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やさしい異世界転移   作者: みなと
星降る都市
155/241

【154話目】 トードルとの決着

 俺は戦いに飢えていた。

 体と体、拳と拳そして魔力と魔力のぶつかり合い男も女も関係ないただただ楽しい戦い、だから凶震戒に入って地位を上げた。


 けれど地位を上がれば上がるほど……戦いが楽しくなくなっていく。

 前は凶震戒内でも色んな奴が俺に戦いを挑んできてたのに十戒士候補になってからは戦う相手がいなくなっていた。


 任務で戦う相手はまるで歯応えのしないつまらない奴等ばかり……


 だけど!そんな退屈な戦いはここまでだ!!

 なぜなら目の前に!俺を楽しませてくれる男が現れたからだ!!!

 シンドウ・ユウト、奴は現状、脅威とは呼べない小僧にすぎん……のだが、奴との戦いで得られる謎の高揚感、俺には1つの確信があった。


 コイツは更なる高みへ昇っていくだろう!


 だから俺は襲撃などというくだらない任務より直感で感じ取ったユウトの気配を追ってここまで戦いに来た!!


 こうして相対しただけでわかる。

 たった1日やそこらで魔力の流れの感じがだいぶ変わった。

 何があった?なんて野暮な事は直接は聞かんだからこそ拳で語り合う!


 そのまま2人は接近戦へと移行する。

 場所は普通の家屋の屋根の上、2人は自分が落下するとは思わずに派手に撃ち合う。

 互いに魔力を込めた攻撃防御を繰り返し決定打となる攻撃は出る気配がない。

 このままでは埒が開かないと判断したユウトの掌打からの魔力を放ちトードルに一瞬の防御の隙を与えた後即座に後方へとバク転をしながら下がる。

 

 一旦下がるか!ならば、追うまで!!


 トードルはユウトを追撃するように屋根の上を前進して近付く、がしかし……

 ユウトとの距離を少し詰めたところに踏み込んだ瞬間トードルの足元から強烈な風が吹き荒れトードルを覆った。

 "地風"これは風の魔力を地雷のように設置してその魔力を踏んだ者に攻撃を行うユウトの魔法だ。

 それにより高速回転する竜巻の中でトードルは浮かされ防御もままならないまま風の魔力で切り付けられていく。

 ダメージこそは抑えているもののそれでも拘束系の技としてなら充分有効だ。


 確かに協力なワザだ……だが!!


 トードルは竜巻の中にいながらも魔力を溜め、全身から魔力を放出し竜巻を掻き消したのだ。


 さて次は俺の番だなっ!ちょうどさっきの竜巻で屋根のタイルが剥がれている、これを使うか!


 トードルは散乱しているタイルの一つを掴んでそのままユウトの顔面目掛けて投げる。

 勢いよく飛んでくるタイルに対してユウトは魔力でのガードを試みる。


 そうだ!あの速度、いきなりでは避けれまいならば魔力で防いでくるはずだ!そこが狙い目!!


 ユウトの目の前にまで来たタイルは突如、空中で爆散し細かな破片となってユウトの視界を埋め尽くした。

 ユウトは思わず目を瞑ってしまう……それがトードルの思惑だった。

 

 ここっ!!


 トードルはユウトと距離を詰めそのままユウトの首目掛けてラリアットをかましてユウトは後ろへと吹き飛ぶ。

 ユウトはなんとが空中で体勢を立て直してタイルを擦りながら停止する。

 トードルは追撃を止めないそのまま真っ直ぐユウトへと向かう、ユウトもカウンター狙いで構える。

 ……がトードルの狙いは別にある。

 それはタイルの破片でユウトの視界を断った時に投げて今はユウトの後ろにあるタイルだ。

 トードルが真っ直ぐに向かう中、タイルだけは横から遠回りするように動かしてユウトの背後を取らせていたのだ。


 たとえ後ろのタイルに気が付いたとしても前からやってくる俺との挟み撃ち!

 どちらかしか対応は出来ない!!

 さぁ、どうする!!?


 しかしユウトの背後を何かが横切りそこにあったタイルは砕けて散った。

 そしてトードルは見る、ユウトの周りを浮遊している彼のジン器の短剣を。


 そうかっ!己の人器に周りを飛ばさせて俺の遠距離攻撃を防いだって訳か、前回よりもずいぶんと道具の扱いが上手くなって……

 だが、人器自体の動きは単調!俺なら回避しながらユウトとの接近戦に持ち込める!!


 トードルは向かってくる短剣を回避しながらユウトに接近して格闘戦へと移る。

 ──動く、動く動く。

 2人は攻撃、それの回避や受け身で激しく動く。

 ユウトの蹴りにより後方へと吹き飛ばされながらも体勢を崩さないトードル。

 いつのまにか2人は先程地風が発動した屋根まで戻って来て殴り合っている。

 一見互角のように見えるその攻防だが、その実ユウトがだんだんと押していってきているのだ。


 なにっ!?一撃毎に速さと重さがましていく!!?


 トードルが驚愕しているその間もユウトの攻撃の手が止まる事はない。

 一撃一撃をガードの上からしっかりと決めトードルの反撃する隙を与えずにラッシュをかける。


 流石だっ!俺に反撃させることを許さない気だな?

 だが、まだ終わらせるには勿体無い!!


「まだまだぁぁ!!」


 ユウトからの攻撃を受けながらもトードルは全身から魔力を放出し、それを回避するためにユウトは後ろへと引いた。

 睨み合う両者。


「さぁ!まだまだ楽しもうじゃないか!!」


 楽しそうに話すトードルをユウトは睨みつけるような目で見る。

 そしてユウトは再びトードルへと接近して今度は取っ組み合いになり膠着状態と化す。

 互いに腕を掴んで離さない状況……


 ジン器である短剣をトードルへと向けるユウトだったがそれをトードルが魔力を仕込んでいたタイル等で防がれ決定打にはならない。

 そんな中、ユウトはふーっと息を吐き出してトードルとの取っ組み合いを無理矢理引き剥がし、トードルの懐へと飛び込んで彼の襟を掴んでそのまま下へと引っ張る。


 !?なんだ、何をしている??

 俺の懐へと入ったのはいいが、両手は自由になった……今度はこっちから攻めれる状況だぞ、何か策があるのか?

 とはいってもユウトの人器は俺の魔法でこちらにはこれまい……

 何故かはわからんがここは奴の誘いに乗ってでも攻める!!


 そうして攻撃へと転じようとしたトードルだったが、彼の頭上から何かが物凄い勢いで落下しトードルの頭へと直撃した。


 ──なっっ!!


 いきなりの衝撃にトードルは反応出来ない、何が起きたのかという状況を知ろうとするのと同時に頭を強く打った事で思考が乱れる。

 そのタイミングをユウトは狙っていた。

 ユウトの拳はトードルの襟から頭……正確には顎の方へ向かい直撃しのけぞる。


 ──ぐぅっっ!!


 上と下、交互に強い衝撃を加えられたトードルの頭はまともには動かない……

 それでものけぞって上を見た彼は自分の頭に当たって砕けたであろう落下物を見て何が起こったのかを理解した。


 これはっ!タイル!?

 ……そうか最初の方の設置型の竜巻、その際にタイルを上空へやり魔法でずっと浮かせてそして俺がここに戻ってきた時に落下させた!そういう事だな?


 全く最初の竜巻もブラフだとは……中々に考える、それでこそ戦いは楽しいのだがな!!

 だが、まだ終わらん!!


「最高だっっ!!まだまだ俺を楽しませてくれ!!!」


 傷だらけになりながらもその顔は楽しそうに笑いながらユウトへそう投げかけた。

 だがユウトは……


「残念だけど……これで終わりだ」


 トードルが見るのは拳に魔力を溜め、今にも攻撃を仕掛けようとしているユウト……

 それを見てトードルは悟る。


 負けた……


「──神掌破」


 静かにされども力強く言い放ち、ユウトはその拳をトードルの腹部にぶち込んだ。

 己の限界を壊す技神掌破、その威力は通常の打撃の10倍ほどにのぼる。


 決定的なの一撃、トードルは耐えきれず家屋の壁を幾つも壊しながら吹き飛んでいく。

 この勝負、ユウトの勝ちである。



 ──ん、ここは……?


 神掌破で殴り飛ばされたトードルは一瞬ほど気を失うもすぐに意識を取り戻す。

 おおよそ13軒ほどの家屋を貫通しながら飛んでいくほどの攻撃だった。


 流石に動けないか……死ぬほどのダメージではないが、その隙を見逃すなんて事はせず俺はユウトに殺されるだろう。

 まぁあれほど強い奴と戦って負けて殺されるなら本望……というものだ。


 そんなトードルの考えと一致するかのようにユウトはトードルが倒れている場所へとやってきていた。


「よかった、死んでないみたいだ……じゃそれで」


 死を覚悟していたトードルに対してユウトはそう言い放ってその場を立ち去ろうとした。


「は?待て待て、我が友よ!俺を殺さないのか!?」


 意外なその言葉に動揺するトードル。

 そんな彼の言葉を聞きユウトは立ち止まって振り返る。


「あぁ、俺は人を殺さない」


 トードルに真っ直ぐな瞳でユウトは言う。


 敵を目の前にして殺さない!?

 なんて奴なんだ!懐が深いのか……けれどそんなんじゃ……


「……その考え、いつか後悔する時が来るぞ?」


 それはトードルなりの友に対しての心配だった、彼は自分が悪人だと理解している。

 そんな悪人である自分に手を下さないという戦い方はいつかきっと酷い目にあうだろう。


「それでも、俺は誰彼構わず人を殺すなんて事はしません」


 トードルの心配の言葉にユウトは強く答える。

 そしてそう言い残すとユウトは再び振り返る。


「っっはははっ!!全く、どこまでも馬鹿でお人好しでいい奴だなユウトは!

……最後に一つだけ、また俺と戦ってくれるか?」


 ユウトの言葉を聞いたトードルは大声で笑いさらにユウトの事を気に入った。

 そしてトードルの最後の質問にユウトは背を向けたまま……


「凶震戒を辞めて悪事から足を洗うんだったら考えますよ」


 そう言い残して本当にユウトは去っていきその場にはトードル1人になる。


「凶震戒を辞める……かっ」


 善処しよう……

 そう考えながらトードルは目を閉じて意識を失った。

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