【177話目】 隊内訓練
「はあぁぁ!!」
デイが繰り出す雷の魔法を躱わし距離をとる俺。
現在ディハンジョンへ行くまでの間、デイが俺と手合わせがしたいと申し出てそれに了承して今に至る。
「どうした!避けるだけで攻撃してこないのか!?十戒士と渡り合っただけの力を見せてみろ!!
俺だって前戦った時よりも強くなったぞ!」
デイは挑発するように俺に攻撃を促す。
ディの動き……確かにマジックフェスティバルで直接戦った時よりも格段に上がっている。
この騎士団での活動が彼を強くしているんだ。
「わかってるよ!!」
俺だってあの時よりも強くなった!それを彼に誠心誠意伝える!!
とはいえ神眼も神の魔力も使わない、だって自分自身の力で戦いたいからだ!!
ジン器の短剣を持ち接近戦に挑む。
懐に入ればデイの人器や魔法の被弾を抑えられる。
降り注ぐ雷を避けながらデイへと接近する、それを見越してか、デイも人器である斧を構える。
ぶつかりあう2つの短剣と斧……武器での性能ならば重量のある斧であったが、俺は短剣に魔力を込めて力を入れ斧を弾く。
人器を弾かれたデイはそのまま後ろへと下がる。
「やるな!なら……」
デイが構えをとる。
両手を前に突き出し指を合わせ円を作る。
そして彼は魔力を込めた。
──ゾクッ
背筋に悪寒が走った。
そして次の瞬間には拳をデイの腹部にめり込ませていた。
「がはっ──」
デイが発動しようとしていた魔法は解かれ彼自身は俺の攻撃の衝撃で後方へと吹っ飛んでいた。
ほとんど意識せずの攻撃、俺の中であの魔法がやばいと思っての反射的な行動だった。
デイは壁まで吹っ飛ばされもたれかかるように倒れ沈黙する。
「すまんデイ!ついとっさに……」
動かないデイに内心やりすぎたか……となりながら近づく。
俺自身に制御が出来てない攻撃……これを俺の実力なんて言えない……
そう考えながらもデイの目の前まで来た。
人形のように沈黙するデイに俺は手を伸ばそうとした。
「いいや、全然だね!!」
その次の瞬間、デイが起き上がり手に雷の魔力を帯びさせながら突き出してきてそれを咄嗟に躱わす。
「あっぶね!!」
「チッ!不意打ちは無理だったか」
先程までピタリとも動かなかったデイは何事もなかったように立ち上がって俺と向かい合う、俺はそれを見てさっきまで動かなかったの演技だったのだと悟った。
俺は再びデイの攻撃が来ることを考え警戒しながら彼を見る。
しかし彼は……
「いやヤメたヤメた、あの不意打ちまで躱されたんだユートの勝ちだよ」
デイは両手を上げ降参したのだった。
「いやそもそもあの魔法すら使わせてもらえないのがキツかったなー!」
手合わせは終わり、次は反省会といったところだ。
デイは悔しがりながら魔法が使えないことについて話す。
デイのいう魔法は多分最後の方、俺が反射的に発動を阻止したやつだろう。
確かにあれは決まればやばかったかもしれない、けれど考えた結果現時点ではあまり脅威になるとは思えなかった。
なぜなら……
「いや、確かにやばそうだったけど……タメが必要なのが問題だな。
あれじゃ発動する前に潰されて終わりだ。
俺もそういう魔法使えるけど、多分激しい戦闘だと使えないとは思ってる」
そう、あの魔法の欠点それは発動までに時間がかかるというところ。
激しい戦闘においてタメが必要だということはそれだけ隙を晒すということ、それはあまりにも致命的すぎる。
俺も翡翠という魔法をつい最近習得したが、あれが使えたのは俺とクラディがそれぞれタメの必要な魔法を使おうとしたから使えただけであって。
本格的に実戦に組み込むとなると改良が必要だと考えていた。
「あぁ、やっぱりユートもそう思うか。
どうするかな……」
デイもその欠点には気付いて悩んでいるようだ。
「うーん、タメを極力短くするとか……タメられる時間を稼げるように立ち回るとか……かな?」
これは俺の翡翠にも関わってくる事、決して他人事ではない。
俺もその欠点をなんとかしなくては……とは考えるもののどうしたらいいのか……
「面白そうなことをやってるな」
俺達が悩んでいると背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
俺とデイはその声へと振り返り、その声の主を見る。
「「大隊長!?」
「ディーオン!!?」
俺とデイはほぼ同時にその声の主の名前を叫んだ。
そう俺達の目の前に現れたのはこの騎士団の大隊長ディーオン、間違いなくこの都市最強だ。
「おう、ディハンジョンまでの調整か?」
俺達が驚いてるのをよそにディーオンは俺達に近付いてくる。
「どうだ、俺ともやらないか?」
俺達の目の前にやってきたディーオンはそう提案をする。
パゼーレ最強からのお誘いだ。
「いや、俺は遠慮しておく……」
デイはそういって後ずさっていき俺とディーオンが向かい合う形になった。
「それでユウトはどうする?」
後ろに下がったデイを一目見た後、ティーオンは俺を見てそう言ってくれた。
その回答はもちろん……
「よろしくお願いします!」
ディーオンと戦えることは貴重だ、前は手も足も出ないほどの完敗だったがあれは学園に入る前の話。
今の俺がディーオン相手にどこまでやれるのか……それを試してみたい!
「よく言った、かかってこい」
ディーオンは余裕そうに俺から攻撃を仕掛けるように促す。
それだけの実力者、けれど俺だってあの時からずっと強くなってる!
「はいっ!」
ディーオンの言葉に強く返事を返してジン器の短剣をを手に取りディーオンに攻撃を仕掛ける。
「はぁぁぁ!!!」
ディーオンに向かって短剣が振り下ろされる。
素早い攻撃、ディーオンも全く動いていないこれは決まる!
そう確信していた。
しかし次の瞬間、ディーオンは俺が振り下ろした短剣をたった指2本だけで受け止めたのだ。
「なっ──」
やばい!そう思いもう片手に持ってるジン器もディーオンへの攻撃へと向かわせる。
その攻撃すらディーオンの空いていたもう片方の手で先程同様に止められてしまった。
「どうした、その程度か?」
余裕そうな表情を見せつけてディーオンは挑発する。
短剣を動かそうとするもディーオンの力は強く動く気配は全くない。
「そんなわけ!!」
ディーオンの発言に少しばかり怒った俺は足を蹴り上げた。
ディーオンは俺のジン器から手を離して少し後ろに下がる事で躱わす。
攻撃自体は効かなかったが、これで体は自由になった。
仕切り直しだ!
甘かった、ディーオンが強いことはわかっていた、けれど俺は自分の力を奢っていた。
今の俺なら少しは戦えると、けれど俺が強くなっても埋まらない圧倒的な力の差……
なんだよそのイかれた強さ……ワクワクしてくる!
全力を出そう。元は自分の力じゃないからだとか、そんな意地は捨てよう。
──神眼 開眼
優斗の瞳は白金色へと変貌を遂げる。
「お前……その眼」
神眼を開眼させた優斗に対しディーオンは呟くように反応する。
しかしその時には既に優斗は動いていた。
ディーオンの周りを囲むように駆ける。
ディーオンに自身の動きを読み取られないように撹乱するようにそして段々と速さを積み上げていき引き出せる一撃に備えるために。
神眼により身体能力は向上しディーオンの動きを読み取る。
回避すら出来ないくらい高速でディーオンをぶち抜く!!
この戦いを見ているデイが優斗の実体を見れないくらいに優斗は加速していた。
しかしディーオンはその場から動く気配はない、まるでいつでも来いと言わんばかりに堂々と立つ。
そして決着の時──
充分に加速を終えた優斗はディーオンの真正面から挑む。
魔力を足に込める、最大限に加速を遂げた優斗がディーオンに足から突っ込む。
加速を終え魔力を込められた足は風すらも切り裂く強大な武器へと化す。
そんな優斗を前にディーオンは動こうとはしない、そして両者がぶつかる。
結果、優斗の蹴りはディーオンには炸裂……出来なかった。
優斗の足がディーオンの体に衝突するその寸前に優斗の足はディーオンの手によって掴まれていたからだ。
「……クソっイかれてる!」
足を掴まれた優斗はディーオンに無理するような笑顔でそう呟く。
別に自画自賛するわけじゃないが、あの一撃はかなりの威力と速さがあったはずだそれなのにいとも簡単に止めやがった。
いったいどういう技術使って止めたんだよ。
そんなことを考えた瞬間、優斗のジン器である短剣が真っ直ぐディーオンの顔面へと襲う。
しかしディーオンはこれを躱わす。
「これも躱わすとかマジでや……ばぁぁぁ!!」
攻撃を躱したディーオンに一言言おうとした優斗だったがそのまま頭から地面へと思いっきり叩きつけられる。
「まだやるか?」
地面に倒れる優斗を見下ろすようにディーオンは戦闘の再開を問う。
「いや、流石にもう体動きません……」
体をプルプルと震わせながら俺は戦闘不能の意志を告げた。
あの一撃で体の至る所が痛めつけられて今は動かせそうにない……
流石にこれ以上戦うのは無理だ。
「そうか」
「おーい、優斗無事か?」
デイが心配そうな表情で近付いてきた。
「ああ、まぁな」
「っていうかさっきの眼とか動きとかなんなんだよ、俺の時は使ってなかったよな」
とデイから少しばかり痛いところを突かれる、うーんとりあえずは説明して納得してもらうしかないか。
そんなデイと優斗の会話を聞きながらディーオンは笑っていた。
先程の戦闘で優斗から付けられたら頬の傷から出てくる血液を指で拭いながら、彼の成長を喜ぶかのように。