【140話目】 十戒士、襲撃
都市サンスインにあるとある建物が爆破された。
爆破の元凶は現在この都市を支配する凶震戒、十戒士の1人クラディによるものだった。
もちろん捕獲対象を死なせないために手加減はしていた、その際に他の都市から来ている騎士団の連中が出てくるのは想定内だった。
「か、囲まれていますね……」
元よりサンスインにいた奴らと共に出てきた騎士団と思わしき人物は2人……
捕獲対象は見当たらない、恐らくは隠して守ろうという魂胆なのだろう。
「あの小娘がいないな……まぁいいか、お前達全員潰してじっくりと探すとしよう!!」
そう連中に言い放ち、殲滅を始めようとした時──背後、至近距離に敵意を感じた。
「──取った」
──奇襲成功だ。
前方のチャーチス達に気を取られていた襲撃者のリーダーと思われる男、歳は20代前半くらいで右前髪をバックにかきあげたような黒髪が特徴的であり魔力からして十戒士の男の背後でジン器の短剣を振りかざしながら俺は確信する。
俺達がいた建物が爆破されてすぐに俺は動いた。
即座にヒョオナを人器の盾で落ちてくるガレキ等から守れるレイナに預け建物の奥に隠れるように指示をして俺はすぐに別行動を取った。
独断によりチャーチス達との連携はない、それゆえに怪しまれる事なく爆速で奴の背後を取れたコイツを倒せばヒョオナは助かる、このまま両腕と両脚を折り戦闘不能に──
「そんなので僕を倒せると?」
目の前の男は一瞬でこちらを向き、拳を俺へと突きつける。
即座に俺を察知してさらには反撃……流石は十戒士、だが奴の拳よりも俺の短剣の方が先に到達す──
その瞬間だった、奴の拳どころか何にも触れていないはずなのに俺は後方へ吹き飛ばされて家屋の壁に激突する。
──何が起こった!?
困惑しながらも再度奴へ攻撃を仕掛けようとする、しかし体を何かで押し付けられいるかのように俺は壁から動けなくなっていた。
動けなくなっている最中も俺の体に何か強い圧力でも掛けられて潰されているようだ。
「ぐうぅっうっ!!」
「そこで大人しくしてろよ」
俺に冷たい目線を送りながらそう話す奴の周りには既に襲い掛かろうとしているチャーチスとヒマリがいた。
奴が俺に気を取られている隙を狙って倒す気だ。
チャーチスより早くヒマリが攻撃を仕掛ける、彼の真っ直ぐな刀が十戒士の奴に当たろうとしたが……その攻撃は寸前でかわされる。
「だから……」
その直後奴はヒマリの腹部に拳を直撃させ深くめり込ませる。
「そんなので僕を倒せると思ってるの?」
ヒマリも俺と同様に後方の家屋へ吹き飛ばされ身動きが取れない状態に陥る。
次はチャーチスが奴に攻め入る、彼の手には人器である槍が握られておりそれを奴の顔に向けて突き刺そうとする。
奴は槍が来ることを察知し回避する、しかしその時完璧には回避出来ず頬にかすり傷がついた。
「チッ、貫けねぇ!」
今度は奴の反撃、槍を伸ばし切っているチャーチスに向かって俺とヒマリと同様に拳が放たれる!
アレが俺に向けたのなら拳が直撃せずとも何か見えない攻撃がくる
そんな俺の心配をよそにチャーチスは回避の動きを取った、彼にダメージを負っている様子はなく戦闘を続けている。
まさかチャーチスには奴の攻撃を見切れるのか!?
そんな俺の考察をよそに2人の戦闘は続くとはいっても至近距離でのそれぞれ攻撃しては回避、それの繰り返しだ。
「……なるほどそういう魔法か」
奴がそう呟いた瞬間、今まで一回ずつ振っていた拳を連続で振ったのだ。
「なっ──」
奴の行動に驚きながらもチャーチスは槍を前方に振る、前から来ている攻撃を弾くかのように。
しかしそれでも押されているようでついに奴の攻撃がチャーチスに直撃したようで体が後方に飛ぶ。
その後も奴の放つ何かによってチャーチスは攻撃を負わされていく。
その時……俺の体にかかっていた負荷が少し緩んだ、おそらく奴はチャーチスとの戦闘に気を取られて俺の方に集中出来なくなっているんだ。
ならチャーチスに加勢しろ!好きだとか嫌いだとか関係ない、勝つ為に!!
俺はすぐにその場から跳躍して上空へと飛んだ。
「──接続」
ジン器を接続する、形態は弓。
チャーチスに当たらない角度で奴に無数の魔力の矢を当ててやる!
俺はチャーチスに当たらないように奴に向かって無数の魔力の矢を放つ、奴は俺が矢を発射した瞬間にチャーチスを吹き飛ばした。
奴の魔法はおそらく拳から何かを発射する魔法!ならこの無数の矢を弾き落とすのは不可能!!
──その程度の魔法で十戒士になれるのか?
脳内に現れた不吉な考え、俺はすぐに振り払って奴を見た今頃無数の矢を受けている頃……
しかし俺の矢は一本も奴には当たっていなかった……何故なら俺の矢は奴の前の地面に打ち落とされていたからだ。
いや打ち落とされたというよりは地面にへばりついて動かなくなっていた。
そしてその時俺は奴の魔法を察する。
「重力魔法か!!」
「その通り」
重力、ならおそらくさっきまでの攻撃は!?
重力は確か鉛直下方向にしか影響がないはず!!
「さっきまでの不思議か?答えてやるよ
さっきまでの攻撃は空気を重力で1箇所に固めてそれを発射した……それだけのこと」
奴は余裕を見せるかのように解説した。
だけどその余裕が命取りだ。
俺は奴の解説を聞きながら彼等を視界に入れていた。
"今度は単独ではなく、部隊としての攻撃だ"
俺が見ていたのはヒマリとチャーチス、彼等は再びタイミングを合わせ攻撃を奴に仕掛けにいった。
奴の行動を見て一つわかった事がある、俺はそれを利用する為に2人と攻撃のタイミングを合わせにいった。
奴の周りにはすでに俺ヒマリチャーチスがそれぞれ別の方向から囲まれていた。
奴の重力魔法……俺の矢を打ち落とした時、何故打ち落とす前にチャーチスを飛ばしたのか?俺なら出来るんだったら自分の周りに重力負荷をかけチャーチスもろとも矢を落とす。
それをしないって事は、おそらく奴は360°じゃなくて一定の角度にしか重力の負荷をかけられない。
そう踏んでの3方向からの同時攻撃。
他2人がその事に気付いてるかどうかなんて知らないけど、この機会を逃す訳にはいかない。
「お前らの行動的に俺の魔法が全方位には出来ないと思ってるだろ?
それは正解だ……"普通"ならな」
俺達に囲まれているのに奴は冷静に言葉を放った。
「──結界魔法、グラヴィトン・シーナ」
奴がそう唱えた瞬間、奴を中心として魔力のどーむが出来上がり俺等3人全員そのドームに巻き込まれ地面に叩き落とされた。
「ぐぁっっ……!!」
さらにさっきとは比べの間にならない重量が俺の体にのしかかり指一本動かす事が出来ない。
重力だけじゃない……この"空間"そのものが変わってるようで、まるでバクトリの!?
「こっ……れは、結界魔法!?」
重力に押し潰されながらもチャーチスの驚きの声が聞こえていた。
結界魔法!?それって確かバクトリが使っていた……
重力による負荷がどんどん強くなって……
「ひとまず自己紹介からな、僕の名前はクラディ・レイオン"一応"十戒士が1人
そして魔法はこの通り重力魔法、よろしくな
……と言っても聞いてないか」
グラディは結界魔法を解く。
彼の足元ではさっきまでの威勢の良く自分に攻撃を仕掛けてきた3人が地面にめり込み動かなくなっていた。