【162話目】ユウト&トードルVSクラディ
優斗の隣に着地するトードル、この場にいる人間全員がその驚きの人物を目の当たりにして困惑する。
「なんで……十戒士候補なんかと一緒に!?」
口を開いたのはトウガン、まぁ疑問に思うのも無理はない。
俺だって理解なんてしていないのだから……
アレは俺がこの大広間から放り飛ばされた後の事……
───
「助けなきゃ……みんなを……!!」
強い意志と共に伸ばした手……しかしそれはどこへも届かずただ落ちていくしかなかった……
本来なら……ただその伸ばした手を掴む者がいた、それがトードルだった。
「なんで……あんたが?」
俺の手を掴むのはさっき戦い、神掌破の一撃の元決着を付けたはずのトードル。
また俺と戦いに来たのか?こんな時に面倒くさい!
今は一刻も早く戻らないといけないのに!!
考えろ!奴をすぐに倒す方法を!!
「それじゃあ!行くぞ!!」
脳内で考えを巡らせている最中の俺に耳元で大声が発せられる。
頭がキーンとなりながらも視界をトードルに意識させる。
「行くぞって……どこに?」
いきなりの大声で思考力が鈍ったのか俺は素直にトードルに発言の意図を聞いた。
「どこって……決まってんだろ?元上司に辞表を叩きつけにだ!!」
またしても大声で話すトードル、まぁだいぶ慣れたもので意識してた分さっきよりはマシだ。
それよりもまた意味が理解できない言葉だ、辞表を叩きつける?元上司??
「お前は……クラディに加勢しに行くつもりなのか?」
俺は素直に問いただす。
今すぐトードルを振り払ってでも大広間へ戻りたかったがもしもコイツがクラディに加勢するというのならここで再び戦闘するしかない。
いつでも攻撃が出来るように準備をしておこう。
「いや、お前達と一緒にクラディと戦うんだよ」
トードルはすっとんきょうな態度で話す。
なにを言ってるんだ?
「そんな事……信じられるとでも……?」
疑いながらもトードルの顔を見ながら問い詰める、もしかしたら俺を油断させるための嘘かもしれない……理屈ではそうだ。
けれど俺の中の何かが【トードルを信じてもいいんじゃないか?】と囁いている。
「俺を信じろ!……までは言わん、けれどそうだな……ただお前との戦いが楽しかった。
ただそれだけの理由だ」
あまりにも信念や、理屈の通らない理由だ。
それでも……彼の瞳には曇りなんて一切無く俺には嘘をついているようには思えなかった。
だから……そんな曖昧な理由だけど。
一度だけ、俺は彼を信じてみることにしたんだ。
「……わかった、俺はお前を信じる。
そうと決まれば大広間に戻るか!っとその前に秘策を……」
「よーし!それじゃあ行くぞ!!マイパートナーよ!!」
俺はトードルを信じる、そして大広間戻ってクラディとの再戦だ!
その前に今のうちに秘策を使おうとした瞬間、トードルは強い勢いで俺を大広間のステンドグラスへと投げ飛ばした。
いきなりで体勢を立て直せずそのままステンドグラスへと突っ込みそして今に至る。
───
「まぁ色々とあった!とりあえずは共闘関係!!」
俺はそれだけを伝えてクラディを見る。
さっきまでとは雰囲気がガラリと変わってる……きっと俺が受けた攻撃、神掌破……他の人の呼び方は知らんがの影響だ。
俺もなったことがあるからわかる、あの状態はまずい……割と全能感になって魔力の扱いが劇的に変わる。
そんな相手に秘策を出す時間はあるのか?……否、さっきの攻撃を参考にすると今度こそ終わる。
だから戦いながら隙を作る!
「とりあえず行くぞ!!」
俺は掛け声と共にクラディへと走り出す、後ろからトードルも追走してくるのが感覚で理解できる。
そんなトードルが俺の背に触れた、その手には敵意などは無く俺はただ走る。
クラディからの魔法攻撃が再び開始される。
感覚でわかる、攻撃の数が尋常じゃないほどに多い。
発射した瞬間に無数に攻撃を散らばらせたんだ。
完全な回避は困難……けれど突っ走る。
「はぁぁぁぁ───!!」
走る、避ける、避ける、走る、そして跳ぶ。
クラディの放つ魔力を頼りに襲いかかる無数の攻撃を避ける。
掻い潜る、そしてついに優斗がクラディが目の前にまで迫る。
しかしクラディはそれを見越していたかのように優斗の死角に攻撃を仕掛けていた。
無数の魔力で撹乱され優斗は気付かない。
優斗は気付かないまま、クラディへと攻撃を仕掛ける。
このままではクラディの攻撃は避けられず直撃する……はずだった。
優斗の動きが空中でピタッと止まる。
クラディの攻撃は優斗の目の前を通過して通り過ぎていった。
「おっと周囲不注意だぜ」
トードルだ……彼の魔法、触れた人や物の動きを操れる魔法。
クラディへ走る際に背中を触った時には条件は満たされ優斗が回避できない攻撃をトードルの魔法により回避したのだ。
「トードル……お前本当に俺を裏切るつもりなんだな?」
魔法を発動させ俺を援護したトードルにクラディは静かに尋ねる。
その隙に攻撃を仕掛けようとするも、拳を受け流されクラディを通り過ぎてしまう。
「あぁ!退職させてもらう!!退職金は……マイベストパートナーとの出会いだけで充分!!」
しかし俺のすぐ後ろにいたトードルが威勢よく飛び出して俺の攻撃を受け流した直後のクラディの顔面を思いっきり殴りつけた。
「ッッ……貴様ァァ!!」
クラディの怒号が響く。
その瞬間にクラディは拳をトードルの腹部へと突き出し血反吐を吐かせながら殴り飛ばす。
さきほどまでのでトウガンとヒナリ、そして今の攻撃でトードルが満身創痍、立つのがやっとのレベルになる。
「ユウト!秘策は!?」
トウガンは戦いの前に優斗が言っていた秘策のことを思い出し優斗に促す。
「……!!やります!!」
優斗はトウガンの声に応えるように、懐から純白に金の装飾が施された布を取り出した。
「お前それはっ!」
その布を見た瞬間、クラディは反応する。
この布は決戦前、避難所から離れる際にサンスインの老人達から受け取った物だ。
老人達の話からするとこの布は"神衣"纏いし者に絶大な神の力を与えるとの伝承を残した物だという。
正直半信半疑……それでもあの人達がこの都市を救うために俺に預けてくれた大切な物、俺はあの人達を信じる。
ぶっつけ本番。
老人達からはいざとなった時にしか使ってはいけないとめっちゃ念を押された。
今川そのいざって時だ!!
神衣を纏う、体全身に暖かくも柔らかい不思議な感覚に襲われる。
けれど絶大な力は得られない。
「"それと相手するのが面倒だ"」
クラディが魔法を放つ、回避しようと動こうとするも足に動く気配は無い……それどころか全身が動かない!?結果としてクラディの魔法がそのまま直撃する。
「グハッ!!」
クラディの攻撃により吹き飛ばされる、その瞬間纏っていた神衣は俺の体から弾かれ宙をふわふわと舞う。
「阻止出来てよかった、またあの面倒なのはごめん被るからな」
クラディは俺を見下すように語る。
阻止出来てよかった……?その言葉を素直に受け止めるならそのままでは神衣の力を引き出せないのか。
けれど……彼の反応や神衣を纏った感覚からいってアレは本物だ。
ただ神衣の力を引き出すための条件……老人達は何も言っていないところを見るにド忘れしたのかそれとも時間経過なのか……
どちらにしてもクラディをどうにかしなければいけない……
正直ガチでキツいが……
なんとかするしかない。