設備投資、そして奥の方には本棚があり多くの本が収納されていた。
そして先程の怒号の声の主と思われる青年がその綺麗な顔立ちを崩すほど怒りに顔を歪ませ、体を震わせて怯えているような向かい合っている男に詰め寄っていたのだ。
「サブルン、俺と交代だ」
「わ、わかりました〜〜!!」
怒りが充満した空間にアーデンは顔色一つ変えずに声をかけ怯えていた男はすぐさま俺達を押しのけるようにこのテントから出ていった。
「……ちょうどいい、あんたの方が聞き分けは良さそうだ」
青年はこちら……アーデンへと詰め寄る。
「一応は上司に向かってあんたって言い方はないだろう」
「ふんっ!形式上の指揮官ってだけだろ
……それより!私と逸れた仲間達の捜索を!!」
アーデンは青年に対して冷静に対応しながらも言葉遣いについて指摘を行うも青年はその指摘を軽く受け流して自身の要求を話す。
仲間と逸れた……か、確かにそんな状況で冷静にいられるのは難しいだろう。
「数名のための人員を割けと?俺達の目的はこのディハンジョンに住まう魔獣の掃討及び異変がないかについての調査だ。
そんなところに人員は割けない」
「そんなことだと!?それじゃあヤベとユボはこのまま放置ってか!!?」
アーデンの対応を青年は強く非難する。
ほぼ一方通行的だが両者の思いが火花を散らす……ってあれ?さっき青年が言った人物って。
「……もしかして、メバルさん……ですか?」
確定はしていないがそれでも先程の青年の言葉と彼の置かれた状況を鑑みるにおそらく彼がヤベさん達の……
「あぁ、そうだ。それでお前達は誰だ?」
「──!!はい、俺達は──」
「いや待てお前ユウトだな?」
確証が持てた!よかった、ヤベさん達の仲間は無事だったんだ!!これで後はヤベさん達の安全を伝えれば……そう思った矢先、メバルは俺に顔を近づけて名を呼んだ。
十戒士を倒した功績か、俺の名は有名になっていた。
しかし問題はそこではない、メバルの目付きである。
明らかな敵意を感じる視線が俺の体を突き刺しているように痛く感じる。
「お前、出発前にヤベになんか言われてたよな?侮辱されてたよな??だから!だからなのか!?」
「だからって……なんの話ですか」
「とぼけるなっ!お前が俺の仲間に危害を加えたんだろ!!侮辱された仕返しってな!!」
今度は俺に対しての罵倒が始まる。
あーダメだ、俺こういう強い口調で罵倒される事に慣れてない、苦手だ……心が痛い。
動揺……心の乱れが酷い、彼に本当のことを話しても信じてもらえる……だろうか?
「おい、勝手なこと言ってんじゃねぇよ」
そんな時、俺とメバルの間に挟まるようにデイが立つ。
「なんだお前!?雑魚は引っ込んでろ!!」
「……これ、ヤベさん達からあんたに渡してくれってもんだ」
いきなり割って入ってきたデイを威圧するメバルであったがデイは少し黙った後ポケットからヤベから別れる前に渡されていた物を突き出した。
「これ……はっ?」
「ヤベさん達はこれ渡して自分達は無事だと言えばわかると言ってた」
「間違いない……ヤベの魔法、球体を生成してそれを操作して簡易的で一方的な連絡を送れる魔法。
振動してる……つまり生きてる!ヤベ達は生きてる!!?」
メバルは誰かの形見みたいに大事そうにその球体を抱えて涙を浮かべる。
「ヤベ達は無事なのか!?いったい何が……!!?」
「それについて俺達はアーデンさんに報告しにきました」
デイはそう言うとここへ持ってきていた騎士団必需品である小さくも多くの荷物が持ち運べるバッグから七色に光る甲殻を取り出してテント内中央に存在する机に広げた。
実は持っていけば何かわかるのではとデイはあの虹色のヤドカリの甲殻の一部を持ってきていたのだ。
一応地上でも調査を行ってもらうためヤベ達にも持たせてはいる。
そしてデイはあの虹色のヤドカリについて報告を行う、ついでにヤベ達ちついてもメバルに説明するように語った。
ヤベ達の安否が判明したメバルは気が抜けたのかその場に倒れ込む。
アーデンはデイの報告に少し考え込んでいるような表情を浮かべて聞く。
「なるほど、報告ご苦労」
デイの報告を聞いてアーデンは礼を述べる。
「そうか、虹色の硬い甲殻を持つ魔獣か……少し待て」
アーデンはすぐさま本棚へと手を伸ばして一冊の本を取り出して広げる。
「コイツだなヤリンボー……下層の魔獣だ」
広げた本のページを俺達に見せるように机の上に置き俺達は覗き込むように見る。
その本には先程俺達が戦ったヤドカリらしき魔獣が載っていた。
「この本は……?」
「先人達が残したディハンジョンに関する本だ、ここに住う魔獣達は大抵載っている」
「はえー」
アーデンのその解説に俺達は感心する、下層とかの魔獣まで載ってるなんて……
隣のパートリーなんて無言で息を呑んでいた。
「下層の魔獣が序層に出た……これは異常事態だ、今回の任務では中層よりさらに下、下層まで行く必要があるな」
「下層に……ですか?ひとまずは序層の魔獣を殲滅した方がいいのでは?」
アーデンの発案にパートリーは疑問をぶつける。
「確かにそれも一つの手ではある……だが、下層の魔獣がそこ以外に出たとなると下層……下手したら深層に何か異常が発生したと見るべきだ。
過酷な任務になるだろうがそれを見過ごせばディハンジョン以外にも都市にも被害が出る可能性だってある。
だから被害が大きくなる前に対処する」
「そうですか……」
アーデンの説明にパートリーは引き下がる。
「以上で話は終わりだ、この件は翌日全員の前で行う!
他に何か言いたい事があるやつはいないか?
いないのなら──」
「あります」
アーデンがこの場をお開きにしようとした時、メバルが立ち上がり手を上げ発言の行う。
ここからいったい何を話すと言うんだ?
「まずは貴方にですアーデン、先ほどの非礼な言葉を謝罪します」
メバルはそう言うとアーデンに対して頭を下げて謝罪を行った。
そしてその後すぐにメバルはこちらを向く。
「君にもだ、ユウト。いくら気が動転していたとはいえ、君に放った言葉は許されるべき恥ずべき行為だ本当に申し訳ない」
「い、いやそんな……」
「そして……だ、私の仲間を助けてくれてありがとう」
さっきの態度とは打って変わりメバルは礼儀正しく俺には謝罪、そして顔をあげて今度は俺達全員を見るようにして感謝の言葉を述べたのだ。
これには俺も戸惑いなんと声をかければいいかわからなく言葉に詰まる。
「俺は、俺達は当然のことをしただけです!」
言葉には詰まったが……それでも言葉を振り絞って彼に言う。
「よしっ!言いたい事は言い終わったな!それではここで解散とする!!」
アーデンは俺達の会話を見て笑顔を浮かべて改めてその場をお開きにした。
そして俺達はテントの外へと出る。
「いや本当にすまなかった……」
出た後に改まってメバルは俺に謝罪してきた。
「いえいえ!誤解も解けたようでよかったです」
「仲間達も助けてもらって……なんとお礼をしたらいいか……私に出来る事はなんでもしよう」
なんでも……?ふーんなら……
「この任務が終わったら何かご飯でも奢ってくださいよ」
「……それいいな」
俺の提案にデイは一拍置いて同意する。
「ふっ、いいとも私の都市にお気に入りの店があるんだ。これが終わったらそこに招待しよう!!」
「……じゃあ私はさっき怒鳴った彼にも謝罪をしてくる、おそらくこのテント地区の入り口にいるだろうからな。
それじゃあ君達、ご武運を!!」
メバルはそう言って俺達と別れる。
「俺達もレイナ達のところに行くか」
「……っ!あの!!」
そう言ってその場を離れようとしたその時だった。
パートリーが俺達を呼び止めた。
「僕、すこし用事があるので先に戻ってもらってもいいですか?」
パートリーはそう俺達にお願いをする。
用事ってなんだろう?ここで彼は何かしたいのだろうか……少しばかり疑問だったが彼の今まで見たことのないような真っ直ぐな瞳には彼なりの事情があるのだろうと理解出来る。
「わかった、それじゃあ先行ってるから後でちゃんとこいよ!!」
そしえ俺達はパートリーを置いてテントへと向かったのだっ