【164話目】 神眼
神たる衣は1人の青年に2つの力を与えた。
神衣に力を込めし神の膨大な魔力、残念だがその神が持っていた過去を切り裂く強大な魔法は彼には与えられなかった。
しかし彼には全てを見通すこの世界には伝承でしか存在しなかった神たる白金の眼、神眼。
その異質で神々しい存在はこの空間にいるすべての生物の目を引く。
そんな彼と相対するクラディの心には動揺と優斗を完全な脅威として認識する。
クラディが神衣を纏った人との戦いは優斗が初めてではない。
たいてい魔力量が上がっただけで俺に敗れたり時間が経ち力の代償で死に至る者しかおらず誰もクラディには勝てなかった。
だが眼前の男は違う、これは魔力量が上昇したのではない。
魔力の質が変わっていたのだ。
魔力の質なんて1人1人特有で変わることのない個性のようなもの。
しかし優斗から溢れ出る魔力は先程と同様のものと先ほどとは完全に別の2種類の魔力を感じられているのだ。
「こい……グランメル」
優斗を脅威と認めクラディは人器を手元に呼び寄せる。
黒き刃が円状に付いているそれはチャクラムと呼ばれる物。
クラディは円の内側にある持ち手を掴みチャクラムを回転させる。
「舐めてた……ここからは本気だ」
眼前の優斗に吐き捨てるように語るも優斗は何も反応なく飄々と立ちクラディを見据えている。
クラディは人器を優斗目掛け放つ。
高速回転を加えられギリギリと鳴りながらチャクラムは疾走する。
それと同時にクラディは魔法で圧縮した空気を発して拡散させる。
本数にして3万本。
先ほどの数が多ければ威力が弱まる拡散空気とは違い、本気の魔力を込めた拡散空気は威力も数も桁違いに跳ね上がる。
無数の圧縮空気、そして高速回転で向かってくるチャクラム。
それらを前にして優斗は……ただ前へと走る。直線上にいるクラディ目掛けて。
──バカめ、そんな直線的で俺に近づけると思うなっ!!
クラディは駆けてくる優斗の周辺目掛けて圧縮空気を全弾集中させる。
辺り一帯を埋め尽くす高密度な魔力……腕に覚えがある普通の魔法使いですら攻略は出来ないだろう。
しかしひらひらと薄い紙のようにまるで何かの舞いを舞ってるかのように優雅に全てを躱わす。
神眼……その効果である視覚の強化、どんなに速い動きであってもこの眼には捉えられ、それどころかスローモーションのように感じられる。
今のクラディが放った圧縮空気やチャクラムのように、それに加えて身体強化もされ優斗はクラディの攻撃を回避することが可能になった。
圧縮空気を回避するついでのようにチャクラムを紙一重で躱わす優斗。
レイナを始めとした騎士団サイドの人間はそれをただ眺めているしか出来ない。
今自分が無事なのは優斗が攻撃を自身へ誘導する事で他の人に対して攻撃がいかないようにしているからだ。
下手に加勢すれば回避できずにすぐに圧縮空気なりに体を貫かれて絶命……最悪優斗の足手纏いにしかならない……
優斗の戦いを見ているしかできないヒナリは……
「……撤退だ」
「……は?」
ヒナリは自分達が次にすべき事を傍で倒れているトウガンに聞こえるように呟く。
「ここはユウトに任せてヒョオナを連れて離脱し後方の本陣と合流する」
「待てよ、それじゃあユウトを見捨てるというのか!?」
トウガンはヒナリの意見に反対の意思を見せる。
そう言い合っている間にも優斗は次々にくる圧縮空気を回避し続ける。
「魔力や体力が限界な俺達がここにいても何も出来ない……!なら俺達は俺達でできる事をする!!
ヒョオナを連れて本陣に戻って少しでも魔力と体力を回復させてる、それが俺達にとってベストな行動だ!!」
「…………わかった」
トウガンは何も反論できなかった、自分達が限界なのは事実。
何か出来ないか模索していたが十戒士の本当の実力や秘策で覚醒した優斗の戦いを目の前にその考えは崩れ去った。
2人はレイナ達の元へ向かう。
「行くぞ、撤退だ!」
「でも、ユートは!?」
「今はユウトを信じる!ユウトならアイツを倒せる、もしくは相当削ってくれる!!
俺達がここにいても……足手纏いだ」
撤退を受けたレイナはトウガンと同じく反対するがヒナリは悔しがりながらも優斗にすがるようにここを任せる判断をレイナに聞かせる。
レイナは納得はしていないが自分達が足手纏いになってる事は現状の戦いを見て理解できる。
レイナは黙って頷いた。
「よし行くぞ!このガラスから外へ出る!!……いちおうコイツも連れて行くか」
「待て……!」
レイナの了承を得て、ステンドグラスを破壊して逃走経路を確保してはヒナリは倒れているトードルを抱える。
しかしその時、トウガンから静止の声がかかる。
「なんだ?」
「…………ユウト!勝てよ!!」
トウガンはユウトに聞こえるような声で優斗を激励する。
そんな事したらクラディにもこちらの逃走がバレる、そんな危険な行動だ。
それでも……あんなに頑張って戦ってる奴に何も言えないのはどれほど悔しいか……
「なっ……しょうがない……ユウト!お前に言われてた"アレ!"ちゃんとやっておいたぞ!!あとは任せた!!」
トウガンに続くようにヒナリも優斗に声をかける。
そしてヒナリは先頭を行くように外へとトードルを抱えながら飛んでいく。
「お願い……死なないで」
ヒョオナも優斗へ激励というより懇願をする、そうした後ヒョオナはトウガンに連れられるようにヒナリと同じように外へと飛び出した。
そして残ったのはレイナ、少し立って黙る。
そして一呼吸した後彼女は口を開いた。
「──信じてるから」
そのたった一言だけを告げ外へと飛び出る。
「あぁ、わかったよ」
レイナの言葉を聞いて少しニヤけた優斗は回避だけだったのをジン器の二刀を取り出し周りの攻撃を全て叩き落とす。
「まかせろ!!」