【159話目】 概念防御の盾
各地で戦闘が行われている最中、城の最上階に入り込む人物がいた。
レイナである。
本来はユウトと共に来るはずだったがここに来る前、何者かに襲撃を受けそれの対処の為に残ってしまった。
なんとか内部に侵入することが出来たけど……ここから誰にも見つからずに1人でヒョオナちゃんを見つけられるの?
レイナは不安そうに探索を行った。
誰にもバレないように静かにけれども速やかに探索を開始する。
しかし人の気配はなく、接敵する事なく最上階の探索を行えそしてあっけなくもヒョオナが囚われてる部屋へと辿り着く。
そこは部屋というより鳥かごのようで周囲を金色の檻で囲まれ出られないようになっている。
そこでヒョオナは部屋の中央にある大きなベッドの上で膝を抱えうずくまっていた。
「助けに来たよヒョオナちゃん」
そんな少女にレイナが声をかける。
その声を聞きヒョオナはレイナの方を振り向く。
「なんでここに?……いや、かえって!こんなことしてあの人に見つかったらおねえちゃんもひどいことされる!!」
ヒョオナはレイナを拒絶する。
震える声を張りながらも目には涙を浮かべながらも。
そんな少女を見てレイナは部屋唯一の扉へと近づく。
扉には鍵穴があり鍵がないと入れないようになっているみたいだ。
レイナはその鍵を持っていない、この部屋は事前にサンスインの人達から共有された情報にはなかった部屋。
おそらく凶震戒の人達がここを乗っ取った時にそれ専用に改築したもの……
今すぐ鍵を探してきた方がいい?
……いや、私は……
泣いている子をこのままには出来ない!
「ちょっと手荒になっちゃうけど……許してね」
レイナは己の人器である雪の結晶の形をした半透明の盾を取り出した。
その様子をヒョオナは何をするんだろ?と言わんばかりに眺めていた。
「やあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
レイナが大声をあげながら盾をぶん回して扉を破壊する。
破壊された扉はそのまま飛んで部屋の手前ら辺に落ちレイナは部屋へと入る。
「え、えぇ……」
あまりの力技に呆気に取られるヒョオナの手をレイナはすかさず取り、そのまま部屋の外へ走り出す。
「わ、私のことはいいから!そんなことしたらおねえさんだって!!」
手を引かれながら必死に訴えかけるヒョオナ、それでもレイナは足を止めない。
「私の事なら大丈夫!だからヒョオナちゃんも諦めないで!!」
走りながらもヒョオナの方を振り返り、力強くレイナは説得する。
……だが
「そういうことされると困るんだよ泥棒猫」
突如声が聞こえ強い衝撃が2人を襲った。
「「きゃっ!!?」」
そのまま2人は吹き飛ばされて広い空間に到達する。
その空間は不気味なほど白く、レイナ達の背には巨大なステンドグラスがありそこからは外が見える。
「ここは大広場……儀式を行うための空間だ」
先ほどの声の主が姿を現す。
今1番2人が遭遇してはいけない人物、十戒士クラディだ。
現状部屋の両端で睨み合う状況になる。
「とりあえず……巫女を返してもらおうか」
そう言った瞬間、クラディはレイナに向かって拳を突き出す。
それは以前、ユウト・チャーチス・ヒナリとの戦いで見せた空気を重力で固めて相手に飛ばす攻撃。
それを真っ直ぐレイナへと浴びせる。
異変に気付いたレイナはすぐに人器の盾で前方のガードを行う。
そのレイナの行動に対してクラディはニヤリ笑う。
──馬鹿め!こよ攻撃にはいかなる防御も通用しない!!そういった概念のある攻撃だ!!そんな盾なんてすり抜けてお前にダメージォ与える!!
だからその盾の意味がない……レイナに直撃するとクラディは思っていた……
クラディの放った空気の弾がレイナの盾に弾かれるまでは……
「ッッ!なんとか……防げた」
「……は?」
盾の影からダメージを喰らっていないレイナが出てきてクラディの思考は一瞬フリーズする。
──あの攻撃は誰にだって防げるはずがない!それは格上のボスだって例外ではなかった。
ならなんで……あの娘の魔法?いや魔法を使った気配はない……なら……
「概念防御の盾かっ!!」
出ている情報を元に断定する。
あの人器は防御を貫通する概念……すらも防御出来る盾。
人器の中には概念に干渉するものもあると聞くがまさかそんな人器をあの娘のが持つとは!!
だが、そう断定してしまえば対処は容易い。
あの盾が攻撃を防ぐのであればあの盾を無視すればいいだけの話だ。
クラディは再び拳を突き出して圧縮した空気をレイナへと飛ばす。
「また来たっ……今回も防ぐ!」
レイナは自身の前方に盾を構えてクラディの攻撃を防ごうとした。
「弾けろ」
そしてクラディが言葉を放った瞬間、圧縮された空気はレイナへ真っ直ぐ飛んでいき……盾に当たる直前に無数に拡散した。
拡散された空気は軌道を曲げレイナの盾を避けるようにし盾を通り過ぎた瞬間にレイナ目掛けて四方から降り注ぐ。
「ギャッ……!」
無数の圧縮された空気がレイナを襲う。
拡散している状態だった為に1つ1つの威力は弱いがその分、数でレイナを圧倒する。
まともに攻撃を受け、膝をつくがそれでも彼女は人器の盾を支えに立ち上がりヒョオナを庇うように立つ。
「もうやめて!おねえちゃんこのままじゃ死んじゃう!!」
ボロボロのレイナに縋りつくようにヒョオナは泣きながら懇願する。
確かに一回の攻撃だけでほぼ満身創痍、力の差は歴然……
それでもレイナの目は死んではいなかった。
ここでこうしてヒョオナを守っていることに意味はあったのだから。
「大丈夫だよヒョオナちゃん」
泣くヒョオナにレイナは笑顔を向ける。
───たとえ絶望的な状況でも彼女は信じているから
「これでお終いだ」
再びクラディは攻撃を仕掛ける。
先ほどと同じ曲がる空気の攻撃、それに対してレイナは真っ正面に盾を構える。
不規則な軌道、そして何より目視が出来ない攻撃。
たとえ多少防げたとしても圧倒的な手数には太刀打ちできまい。
「……弾けろ」
クラディの言葉で再び空気が拡散しようとした瞬間だった。
──ガッシャァァァン!!
ステンドグラスが大きな音を立て割れ人影が大広間へとド派手に侵入する。
その人影は今まさに拡散されようとしている空気の目の前に着地しそのまま持っている刀でクラディの攻撃を斬り裂いた。
──来てくれるって信じていた。
だって彼は私にとって……
「ごめん……遅れた!」
クラディの攻撃を斬り裂いた後、彼は振り向く。
作戦開始時に彼が頭に巻いていた赤い鉢巻が風に煽られユラユラと揺れる。
「うん大丈夫だよ!ユート!!」
私は彼に笑顔で答えた。