【142話目】 サンスインの夜道
暗く静かな夜の中
そんな夜の街の一角で凶震戒達が突如として出現した壁によって侵入者及び残存している住民の追跡が困難になっていた。
1度目の強烈な打撃音が静かな夜に響く。
この軍団を指揮しているクラディによる一撃であった。
しかしその一撃でもヒビを入れる事が出来たが破壊迄には至らなかった。
「──チィッ！」
再び強烈な打撃音が響く、その音は先程よりも大きくそして激しく壁から放たれる。
クラディの怒りが込められたその攻撃によりついに侵入者達との間に割って入っていた壁の破壊に成功する。
クラディは怒っていた……突如として現れたこの壁とそして逃げた侵入者の1人であるとある男についてだった。
戦闘能力として自分よりも遥かに劣るあの少年に歪で深いなものを感じ取った、だからこそあの場で殺しておきたかったが壁が出て破壊するまでにかなりの時間を費やした、もう近くにはいないだろう。
「逃げた者達を捕まえろ」
ひとまず無駄だとわかってはいるが部下達に奴らの追跡命令を下す。
ほとんどの部下達が多くの足音を立て追跡へと向かう。
「クラディ様、それでは儀式の方はいかがなさいましょう」
残っていた部下の1人が自分に尋ねてきた。
「変更はない3日後の夜に行う」
「奴等が未だ逃げておられますのによろしいのですか？」
彼は答えた自分にさらに質問を重ねてくる。
「まぁ奴等がどう頑張ったって儀式の邪魔は出来ない、だから変更は無しだ」
「はっ！！」
彼は納得したかのような返事をして下がる。
そして僕は破壊した壁を見た。
その壁の材料は土や石というよりかこの都市の床に使われているレンガ、そして家屋の壁で出来ているようでその証拠に壁が出来たすぐ隣の家屋の壁がまるで変形して壁になったかのように無くなっていたのだ。
──俺はこの魔法を何処かで……？
何処かで見覚えがある……しかしその場所が思い出せないそんな悩みを抱えながら僕は城へと帰還した。
俺達はクラディ達凶震戒を前に敗北そして逃走、馬車の運転手が出した壁のおかげで奴等との距離は離れた状態ではあるが油断を許さない状況である。
そんな俺達は現在、都市の人達に他の住民が隠れて過ごしているという本拠地まで静かに案内されている。
さっきの状況やら運転手について色々と聞きたかったが今はそんな空気では無い。
状況はかなり悪く、クラディの都市に住まう人々を犠牲に強くなるという非人道的な計画のためにヒョオナが連れ攫われてしまった。
いや連れ攫われたというよりはあの子は俺達の為に犠牲となったのだ……
俺はあの子に勝つと宣言して、チャーチスにもあんなに強気だったのにこのザマ……
情けなくて笑えてくる。
「ユート……」
「さぁ着きましたよ。ここです」
悔しがる俺にレイナが声をかけようとしたタイミングでどうやら目的地に到達したようだ。
「ここは……？」
しかしこの場所はなにもない路地裏の奥地。
ジメジメしていても殺風景、あるとするならば路地裏の突き当たりの壁の下に排水溝らしきものがあるだけで本拠地なんてものはさっぱり見えない。
「待っててくださいね」
俺達を案内したおじさんはそう言うと突き当たりの壁の排水溝の真上に立ち、ジッと止まっていた。
するとおじさんは魔力を放つ。
その様子を見守っていると……路地裏の奥地の壁が横方向に勝手に動きなんと！下に続く階段が現れたのだ。
「さぁこちらです」
おじさんの案内に従い俺達は階段を降りる。
大体の感覚的に地下10階くらいまで降りてきたところで扉に行き着いた。
「ここが私達の避難場所兼アジトになっております」
おじさんは扉を開けて俺達は入っていく。
俺達の目の前に広がったのはただ大きな空間、そしてその空間を埋め尽くすような住人おおよそ数千人がいる光景だった。
