【143話目】 見え始める希望
俺達はサンスインの住民が避難しているアジトに辿り着いた。
そこにあったのはまるで学校の体育館の一回りくらい大広間のような空間、よく見ると壁に何個か扉があり他の場所もあるようだった。
それはそれとしてこの空間には数千人もの人がおり俺達がくるや否や大勢がこちらを見た。
「おぉ!帰ってきたのか!!」
その大勢の中から1人の中年の男が前に出てきて俺達……というより案内してくれた人に向かって声をかけた。
その男は俺達をジロジロと不思議そうな顔で見つめてから
「……ヒョオナは、一緒じゃないのか……?」
といきなり確信的な質問を投げかけてくる。
その質問に俺達はただ黙って俯く事しか出来ずにその様子を見た男は起こったことを察したような顔をした。
「すまんが……場所を変えないか?」
そんな時に切り出したのは俺達を案内してくれた男、そして俺達はその男と出迎えた中年の男と共に大広間の奥、俺達が入ってきたところのちょうど向かいにある扉を使って場所を変える。
扉に入り少し廊下を歩いたところにまた扉がありそこに入ると真ん中に大きなテーブルの置かれたまるで作戦会議室のような部屋へと着いた。
そこには俺達はチャーチスとヒナリ、レイナに俺の4人(馬車の運転手は部屋の前で追い返された)
そしてサンスイン側は俺達を案内してくれた人に出迎えてくれた中年その他にここの守護をしているという男女1人ずつ計8人が集まった。
まず先にチャーチスと俺達を案内してくれた男が今までの経緯について語った。
俺達がパゼーレから来て合流した事。
そしてヒョオナを凶震戒?の十戒士であるクラディに連れ攫われた事。
そして奴の目的とその犠牲についての全てを語った。
「そんな……馬鹿な……」
話を聞いた中年のおじさんはその場に膝をついて倒れる。
他の人達も俯き暗い表情をする。
そんな彼らに俺はただ見てる事しかできなかった。
それでも……このまま奴等の計画を進めさせるわけにはいかない。
「戦力を集めましょう、そうすれば奴等に対抗する策だって出てくるはずです!」
俺はすかさずにアイディアを出した。
今戦闘にいける人達を投入すれば勝てる可能性があるかもしれないと思ったからだ。
しかし……
「ここの戦力は……もうあなた達とここにいるリューンとリシアしかいないのです
その他の皆はみんな凶震戒に……」
帰ってきたのは残酷な事実だけだった。
俺達に加えて2人だけ……あまりにも戦力が少なすぎる、これじゃあ大勢いるであろう奴等と戦うだなんて……
「甘い救済物語は終わったか?」
戦力の少なさに動揺している俺にふざけた挑発をチャーチスがした。
「は?」
彼のその言葉に対して怒りが湧き、彼を睨んだ。
「ちょ、ちょっとチャーチスさん」
「事実だ、実際にコイツは物事を甘く考えすぎてる。今回もなんとかなる、そんな気持ちでいたんだろ?」
止めようとするヒナリをよそにチャーチスの言葉にさらに俺はヒートアップする。
「やらなきゃ俺達だけじゃなくてここの住民だって危険な目に遭うのに行動しないのはおかしいだろ!?」
「だからと言ってお前の理想ばっかの作戦をしてもただただ全員無駄死にするって話だろ
作戦を立てるのにお前は状況を全く見てないんだよ」
そんな言い争いをしてしばらく睨み合いが続いた。
「やめてください!」
そんな睨み合いを静止させるかのようにレイナが間に入ってきた。
「こんなところで喧嘩してる場合じゃないです!今はどうすればいいかを……」
「じゃあどうすればいいかを聞こうじゃないか、どうすればたった6人で奴等に勝てるんだ?」
俺達に割って入ってきたレイナに対してチャーチスは厳しい言い方でレイナに状況の打開策を問う。
その答えにレイナが戸惑っていた時だった。
「仲間を増やせばいいんです」
ヒナリが割って入りチャーチスに対して答えた。
「なに?」
「すみません、監獄がどこにあるかってわかりますか?」
聞き返すチャーチスに対してヒナリは卓上の広げてある地図を見て俺達を案内してくれた男性に対して監獄の場所を聞いた。
「クラディは言いました、"住民全ての魔力を貰う"と。
なら殺して貰える魔力を減らすよりも、住民や他都市の奴等を生け取りにして少しでも自分が貰える魔力を増やすんじゃ無いんですか?」
「なら生け取りにした住民、そして加勢に来た他都市の人達を捕まえて置く場所は……」
「この都市南西のリバルン監獄と……ここのサンスイン監獄2つです」
ヒナリがそう説明する最中、案内をした男性が2つの箇所に指を刺してそこが監獄であると説明した。
「リバルン監獄はここからでも近いですが……サンスイン監獄は城の近くですね……」
「どうしますかチャーチス隊長?このまま全滅を待つか、それとも行動を起こすのか?」
ヒナリは監獄の位置を確認するとチャーチスに詰め寄る、もしかしたら住民達は殺されているかもしれない。
しかしもしも生かされているのだとしたら……監獄から捕えられてる住民全員逃しこちらの戦力として迎え入れられれば勝機が見えてくる。
「しかし……監獄にいる奴等を助けれる時間はあるのか?
今この時クラディがあの娘の魔法を使えば俺達は何もせずに全滅するんだぞ」
チャーチスから反論する。
確かにヒョオナをクラディが手に入れた今、いつでもあの子の魔法を使って俺達を含むこの都市にいる人間全員から魔力を奪う事が出来る。
しかしクラディが襲撃しヒョオナを連れ去ってからかなりの時間は経っている、けれどヒョオナの魔法の影響で俺達の魔力が無くなってる様子はない。
何故クラディはヒョオナの魔法を使わないのだろうか?
「それでしたら……今は大丈夫だと思います」
そんな疑問に俺達がアジトに来た時に出迎えた中年の男が答えた。
「あの子の魔法は月の出ない夜……つまり新月に使った際いつも以上の効果を発揮します。
無論、クラディもその事は知ってるはずですので新月を待つつもりでしょう」
新月になったらヒョオナの魔法の効果が増大する……新しく聞く事だ。
「新月まであとどれくらいだ?」
「2日後です」
チャーチスの問いに中年の男性はすぐに答える、あと2日……それが俺達を含むこの都市にいる人達のタイムリミット。
「だが、もしクラディが今すぐに計画を実行する可能性だってあるだろ?
2日まで待ってる可能性は低いだろ?」
チャーチスはクラディが今すぐヒョオナの魔法を使う事の懸念をしていた。
「クラディが新月まで待つのは間違いないと見てもいいでしょう。今自分達が無事なのが何よりも証拠です」
「……確かにそうだな
では監獄にいる人間の救助に行くにあたってどちらの監獄を狙うか?」
ヒナリの言葉を聞き、チャーチスは彼の意見を受け入れ始める。
そしてチャーチスは2つの監獄のうちどちらを攻めるかを聞く。
ここから近い方か、それとも敵の本拠地の近くか。
「ここは……」
「両方を狙いましょう」
ヒナリがチャーチスの質問に詰まった時、俺はおそらくヒナリと同じ意見を出した。
「確かに……片方だけに戦力を集めて監獄にいる人達を助けられたとしても、片方だけの戦力じゃ奴等には勝てない……
片方ずつ行ったとしても必ず2つ目に行く監獄の警備が固められて成功する確率は低いの。
だからここは賭けに出て片方ずつ!同時に攻めて全員を助け出すんです!!」
俺は続けて強くチャーチスに語る。
それを聞いたチャーチスは……
「……お前達の意見はわかった、確かにこのままの状況では全滅するリスクは高い。
だから少しでも勝てる可能性の方に行くと言うのだな」
「わかった、この作戦で行こう
貴方達もそれでいいですね?」
チャーチスは俺達の作戦に賛同してくれてその事についてこの部屋にいるサンスインの人達に了承をとる。
彼は静かに首を縦に振った、彼らもこの作戦に賛成するという意思のあらわれだ。
「よしっ!それなら今すぐにでも……」
「待て」
すぐにでも監獄へ行こうとする俺をチャーチスが呼び止めた。
「……なんですか?」
「今日は休め、まだクラディとの戦闘で負ったダメージは抜けきれていないだろ?
儀式まではあと2日もある、なら今日はもう休んで作戦を明日にして少しでも作戦成功確率を上げろ」
チャーチスからの正論を聞き俺は休むために部屋の外を出た。
真っ暗な状況だったが少し光が見え始めた、きっと助けてみせるからなヒョオナ。