【163話目】 ただ少女が幸せになるために
秘策であった神衣、それを使用するにはおそらく時間をかけなければいけない。
それも十戒士相手にだ。
流石にキツいものがあるなぁ……
「ユウト!秘策は!?」
トウガンが大声で尋ねる。
「それやるためには時間が必要です!ちょっと厳しい……」
俺はそれに対して大声で返す。
反応からしてクラディにはこの神衣についてバレてるだろう、なら他の人達に隠すのは得策ではない。
「なんでさっきのうちにやらなかった!?」
トウガンからのツッコミが来る。
まぁそうだろう、確かに城から放り出された時に神衣を纏っていればこんな事にはならなかった……
トードルがいきなり城に放り投げたから……ってもう終わった話はよそう、今はどうやって神衣を使う暇を与えるかだ。
「本当すみません!!」
謝罪の言葉を述べながら襲いかかるクラディの攻撃を避ける。
「…………時間を稼げばいいんですね?」
トードルの隣で倒れていたヒナリが体を震わせながら立ち上がる。
額から血を流しながらをその目は希望である優斗を見つめている。
「後輩の前、もう少しばかりかっこいいところ見せますか」
人器を握りしめ彼は走り出す。
その先にある希望に託すために。
「お、おい!……全く仕方ねぇ!!ユウトは後ろで秘策の準備を!!」
そんな彼を見てトウガンも立ち上がりそして走り出す。
俺はトウガンの言葉を聞きクラディの攻撃を避けながら後退する。
「ユートは私の後ろに!」
そんな時、レイナが盾を構えながら手招きしてくる。
レイナの盾、確かに防御にはうってつけだ。
でも女の子に護られるのは……なんて男のプライドは捨てろ。
クラディに勝つ!それだけを考えろ。
「レイナ……任せた!!」
俺はレイナの後方へといき神衣を再び纏う。
「どうして……?」
背後から少女の声が聞こえる。
「どうしてそこまでしてわたしをたすけようとするの?わたしが……しねばそれでいいのに!」
その声はヒョオナから聞こえてきた声。
少女は声も震わせ涙を流す。
願いを叶えられる魔法を持つ彼女が死ねばクラディの野望は潰える。
けれど……それじゃあ……
「それじゃあ俺が納得しない」
「えっ……」
「君はここにいる誰よりも未来を広げられるんだ、そんな君が1番死にたがっててどうする」
神衣を纏うと体という容器の中に段々とドロっとした液体が溜まっていくようで、それを容器いっぱいにしたいと思えるのだ。
「みんな1人1人が想いを持って戦ってるん、それはこの都市を護りたいとか悪いひとを捕まえたいとか色々とある。
俺は……君の幸せを願って今戦っているんだ」
ヒナリ、トウガンそしてトードルが少しでも時間を稼ぐためクラディに攻撃を仕掛ける。
攻撃を仕掛けては防御され、クラディの攻撃が俺に行かないように気を付けながら回避する。
けれど3人の消耗は激しく長くは持たない、走っている車を真正面から止めると同じくらい厳しいのだ。
「子供らしく笑ったり友達もつくって楽しく過ごしてほしいんだ。
だって俺が初めて会った時から君は、泣きそうでつらそうだったから
人のためなら自分がどうなってもいいって思えるほどの人思いでやさしい子だから、そんな子がただ辛いだけで報われない人生なんて嫌だ」
クラディが自身から広範囲の魔法を放つ、それに巻き込まれヒナリとトウガンとトードルは吹き飛ばされる。
邪魔がなくなりクラディの標準は再びおれへと移り魔法を放つ。
「させないっ!!」
その魔法をレイナが受け止める。
何者にも突破する事は出来ない堅牢なる壁。
「これは俺自身の願いでもある」
しかしクラディはレイナが防御に入る事を予想していた。
何発かを曲げて軌道をズラしてレイナをスルーさせ俺へと向かわせる。
「ッッ!!ユート!そっちに行った!!」
まだだ……あと少し、今大体首くらいまで溜まった。
ほんの少しで容器いっぱいに溜まりきる。
だから俺は動けない。
クラディの魔法が直進しそのままぶつかりその衝撃で砂煙が上がる……
やったなと自信げに微笑むクラディ。
しかしその表情は砂煙が消えて俺の前に立ちクラディの攻撃を自身の体で受け止めているトードルを見て消え去った。
「いけぇ!!心のファミリーよ!!」
クラディの範囲攻撃を受けた際、自身を魔法の対象にしてトードルは俺の前まで動いていたのだ。
「ありがとう、ございますっ!」
溜まる……頭のてっぺんまで液体が溜まりきる、それと同時に高密な魔力がボボボボっと噴き出した。
「俺は自分のために君が幸せにするよ」
最後にヒョオナにそう言い残し前へと歩く。
溢れ出る魔力、それは俺の魔力ではない。
ポワポワと体が暖かい布で包まれているような安心感がある。
目を開く、さっきまでの世界とは違く鮮明に綺麗に映る世界。
「いくぞ、クラディ。ここからは油断も慢心もしない、お前を……止めるッ!!」
そして彼の瞳は黒き眼では無く白金の眼。
神のそれも限られた者しか持つことが許されない眼、神眼を宿していたのだ。