【185話目】 ディハンジョン序層
虹色のヤドカリは甲殻もろともバラバラとなり動かなくなっていた。
「……終わったな」
動かなくなったヤドカリを見て呟く。
それにしても強力な魔獣だった。
あんなのがこの先ゴロゴロといるのだろうか?
「大丈夫ですか?」
後ろのデイ達はヤドカリに襲われていた2人と救護していたレイナとパートリーも一緒に合流していた。
「……何故助けた?」
近づくと片腕を欠損させた男が問い詰めてくる。
「ここはディハンジョンだぞ、他の人間の心配なんかしてたら命がいくらあってもたりねぇ!
俺達なんか放っておいて他の場所で魔獣を狩ってたらよかったんだ!
お前は隊長だろ!?もっと隊員の安全考えて任務遂行を優先しろ!!」
強く、叱りつけるようにそれでいてどこか心配しているように男は隊長であるデイを叱責した。
確かに仲間のことを考えるなら逃げるのも手だったけれど……
「確かにあなたの言う通り、任務の遂行は大切です。けれど任務の遂行より大切なものがあります」
「……なんだそれは?」
「人の命です、いくら任務遂行の為だとしても人の命を見捨てることは俺には……俺達にはできなかったそれだけです」
真っ直ぐ、彼を叱責した男をただ見据える。
それと同時にユウトがこちらへ合流する。
「そうか……なら言っておく事がある」
彼はそう言って頭を下げた。
「私達を助けてくれてありがとう、そして先程からユウトや貴方に対する数々の非礼を詫びる。
大変、申し訳なかった」
彼から出てきたのは感謝の言葉、そして謝罪の言葉。
ヤドカリから自分達を救ってくれた恩、そしてデイに対しての強い口調、そしてディハンジョン突入前での発言。
彼はそのことについて頭を下げていたのだ。
「いえそんな……」
「俺は気にしてません」
そんな彼に俺達はすぐに言葉をかける。
実際、俺は彼の言葉は気にしてはいなかったからだ。
「ありがとう……自己紹介がまだだったな俺はヤベ、でこっちはヨボだ」
腕が切られて先ほど俺に突っかかってきた方がヤベ、それでそのヤベを支えている方がヨボ。
「それよりこれからどうするんですか?」
「……あぁ、そうだな。腕もこんなになってしまったし俺達は地上へ戻ろうかと思う
戻ってこの魔獣の情報を地上にいる奴らと共有して対策を練る」
「そうですか、俺達はこのままディハンジョンに潜ります。ディハンジョン内にいる人達にもこの事を伝えないといけないですから」
俺達は彼らとは別行動を取る、そういう選択肢にした。
幸いここから地上は意外とすぐに着く、彼らがこれ以上ディハンジョン内で被害に遭うことは無さそうだ。
「そうか。なら、俺の仲間について少し頼みたい。
……これを渡してくれないか?」
彼はそう言ってポケットから球体の物質を取り出した。
「これを俺の仲間のメバルに渡してヤベとヨボが無事だって言ってくれ。
そうしてくれればわかってくれる。
お願いしてもいいか?」
「わかった、貴方達の仲間に会ったら渡しておきます」
彼から渡された球体を受け取る。
魔力を帯びたその球体は小さく振動して少しくすぐったかった。
「それにしても……この魔獣はなんなんですかね?序層にいていい強さじゃなかった」
すでに動かなくなったヤドカリを見てデイは疑問を浮かべる。
基本的にディハンジョンに潜む魔獣達の強さは下に行けば行くほど強くなる……つまり1番上のこの序層の魔獣はそこまで強くはない。
けれどもこのヤドカリの前に戦ったゴブリンのような魔獣と比べてみても明らかに強さのレベルが違っていた。
「あぁ、俺達はこの掃討任務にこれで5度参加しているがこんな魔獣は序層、中層でも見たり聞いたりすることはなかった。
それどころか俺達が戦ったことのある中層の魔獣よりも強い……」
「中層の魔獣より強い……!?それってつまり……」
「この魔獣達は下層……もしくは深層からやってきたってことになる」
「そんな……」
デイは驚愕する。
本来、ディハンジョンの魔獣は自分達のいた層から出ることはない。
序層の魔獣は序層にしか……下層の魔獣は下層にしか生息しない。
つまりこれは異例の事態である。
「このまま進むなら気を付けろよ……今のディハンジョンは何かおかしい……」
「わかりました、そちらもご無事で」
「じゃあ!メバルの件、よろしく頼む!
このまま進んだら仮拠点がある、ひとまずはそっち行ってみるといい!すぐ見つかるだろうから!!」
「ありがとうございます!」
そして俺達はそれぞれの方向へと分かれた。
「とりあえずこれで全部か」
「この魔獣達はさっきのヤドカリより弱かったな」
ヤベ達と分かれて少し経ち俺達は襲ってきた魔獣達を返り討ちにしていた。
この魔獣達はさっきのヤドカリとは違い弱く特に苦戦せずに倒せた。
「あれからだいぶ経ったけど仮拠点はまだか?」
「どうだろ?まだ先かな?」
ヤベ達に仮拠点があると言われて探索するがそれらしきものは見つからない……
「……ん?あれは……」
そんな時だった、少し奥から暖色の灯りが見えているのを発見する。
新たな魔獣だろうか?それとも……
「……行ってみよう」
デイの指示で先へ進む……
「これは……!!」
そして俺達が見つけたものは……
「ここを!仮拠点とする!!」
円形にひらけた空洞に地上にあったテントが1つの村みたいに並べられており、その外側には今回の掃討任務の責任者アーデンが声を上げて立っていたのだ。