【160話目】 覚醒による弊害
サンスイン城最上階の大広間に優斗が降り立つ。
レイナとヒョオナの前に出て真正面に立つ男をただ見据えていた。
「あんたのバカでかい魔力のおかげでここがわかったよ」
優斗は落ち着いた様子でクラディが放った魔力で居場所が判明したと告げる。
優斗には煽りの意識はないけれどその飄々とした態度がクラディの癪に触った。
「誰かと思えばあの時俺にボロ負けした奴か。俺の攻撃を一度凌いだくらいで勝ち誇った顔を……するなっ!!」
言葉が終わると同時に再び空気を圧縮した攻撃を優斗に向けて放つクラディ。
しかし彼の目標は優斗ではなく、後ろで動けないでいるレイナ。
先ほど同様、攻撃を拡散させ優斗を通り過ぎてレイナを始末する。
そのまま厄介な盾持ちの女を始末出来ればそれでよし、もしも男が助けようとすればその隙をつく。
どちらに転ぼうがクラディにとって都合が良い結果となる。
「──ユートッッ!!」
攻撃を見てレイナが注意を促すように叫ぶ。
しかし優斗は狼狽える様子はなく、レイナの方を振り返る。
「レイナ、ヒョオナを守ってくれ。信じてる」
笑顔でそう言った瞬間、優斗は真正面に突撃する。
目には見えないが魔力の流れで来るのを感じるクラディの攻撃、それに真っ向から挑む。
「──接続」
優斗は攻撃を目の前にそう呟き、3本の短剣を合体させ、1振りの灰刀へと変化させ一直線に目の前に存在する魔力の流れへ振り切りまたもやクラディの攻撃を断ち斬った。
「なっ──!」
「今は……調子がいい」
2度、攻撃を斬り裂かれ驚愕するクラデイをよそに優斗は脚を踏み込んで加速する。
──速いっ!!だが捉えられない速度ではない!!
クラディは再び攻撃のモーションを見せる。
それを見た優斗は真正面から右回りへと回り込むように動きを変える。
クラディは優斗の姿を目で追い、複数発、攻撃を仕掛ける。
発射される空気、それを優斗は涼しげな顔で何度もギリギリで回避しながら徐々にクラディへと迫る。
現在の優斗がここまで戦えているのはトードル戦での神掌破によるものだった。
神掌破とはこの世界の1つの現象、狙っては出せる人間はいない。
けれどもし出せたのなら一時的にだが覚醒状態へと入り、魔力の出力と制御が格段に向上する。
更には魔法使いとしての限界という壁を破壊する。
ゆえに今の優斗はトードル戦にて魔法使いとしての限界を一段超え、一時的に本来の実力以上を引き出せている状態なのだ。
──コイツは……やばい。
クラディは優斗の異常性に気が付く、このままだと苦戦は必死だ。
攻撃は回避されるならば……
クラディはレイナとヒョオナの方を振り向く、攻撃を彼女らに向ければ奴はきっとそっちの方に気を取られる。
一瞬の思考の後、クラディはレイナ達に向かって攻撃を仕掛ける。
しかし空気を放った瞬間どこからか短剣が飛び出してきてクラディの攻撃を弾く。
クラディがレイナ達に視界を向けていた瞬間に優斗はジン器を灰刀から短剣へと戻しておりそのうちの一本でレイナ達を守った。
その間にも優斗がクラディの目の前にまで迫る。
攻撃を仕掛けようとするクラディだが、拳を突き上げた時には優斗はクラディの拳に手をかけ床から脚を跳ねさせる。
クラディの攻撃は当然命中する事なく空振りに終わる。
優斗はそのままクラディの背後に立つ。
振り返ろうとするクラディだったが……突如として後ろに……優斗の拳に引き寄せられ体制を崩し優斗の一撃をその背中に向ける。
痛い一撃を喰らうも立て直そうとするクラディに優斗はラッシュを仕掛ける。
何度も何度も何度も優斗の拳がクラディを引き寄せては打撃をくらわせる。
風の魔力を拳に竜巻のように強く込め近くのものを引き寄せその勢いのまま殴る。
優斗からのラッシュを喰らいながらクラディはその結論に至った。
「ふんっ!!」
クラディは優斗の拳を自身の手で弾く。
勢いのせいで優斗は仰け反り一瞬、無防備な姿を晒す。
その瞬間をクラディは逃さない。
拳に魔力を込め、ゼロ距離での圧縮空気を放とうとする。
優斗はその攻撃がくる場所を予測しなんとか右腕だけでも防御の姿勢をとり受け取めようと魔力を込める。
優斗は現在覚醒状態、全能感を感じておりそのせいで本来の作戦を遂行出来てはいない。
安易な覚醒に頼ってはいけない。
なぜなら……
「──エヴォルグ!!」
クラディの拳に込めた魔法が受け止めようとした右腕ごと優斗の身体を貫いた。
エヴォルグ……それは優斗でいうところの神掌破。
神掌破はこの世界の現象の1つに過ぎない、ゆえにこの世界に住むものなら誰にでも出来る可能性があり、クラディは今撃ちだせたのだ。
安易な覚醒に頼ってはいけない。
なぜなら
相手の突然の覚醒に対応出来ないのだから。