【15話目】試験終了
戦闘開始の宣言がされてまず先に仕掛けたのはヴァーリンだった。
始まった瞬間、ヴァーリンは真っ先に後ろの壁の近くまで下がって俺との距離を離してヴァーリンの人器である杖を俺へと向けた。
「アクアバレット!」
そうヴァーリンが唱えた瞬間、ヴァーリンの持っている杖からは水の大きな塊が俺に向かって発射された。
俺は咄嗟にさっきの戦闘と同じ様に、人器の大剣を床に突き立てて守りの体制をする。
だが、大剣で水の塊を防ごうとするも、威力が思った以上にあってガードした反動で後ろに押され始める。
ヴァーリンが壁の近くまで下がったのは恐らく、ヴァーリン自身が遠距離攻撃型の魔法使いであり、少しでも相手から距離を離して戦う戦法が得意だった為だと俺は推測した。
しかし、明らかにさっきのザーコオの魔法よりも威力は高く、このままなら、俺が負けるだろうを
なんとかしてこの状況を打開しなければ。
だが、剣に当たっている威力的に、この水の塊に当たったら恐らく俺はただでは済まないだろう。
だが、1つだけヴァーリンに勝てる手段がある。
これはさっきのザーコオ戦では使っていなく、他の試験生にも見せていない。
なぜなら俺はなんとなくもう一回戦う事を予感していたからだ。
そして俺は体から今あるだけの魔力を練り出した。
「ま、魔力!?魔法は使えない筈では!?」
俺が魔力を出した途端、ヴァーリンは驚いて攻撃を一旦やめてしまう。
俺が魔力を出せたという事実に驚いているのだろう。
他の試験生達は俺の人器やさっきのザーコオとの戦いで俺が魔法を使えないと思い込んでいる。
まぁ実際に魔法は使えない、だが魔法は使えなくとも俺は魔力は使えるのだ。
魔法というは人の体の中に魔力を巡らせて人それぞれの違う魔法を使うとものだが、俺はまだ魔法は使えない。
けれども、魔力を体に纏わせる事くらいは出来るのだ。
そして俺が魔力が出せるのに驚いて魔法が止まっている隙に俺はヴァーリンへの攻撃の準備をする。
俺は体に溢れて出させた魔力を足に集中させて陸上でよく見るクラウチングスタートのポーズをとる。
そして魔力を込めた足で思いっきり床を蹴って走り出した。
その速度はさっきのザーコオ戦の時とは比べものにならないくらい速い。
「なっ……はやい!」
俺が走り出してきて正気を取り戻したのか再び魔法で水の塊を俺に放った。
そしてその水の塊が俺の前まで迫り俺に直撃しようとする。
その当たりそうになる一瞬、俺はディーオンとの特訓の事を思い出していた。
「ユウトはさ、魔力の操作が他の人比べて上手いんだよな。」
特訓の合間の休憩中に息を切らして座り込んでいる俺にディーオンが話してきた。
「魔法とか、使えないのに、魔力の操作が上手いとか、あるんですか?」
息を切らしながら、途切れ途切れにディーオンが言った事についてを聞いた。
魔力の操作が上手いのに魔法が使えないなんておかしな話だ、そう俺は思った。
「あるぞ、魔力の操作が上手くても、魔法が使えるとは限らないもんだからな。それよりも魔力の操作か上手いについてだ。」
と俺の問いに軽く答えて魔力操作についての話に入った。
それにしたって、魔力の操作が上手くても魔法が使えないのは納得はいかないが、まぁ実際に使えないのだからそこは仕方ない。
「魔力操作が上手いって事は、好きな箇所に魔力を集中させられる事だ。
それを上手く使えば、下手な魔法使いの攻撃より強力な攻撃が出来たり、相手から攻撃を受けるとしてもその箇所に魔力を集めて防御力も高めらたり出来る。
だからお前が今やる事は、魔力の操作性を更に上げる事だ。」
魔力の操作についての利点や、今後の目標をディーオンに言われる。
魔法が使えないのは残念だが、魔力の操作が上手い事の利点を聞くにそんなに俺の魔力の才能は捨てたもんじゃないようだ。
「ほら、さっさと特訓の続きをするぞ。早く立てよ。」
そしてディーオンが俺を立たせて特訓の続きをする。
結局、その後ボコボコに叩きのめされて終わったんだがな。
俺は魔力の操作が上手い。
その時のディーオンの言葉を意識した。
俺は足に集中させていた魔力を即座に左手に集中させる。
そして俺は、飛んで来た水の塊を魔力が集中している左手で弾いた。
俺の左手に集まっている魔力が水の魔力よりも強く、俺はダメージを負わずに魔法に対処が出来た。
魔法の対策をした後すぐさま、左手に集めた魔力を再び足に集めてヴァーリンの方まで走っては魔法が飛んで来た時は、また手に魔力を集中させ防いで進んだ。
ようやく俺はヴァーリンの目の前まで接近した。
俺は、動きが速く対応しきれていないヴァーリンの右手で前に構えた杖に狙いを定めた。
俺は左手を軽く握って、少量の魔力を込めて杖を持っているヴァーリンの右手に向かって軽く裏拳をかました。
威力としてはそこまで無いが、素早い動きといきなり攻撃に驚いた、ヴァーリンは持っていた杖を手から離してしまった。
「そんな……嘘でしょ!?」
杖が手から離れたのを認識したヴァーリンは驚いたが、すぐに体勢を立て直し、俺との距離を取ろうと後ろへと飛んだ。
のだが!
ゴツンッ!
ヴァーリンは忘れていたのだ、自分が遠距離攻撃型の為、俺から距離を少しでも取ろうとして壁の近くまで下がっていた事に。
前にいた俺だけに気を取られてしまったヴァーリンは後方を確認せずに後ろに飛んだ事により壁に背中をぶつけ逃げ場がなくなっていたのだ。
これはチャンスだ!
そう思った俺は、更に足を踏み込んでヴァーリンとの距離を詰める。
俺は右手を握り締めて威嚇の為、魔力を集めて殴り込んでヴァーリンの顔に寸止めをしようとする。
拳がヴァーリンに近づく。
その瞬間思い出す、さっきの戦いの結末を。
俺はザーコオに寸止めをしようとして加減が効かずに失敗した事に。
俺のバカ野郎!
さっきの失敗を忘れてまた同じ失敗をしようとしていた。
恐らく、今回も寸止めは失敗するだろう。
なら俺がすべき事は、右手を止める事よりも手が当たる位置をズラす事だ。
右手をヴァーリンへ進めると共に手を徐々に右へとズラしていく。
少し投げやり気味になってしまい、俺はその時に目を瞑ってしまう。
ドガーーン!
何かに手がぶつかった。
音的に人にはぶつかってはいない気がした。
魔力で手を覆っている為か壁に当たっていても痛みはなかった。
俺はゆっくりと目を開ける。
目を開けて真っ先に目に入ってきたのはヴァーリンの間近に迫った顔だった。
俺とヴァーリンとの距離はギリギリ触れるかどうか位の近い距離だった。
ヴァーリンは何が起こっているのかわからいようで顔を赤くしていた。
そのままの体制で沈黙の時間が過ぎていきヴァーリンの目が潤っていっていったを
「えっ?わ、私がま、負けーー負け?そ、そんなーーそんなーーーー」
気付いた時にはヴァーリンは顔を真っ赤にして目から多くの涙が溢れさせて泣いていた。
ヴァーリンのその言葉は最初の偉そうな言葉遣いとは違って、言葉と表情からはなんだか普通の女の子って感じがした。
って、そんな事考えている場合じゃない!
そう思ったがどう話しかければいいかわからず俺はその場であたふたしているだけだった。
「お嬢様ぁぁぁ!!」
突然、後ろから大声が聞こえたかと思って後ろを振り返ろうとした瞬間だった。
横腹に強い衝撃を受け、横方向に思いっきり吹っ飛ばされて壁に思いっきりはぶつかり、床に倒れる。
壁にぶつかった事で体全体に痛みが走ったがゆっくりと立ち上がって俺が吹き飛ばされた原因を見た。
そこで見えたのはヴァーリンの執事が泣いているヴァーリンに近づいている所だった。
「セバス。わ、私負けちゃっーー」
ヴァーリンは泣きながらセバスに言ってる。
「大丈夫ですぞ、お嬢様。今日ただは調子が悪かっただけですぞ。もう帰りましょう、さっ私の背に乗ってください。」
そう言って、その執事は泣いているヴァーリンを背中に背負い、物凄い速さで部屋から出て行った。
そして部屋から出た執事が、そのまま試験会場から立ち去ろうとした時だった。
「待って!セバス!」
執事の背中に乗っていたヴァーリンがいきなり執事に立ち止まるように命じた。
その言葉に従うように執事は立ち止まりヴァーリンの方に目を向けた。
「セバス、私を降ろしてもらえませんか?」
ヴァーリンの口調はさっきまでの普通の女の子からまたおかしなお嬢様口調に戻っていた。
執事は戸惑いながらもゆっくりとヴァーリンを自分の背中から降ろした。
執事の背中から降ろされたヴァーリンは、袖で目を擦って涙を拭いて、足をレイナの方に向けてまっすぐ近づく。
近づいてくるヴァーリンを見てレイナは先程の事を思い出したのか、少し足を後ろに引き下がろうとする。
しかし、すぐにヴァーリンが距離を詰めて逃げなくさせない様にした。
そしてヴァーリンの口が開く。
「先程、貴方に対して無礼な発言をした事を謝罪させてください。
先程は、大変申し訳ございませんでした。」
そう言ってヴァーリンは頭を下げた。
いきなりのレイナに対しての謝罪にレイナや周りにいた人達の動きが一斉に固まった。
さっきまでの偉そうな態度とは打って変わり礼儀正しい態度に全員驚いたのだ。
「そ、そんな私なんかに頭を下げないでください。」
自分より立場が上な貴族のヴァーリンが自分に頭を下げて謝罪したという事実にレイナは困惑しながら頭を上げるように言った。
しかし、そのレイナの言葉を無視して、ヴァーリンはレイナに対して頭を下げ続けていた。
しばらくしてヴァーリンは頭を上げ、レイナに指を指した。
「別に、勘違いしないでくださらないで?
私は、ただ約束は守ると決めているのです。
だからこれは彼との約束は守っただけですことよ。」
どうやらヴァーリンは俺との約束を忘れておらず、自分が負けた事を認めてレイナに謝罪したのだ。
謝罪が一通り終わってヴァーリンの指はレイナからまだ部屋の中にいる俺に窓越しに向けていた。
「ユウトと言いましたね貴方。
今日は負けましたが、次に学園で会ったその時は、覚えていなさい!
さ、帰りますわよセバス。」
ヴァーリンはそう言い残して執事を連れて余裕そうな顔をしながら試験会場から去って行った。
あまりの出来事で周りの人達は何が起こったかわからずに全員ポカーンとなっていた。
そんな状況の中、俺は部屋の中から出た。
俺が出てきたのを見てレイナが俺に近づいてきた。
「その、ユート。ごめんね?」
俺に近づいてきたレイナがいきなり謝ってくる。
恐らくヴァーリン関係だろう。
自分のせいでこんな事になってしまったのを申し訳ないと思ったのだろう。
だが、これは俺がヴァーリンの態度が気に入らなかったからやった事だ、レイナは悪くはない。
「いいや、大丈夫だよ。ただ俺が勝手にやっただけだから。」
レイナに心配かけないように言った。
その言葉を聞いたレイナは何かを話したがっているような表情をしたが、すぐに表情を戻し、話そうとするのをやめた。
ここで何を話そうとしたかを聞くのは流石にレイナに失礼だと思い、追求をしなかった。
それにしてはさっきのヴァーリンか言っていた『学園で会った時は』か、まだ合格も決まっていないのに気がはやいだろ。
そう思いながら俺達はヴァーリン達が去って行った方を見ていた。
色々とあったが、これで試験は終了。
あとは結果を待つだけだ。