【184話目】 現れる異変
「出やがったな……!」
皆で決めた道のその先に待っていたのは、棍棒を携えた魔獣。
緑がかり俺の腰ほどしかない小さなその体は物語に出てくるゴブリンのようでそんな奴らは群れで行動しているのか俺達の目の前には十数匹が唸り声をあげこちらを睨みつけていた。
「この隊での初めて全員での魔獣戦だ。
数が多い……気を抜くなよ、作戦は前から俺とレイナ、ユートとヴァーリンは後方からの援護を頼む。
パートリーは索敵、新たな魔獣を感知したら知らせてくれ!」
デイはすみやかに俺達に指示を出してレイナと共に前へと出た。
俺がすべきはヴァーリンと共に後ろからの魔法により魔獣を倒す事だ。
魔獣達も動き始める、こちらに敵意がある事がわかったのか奴らも棍棒片手に走り出して1番先頭のレイナに1匹の魔獣が殴りかかる。
「はぁっ!」
「ふんっ!!……まずは1匹!!」
レイナは盾により攻撃を防ぐ、その隙にデイが斧を振るい魔獣を一刀両断しさっそく1匹仕留める。
そしてそんなデイの背後から2匹の魔獣が接近しているのが見えて、俺とヴァーリンの2人はすぐさま範囲を絞って圧縮された魔法を発射させ1匹ずつ貫き倒す。
「ヴァ、ヴァーリン!後ろから1匹きてます!!」
そんな時パートリーが魔法で感知したのかヴァーリンに声をかけた。
「なっ!?後ろから!それもこんな……」
ヴァーリンが振り返るとすでに1匹の魔獣がヴァーリンに飛びかかって接近していた。
それもかなり近くまで来ている……ヴァーリンは対応が間に合わない!!
なので……
2つの短剣がヴァーリンへ飛びかかっている最中の魔獣を切り裂いていた。
「大丈夫か!?」
それは俺があらかじめ周囲に放ってあり、いつでも攻撃を仕掛けられるようにしていたジン器であった。
「ありがとうございます」
魔獣が切り裂かれたのを目の当たりにしたヴァーリンはもう脅威はないと判断して魔獣の集団の方へと視線を戻していた。
「このまま終わらせるぞ!!」
「「おう!(はい!)」」
デイの言葉に俺達は強い変事を返して魔獣戦へ……
───
「とりあえず初戦は余裕勝ちってとこか」
そこまで時間はかからずにこの場にいた魔獣達の討伐を完了していた。
「あぁ、みんなよくやっ───」
ギャァァァァァァ!!!!
安心しきった俺達の元に惨劇の声が響いた。
「なんですの今の声!!」
「近いな、みんな行くぞ!!」
俺達は声を聞きすぐにその場へと走り出す。
声の主はこの先、それも割と近くにいるようだった。
「!いたぞ!あそだ!!」
戦闘を走るデイが一足先に少し開けた空間へと到達し目の前のものを指差した。
俺達もデイに追いついてそれを見た。
「なんだ……あれ?」
その先で見たのは全身が丸く七色に輝くヤドカリであった。
虹色ヤドカリが振り上げられていた片方の腕は大きく鋭い刃が付いた鋏で
その鋏は今まさに壁に追い詰めた2人の男に向けられていたのだ。
2人の男の片方には見覚えがあった。
全員がディハンジョンへと突入する中俺達に話しかけてきた男だった。
そしてその男の右の腕は無くなっており、血が滴り落ちているのが見えた。
まさに彼らは絶体絶命な状況だった。
そんな彼らを見て俺達はすぐに動こうとする。
「くそっ!俺達の攻撃じゃあの人達を巻き込む!!」
「俺の弓なら行ける!!」
デイが攻撃を躊躇う、彼の魔法は範囲が広くあの人達を巻き込んでしまうのを恐れたからだ。
だからこそ俺はすぐにジン器を弓へと変化させあの虹色ヤドカリに狙いを定めそして矢を放った。
矢は真っ直ぐ虹色ヤドカリへ、そして直撃する。
ガキンッッ!
「なっ──!!」
矢は弾かれる。
虹色ヤドカリにダメージを受けた様子はないが、攻撃を受けたという認識はあるらしい。
こちらを向いて走り出して。
「こ、こっちきましたよ!!」
「ど、どうする!?デイ!」
「……っっ!!」
俺の矢が弾かれたことでみんなは動揺する、レイナは隊長であるデイに判断を仰ぐがデイにも動揺は表れていた……
どうする?今すぐ撤退するか?それとも迎撃?ユートの攻撃を弾いたあの魔獣にか!?
仮に逃げ切れたとして、あの人達は確実に殺られる!見捨てるのか……?
でも俺達は応戦して勝てる保証はない……俺の判断でみんなを危険に晒すわけにはいかない……ならここは一旦退いて……
「デイ!!」
そんな中、1人の声が俺の思考を貫いていった。
「あなたは隊長で私達はあなたの部下です!だからしっかりなさい!!」
ヴァーリンだ、彼女は俺の姿を見て喝を入れるように叱る。
そうだ……隊長の俺がしっかりしないといけないんだ。
こんな悩みまくって結論すら出せない方がみんなの迷惑になる。
考えてすぐ決断しろ、優先すべきは……!
「ユート!頼む!俺とヴァーリンがあの魔獣を倒す方法を考える!ユートはその間あの魔獣の注意を引いててくれ!!」
「あぁ、わかったよ!隊長!!出来たら倒してきてやるよ!!」
ユートはニヤリと笑うとそう言って魔獣へと走り出す。
魔獣攻略にはおそらく時間がかかる。ユートならその間耐え切れる、俺はそう信じてる!
「レイナ!パートリー!!あの魔獣の意識が逸れている間にあの2人の救助を頼む!!」
「「……!うん!!」」
次に俺は2人に指示を出し2人はすぐに倒れている人達の元へ駆けつけに行く。
そうだ、今優先すべきは人命だ。
そして魔獣をどうやって倒すか考えないと……
「頼もしいな……ヴァーリン、俺達であの魔獣を倒す方法を考えるぞ!!」
「はいっ!」
さーてと、デイ隊長に頼まれたことだし俺は俺のすべきことをやるだけだ!
まずは一旦このヤドカリをデイ達から離す、硬くても殴り飛ばせばなんとかなる!!
「はぁぁぁぁ!!!」
風の魔力を拳にまとわせて、ヤドカリへと振るう!あのヤドカリはこちらに向かってくるのに必死なのか攻撃はこない。
ガキンッッ!
拳はヤドカリへと直撃する、ヤドカリは吹き飛びデイ達との距離が離れたが……しかし……
「いってぇぇぇぇ!!」
あまりにも硬すぎる!割とガチ目に魔力を纏ったとしても攻撃は効かずに俺にダメージがいく。
こんな硬さ……パゼーレを襲った凶震戒にいた十戒士候補のたしか名前はラディアン、そいつに匹敵する。
おそらく普通の攻撃じゃ通らない。
倒すためにはどうするべきか……ラディアンを倒した時の技、神掌破ならいけるか?
いやアレはいつでも出せるって技じゃない、もっと確実性のありそうなもの……
一度ラディアンの防御を突破した魔滅神矢もあるが、アレは矢が突き刺して俺の魔力を流し入れて内部から破壊するもの、そもそも矢があのヤドカリに刺さらないんだったら意味はない。
翡翠とかでも倒せそうではあるがあんな大技をここで使えば周りに被害が出かねない……
ひとまずはデイの命令通りに俺がヤドカリの注意を引きつけつつ、奴の弱点とか探ってみるか。
2刀の短剣を持ちヤドカリへと距離を詰め攻めへと入る。
自身に向かってくると察知したヤドカリは鋏を振り上げ俺との距離が近くなったタイミングで迎え撃つように鋏を振り下ろす。
とっさに避け直撃は避けられる。
ヤドカリの鋏は地面に落ちその衝撃で地面に鋏がめり込む。
それを見ればこのヤドカリの攻撃力の高さが窺えるのだが……
確かに攻撃力は高くてもそれを当てられなければ意味がない。
ヤドカリの攻撃に速さはなく、回避するにはそれほど難易度はいらない。
キシャーー
ヤドカリの攻撃を何度も躱しながらも俺は短剣で攻撃を加えていく。
ガキンッ!ガキンッ!と弾かれる音は聞こえ奴の体にはダメージはないように見える。
あったとしてもほんの少し、キズみないなのがつくくらいだ。
……それにしてはこのヤドカリ何か怒ってる……いや焦っているのか?
「戦ってどうだユート!!」
「硬い!マジで攻撃通らねぇ!せいぜい少しキズをつけるくらいしか出来ねぇ!!
でも攻撃を避けるのは割と簡単だ!まだ持ち堪えられる!!」
後方で俺の戦闘を見ていたデイが大声で尋ねてくる。
俺の戦闘を通してでのヤドカリの情報を得たいのだろう、俺はこのヤドカリとの戦闘で思ったことを端的に伝える。
あの魔獣にはユートの攻撃が効かない……
せいぜいキズをつけるくらい……キズ?
ユートの攻撃であの魔獣の体を付けられるのか、だとしたら……
やってみる価値はある。
「ヴァーリン、俺の魔法に合わせられるか?」
「何か作戦を思いついたんですね」
「あぁ、いけるか?」
「当然!合わせてみせますわ!」
ヴァーリンは笑って返す。
よしっ!あとは……
「よしっ……ユート!!その魔獣を引きつけて俺とヴァーリンが攻撃を当てられるようにしてそして……俺達の攻撃の後の最後の一撃を頼む!」
……っ!ついにきた!デイからの指示!!
2人の攻撃が当てられるように?それとその後俺も同じ場所に攻撃を当てろだって!?無茶を言うな……でも、出来ないわけじゃない!!
「あぁ!任せておけ!!」
任された、だからにはやり切ってやる!!
やりたいことはわかった、だから俺は少しでも成功率を上げるためにヤドカリへと攻撃を仕掛ける。
短剣での攻撃、金属がぶつかりあう音が響いてダメージを与えられているようには思えない、けれど……奴の甲殻にはいくつもの小さなキズが付き始める。
ヤドカリの位置はデイとヴァーリンが待機している場所の……ちょうどド真ん前!いくつもの剣撃を加えヤドカリを動かす。
「ここだっ!やれ!デイ!ヴァーリン!!」
そして狙いの位置へヤドカリを動かしきった俺は2人へ合図を送る。
「どうやら準備万端みたいだな」
2人を見た俺は呟く。
2人は並び立ち魔力を高めている。
2人同時の魔法……俺でいうところの翡翠みたいに2つの魔力は反発し合いながらも次第に解け合い1つの洗練された魔力へと変化を遂げる。
──合技
それは2人以上の魔法使いの魔法が合わさり更なる強大な魔法へと変化させる技術。
それは簡単なことではない。
互いが互いに信じ合い、意識を1つに結んで初めて成せる技。
それをデイとヴァーリンは達成させた。
「いくぞヴァーリン」
「はい!」
──合技!
アクリマラグアリア──
それは青き水と黄色の雷が合わさり一本の矢のように目標へと飛んでいく貫通特化の魔法。
「あぶねっ!」
2人の魔法が放たれる。
魔法の直撃を避けるために俺は魔法範囲外と思われる場所まで退く。
ヤドカリは逃げない、自身の硬度に自信があったからだ。
それは自然界でこの魔獣が理解した事、数多の魔獣の攻撃をくらおうとも破壊されなかったこの甲殻を信じていたからだ。
それが例え慢心であったとしても……
2人の魔法はヤドカリへと直撃する。
ヤドカリはその攻撃にくらいながらもその場に踏ん張り続け耐える。
アクリマラグアリアの威力は絶大だ、アレをくらえば流石の十戒士でもただではすまない。
けれど、なんとヤドカリはアクリマラグアリアを耐えきったのだ。
「そんな……倒しきれていない……?」
「それでも!」
そうこの魔法は倒しきれていないだけでヤドカリの甲殻に大きなヒビを入れることに成功していた。
「ありがとう2人とも、あとは俺に任せろ!
──接続!」
作戦通りに俺はジン器を一本の刀「変えヤドカリへと突き進む。
「そろそろ倒れろ!このヤドカリがぁぁ!!」
そしてヤドカリの甲殻のヒビの入った地点に刀を突き刺す!
「終わりだっ!」
俺はヤドカリの甲殻内部に入った刀に魔力を込めそして内部へと風の魔力を発動させる。
甲殻の内部で響き渡る斬撃音、どうやら硬いのは甲殻だけで内部はそうでもない!
そして無数の風の刃が内部からヤドカリ本体を切り裂き、甲殻もろともバラバラになり辺りに肉片が飛び散った。