【165話目】 炸裂!!
目前の敵、神衣を纏った男が迫ってくる、体からあふれてくる魔力を感じればこの男がどれほどの力を得たか理解できる。
しかし俺が今までこの都市で戦った神衣を纏った奴等とは根本的に違う。
だからこその本気、そんな俺に対してやつは仲間を逃しただ1人で俺に立ち向かう気だ。
男は駆ける、この大広間を縦横無尽に。
あまりにも速い動き、目で捉えているのがやっとだ、直接捕まえるのは無理だろう。
ならばこの空間全域にわたり攻撃を仕掛ければ良いことだ。
俺は空気を魔力で圧縮し、威力を込めた弾を作り上げる。それも複数個だけ。
けれどもそれだけでは終わらない、この弾は拡散する、無数に!!
圧縮した空気を無数のビームのような攻撃に変えこの空間を埋め尽くすように拡散させる。
逃げ場など無し、概念防御の盾を持つ女も無し奴にこれを防ぐ術は……
目の前の光景を見て絶句する。
誰も避けられない、そう思っていた圧縮空気を部屋中に打ち出す攻撃を奴は全て避け切っていたからだ。
奴の行動はめちゃくちゃ……だと思うがその行動全てが攻撃の回避へと繋がっていく。
攻撃を全て見通せる、これが神眼の能力か!?
だが、これだけで終わるわけはない。
人器を浮かせて操る、俺の人器は遠隔からの操作が可能という攻撃にも防御にも転じやすい利便性の良いものだ。
けれどこの人器にはも1つ効果がある。
それは……
奴の人器と俺の人器がぶつかりあう。
弾かれはしたが、もう充分役割はしっかりとこなしてる。
奴の手から人器がこぼれ落ちる。
攻撃が直撃したものの重さを数倍にする、それがこの人器の効果だ。
だというのに……奴はすぐに人器を捨てて向かってくる。
さらに多くの攻撃を奴に向けるがその尽くを回避し続ける。
けれどその程度躱せたところで!!
人器引き戻す、目の前の攻撃を避けるのに夢中になっていたやつは背後からくるチャクラムを認識するのが遅れた!!
奴の腕がチャクラムにより切断される。
広間に飛び散る血潮、宙に飛ぶ右の腕。
片手では俺の攻撃を凌ぐことは至難の業だだからこそ今ここで仕留める!
そう思った瞬間だった。
奴の斬られた腕から魔力が伸び、斬られ宙に浮く腕へとくっ付き元に戻る。
なんだあれ?奴の魔法は風系だったはず……
だとするならアレは神衣を纏った事で得た神の魔力によるもの!!
切断された腕の修復とかかなりえげつない……
そんな俺を見た奴はこちらを見ながら腕から滴り落ちる血を舐める。
その瞬間奴から狂気を感じ一瞬動きが止まる。
奴はその事に気が付き急接近した奴の拳での一撃をモロに俺の顔面へくらわせる。
「ぐはっ」
ここにきて初めてのまともなダメージ……やはりコイツ神衣有りきとはいえ俺たちのレベルに近づいてきてやがる!!
だが、その程度で負けるわけにはいかない。
体制を立て直し俺がとる行動は……
「──結界魔法」
そうしてこの広間全域に結界が張られたのだった……
───
目前の敵、クラディに迫る為、神衣をその身に纏う。
体を脈打つように流れる魔力、五感で感じる世界が変わる。
だからこそわかる、まだ足りないと。
先ほどよりは強くなったけれどギリギリクラディの強さには届いていない。
だから俺がやるべきは後ろに控える第2陣のためクラディを削りに削って勝ちに繋げる事。
届きはしないがそれでも即堕ちはしない。
でもそれじゃあダメだ、格上と戦う際に負け癖がついてしまっている。
勝ちたい、ここまでの力をもらったんだ。それで負けて正義の味方になるなんて都合の良い話は無い。
だから勝つ!相手が俺より強くてもこの戦いの最中に追い抜く気で!!
加速しろ、まずは動きで圧倒してみせろ。
足に力を強く入れ加速する。
クラディの周りを囲うように、狙い撃ちされないように、この空間全域を縦横無尽に駆け回る。
動き回り翻弄するユウトに対してクラディが動く、再びあの無数の圧縮された空気を空間全域に撃ち放ったのだ。
見える、見える、見える!
借りた目の影響か今までは透明で感覚で把握できたクラディの攻撃がはっきりと目視で見れる。
それだけじゃ無い、その攻撃が次の瞬間にどの経路を通っての攻撃なのかさえも見通せる。
ギリギリギリギリッッ!!
側面から何かを震わせてるような音を立てこちらへ突っ込んでくる存在を感知する、回避してはクラディの攻撃を受けてしまう。
ゆえにジン器でのガードをはかった。
ドンピシャで灰色の刀にクラディの人器のチャクラムが激突する。
しかしクラディの魔力で遠隔で操られてる影響かなんとか対処出来る。
すぐにチャクラムを弾き落としクラディへと向かおうとしたその時だった。
──ドンッッ!!
唐突に灰の刀が地面にくっつくようにして落ちた。
いや正確には落としてしまった。
突如としてジン器が重たくなったのだ。
十中八九クラディの人器の影響……接触した対象に重力を付与する……みたいな感じか?
クラディが重力系の魔法を使うのであればその効果は充分あり得る。
今はそんなことを考察している場合じゃない、少しでもやつにくらいつく!
ジン器を放り出しクラディの元へ向かうことを再開する。
しかし……
ギリギリギリギリッッ!!
再びあの音が聞こえる。
今度は回避できない!!
チャクラムにより俺の腕は切断された。
──ッッ!!!
痛い痛い痛い痛い!!
今まで経験したことない痛みが全身に走る。
ダメだっ!痛みに感情を持っていかれるな!!
クラディを倒すために!まだ折れるな!!
俺は無我夢中で魔力を切断された腕へ伸ばしキャッチする。
応急手当てでもいい!なんとかくっ付けろ!!
神の魔力の性質なのか、なんか腕はくっ付いた。
とはいえこれは魔力消費も半端ないし切断された腕の欠損がでかいと修復できない、いわば多様はできない荒ワザだ。
だからこそ追加で攻撃を仕掛けられたらまずい……なんでもいい!クラディの気をそらせれば……
だから俺は平然を装うようにこの状況を楽しむように腕から流れる血を舐めとった。
そして俺の予想は当たる。
俺の奇行を見たクラディの動きが一瞬止まる、この機会を逃すな!!
俺は拳に神の魔力を貯めて奴の顔面目掛けて強打させる!
出来るならば神の魔力に風の魔力を上乗せしたかったがそれは出来なかった……風と神の魔力は別々の為か反発し合い同時使用が困難だった。。
けれど神の魔力だけでもかなりのダメージを負ったはず!!
「──結界魔法」
次の瞬間、体勢をすぐに立て直したクラディは結界魔法を使用する。
結界魔法、それは空間に自身の魔法が込められた結界を展開する選ばれ熟練された魔法使いが使える魔法の1つの到達点。
使用者はかなりの魔力を持っていかれるも、結界内においての自身強化は絶大であり空間にいる人間に対してほぼ必中で魔法をくらわせることが出来るほぼチート技。
クラディは重力魔法を使う。
だからこの結界の効果は……この結界内にいる自身を除く人間に対しての重力で押し潰す単純でかつ強力な効果になってる。
今の俺もその効果で地面に這いつくばり動けずにいる。
かなり強大な力である結界魔法……だからこそ!対策を用意してきた!!
俺は床にピッタリくっ付いてる手のひらに魔力を込め、そしてその魔力を床に流し込んだ。
普通では何の意味もない行為だ、けれどそれは俺がこの空間を縦横無尽に駆け回って辺りの床に自身の魔力をセットしていたら話は別だ!
手のひらから床に流れ込んだ魔力は辺り一面に散らばってる俺の魔力全てに繋がる。
あとは魔滅神矢の要領だ、床の内側から風の魔力で切り刻む!!
魔法が炸裂し、大広間の床が崩壊した。
「なんだ!?」
結界魔法は確かに強力ではあるが……それゆえに条件だってある。
結界魔法は空中では発動出来ない、確かな足場がないと成立しない。
それを知っていたからこその床破壊作戦。
これによりクラディが発動した結界は足場が崩れた事で崩壊する。
「……そういう作戦か、だがそんなもの次の階ですぐに結界魔法を使えば問題な──」
クラディは下の階に着地する姿勢をとったが……
クラディよりも早く落ちた大広間の床だった瓦礫が下の階の床へと落ちる。
その瞬間、下の階の床も崩壊した。
「なっ──!!」
そうこれは事前にヒナリと打ち合わせていた作戦、城を下から捜索する彼に俺の魔力で粉砕し魔力を込めた粉末状の物を持たせて全階層の床にばら撒くように頼んでいた。
そしてヒナリはそれ達成してくれていたのだ。
故に、この崩壊は一階まで続く。
その間クラディは結界魔法の発動は出来ない。
「さぁ!第2ラウンドといこうか!!」
落下しながら俺はクラディに吐き捨てた。