【151話目】 都市サンスイン、決戦前
俺達サンスイン監獄に捕えられている住民救助班は避難所へと帰還していた。
途中凶震戒の下っ端達を倒したり隠れてやり過ごしたりしていた、人数も多かったので団体行動が厳しくはあったがそこはチャーチスが上手く指揮をとってようやく避難所に到達したのだ。
「とりあえずこっちは無事に計画は完了したな……後はリバルン監獄の方だが……」
避難所に着いたチャーチスは少し不安げにする。
城から近い監獄だったからといっても蓋を開けてみたらかなりの数の見張りや十戒士候補がいた。
そいつらがリバルン監獄にいないとは限らないが……
「よかった!ユートも無事に帰ってきたんだね!!」
知ってる声が聞こえた。
その声の方を振り返ると建物の出入り口からレイナとヒナリが捕えられていた住民と思われる大勢の人を連れて入ってきていたのだ。
「よかった!そっちも大丈夫だったんだな」
俺はすぐにレイナの方へと駆け寄る。
「こっちは警備が手薄でしたからね」
ヒナリが出てきて俺の疑問に答えるように話す。
「おい、とりあえず疲れてるんだから少しは休ませてやれ。
ヒナリ、お前達が得た情報を共有してくれ
あと4時間後には会議を始めるからそれまでには会議室に来ていろよ」
もう少しばかり話していたかったがチャーチスが俺達の会話を遮るように出てきて。
2人を労うように言いながらヒナリを連れてそのまま会議室の方へと向かっていった。
チャーチスにも言われた事だしと俺は一旦レイナと分かれて単独行動をすることにした。
少しばかり建物内を歩いていて広い場所にたどり着いた。
誰もいない空間……
「おや、ここにおりましたか」
聞いたことのある声が聞こえてその声の方へと振り返る。
そこには俺達をサンスインまで送り届けて、クラディとの初遭遇時に助けてくれた運転手が立っていたのだ。
「あぁあなたは……どうかしたんですか?」
一瞬彼の名前が思い出せず頭の中がこんがらがる。
あれ?俺この人の名前聞いたっけ?
「ただ少し……私と手合わせ願いますか?」
困惑する俺をよそに彼は俺にそう提案してきた。
この人はクラディの攻撃すら防ぐ壁をいきなり生成出来るほどの人……けれど戦闘とかちゃんと出来るのかちょっとばかり疑問に思う。
でもこの人が手合わせすると俺に言ってるのだからそれなりの腕はあるのだろう。
何かクラディ、トードルに勝つための要素を見出せるかもしれない。
「……お願いします」
俺は彼の提案を聞き入れて手合わせする事にした。
広い空間に2人、互いに素手で向かい合う。
「そっちは人器を使ってもいいです」
運転手がそう俺にジン器を出すように促す。
「そう言うあんたは?」
彼の言葉にジン器を出すも変わらず素手の彼に疑問の言葉を投げかける。
「私は素手でも大丈夫ですよ。さっ来なさい」
運転手は俺相手に余裕そうな表情を見せ、素手で良いという。
舐めやがって……少しばかり俺の実力をみせてやる。
「後悔しても知らないぞ!」
そう叫び運転手に向かって飛び出しジン器での攻撃に移る。
こっちは武器ありであちらは素手、明らかに俺に優勢なはずだった。
けれども俺の攻撃はいとも容易く受け流され反撃され気付けば俺が劣勢に立たされていた。
彼の体に帯びている魔力……それは俺のとは質?が違うように感じて彼の魔力を帯びた素手による近接攻撃は一撃一撃が重たく感じたのだ。
「……強い……ですね」
「えぇ、ありがとうございます」
床に膝をつき息を切らしながら運転手を見上げるように話す俺に彼は余裕そうに答える。
「ここまで強いんだったらあなたも戦ってくださいよ」
息を整え立ち上がって俺は今まで直接戦闘に参加していない運転手にそう言った。
「あいにくですが、私は諸事情で戦闘に参加は出来なくて……申し訳ございません
それに貴方もお強いですよ……人器や魔力をちゃんと扱えればの話ですが」
「え?」
彼が戦闘に参加出来ない事情が気になったがそれと同じく俺がジン器や魔力を使いこなせていないと……トードルと似たようなことを言われそっちへと意識が向いた。
「貴方、人器を"無理矢理武器として使おう"としているでしょ?
使うのはいいのですが……貴方は武器を人に振う際少し躊躇が見られるんですよ。
そこが致命的な欠陥になるんですよ。
ならいっそ、武器としては扱わずに"便利な道具"として扱った方がいいです」
運転手の男は俺にアドバイスを送った。
ジン器を武器じゃなくて道具として扱う?その事にピンとは来ず頭に?マークを浮かべる。
「後は魔力ですね……いったん全力の魔力を出してみてください」
俺はとりあえずジン器についてのアドバイスを頭の片隅に置いておいて次に運転手の男が出したアドバイスを受ける事にした。
「わかりました……はぁぁ!!」
彼の言った通り今出せるだけの魔力を溢れ出させる、俺を中心としたそこそこの範囲が俺の魔力で埋め尽くされる。
けれどこんなことをして何になるのか?
そんな疑問を感じていると運転手は次の指示をだす。
「それじゃあ出した魔力を一点押し込める感じで濃縮させてください」
魔力を押し込める感じ……?いまいちピンとは来ないが試してみようとする。
ゆっくり、ゆっくりと体から広がってる魔力を俺の体の方へと集中させる。
すると魔力がだんだんと押し込められ魔力が圧縮される……そんな感覚を感じて次第に広がった魔力が前みたいに俺の体に纏わりつく感じになった。
しかし前と比べて安心出来るというか……感覚的には今までは冬場に半袖短パンでいるような感じで今はしっかりと防寒具を着込んでる感じ……
「凄いな、初見で出来るなんて……」
運転手の男が何かボソッと呟く。
「ん?なんて……」
聞こえなかったから聞き返そうとしたとき。
「あっいた!ユート!」
レイナがやってきたのだ。
レイナはそのまま俺の元へと来て。
「そろそろ作戦会議始まるよ、行こっ!」
そう言って俺の手を掴み移動を始める。
もうそんな時間か……運転手と手合わせしていて全然気が付かなかった……
あっそうだ
「最後にあなたの名前は!?」
立ち去ろうとするとき、俺は運転手に名前を尋ねる。
「……アサー・ノランだ」
運転手の男……アサーはそう名乗って俺とレイナを見送るように手を振ったのだった。