【139話目】 ユウトとヒョオナ
大人達の難しい話から少女を離そうと俺は彼女を連れて2階に上がって手間の部屋へ入る。
そして部屋に入って思う……
──ヤッベェ……これからどうしよう!?
俺はチャーチスの最悪ヒョオナを殺せばいいという話を聞き、その本人がその事について多く聞かせちゃダメだと思うあまり何も考えずにここまできたのだ。
いや違うな……これは俺のわがままだな、ただ単純に誰かを犠牲にしよう!という話を聞くのが嫌だったからそんな口実を付けて俺は逃げたんだ……
「ねぇ……」
俺が自分の弱さに打ちひしがれているとヒョオナが俺の袖を掴んで話しかけてきた。
ダメだダメだ、彼女に不安そうな顔を見せるのはやめよう!
一旦さっきの事は置いておいて気を紛らわせる事でもしよ……
「私が死ねばみんなは助かるの?」
唐突に彼女から出た発言に体が固まり言葉に詰まる。
それでも俺は心を落ち着かせる、一回深呼吸をして彼女に話し始める。
「いや、大丈夫だよ。君がそんな事しなくてもみんなは助かるよ」
彼女を安心させるかのように、自分に言い聞かせるように彼女の肩に手を置きながら彼女に言葉をかけた。
「違うよ、他の人もそう言ったけどみんなあの人達にやられちゃったんだよ。
だからあの人達には勝てないよ」
安心させるように出した俺の言葉を彼女は否定する。
彼女の目には光なんて無く、ただ目の前にある現実を暗く見つめているようだった。
「そ、そんな事は……」
「じゃああなたは勝てるの?」
俺の言葉を遮るように彼女は否定して俯く。
そんな彼女を見てると俺の胸がズキズキと痛む、あぁそうか……おそらく彼女はもう諦めてしまっているんだ。
今まで何度もあった助け、しかしそのどれもが凶震戒に敗れた。
最初は持っていたはずの希望がいつしか彼女の中から消えていってしまったのだ。
「お父さんだってあの人達にやられちゃったんだよ!それなのにあなたが勝てるわけないじゃん!」
彼女の父親のことは知らないが、彼女の言葉はごもっともだ。
敵には十戒士、それに対して俺達の戦力は少ない、援軍も見込めない。
まさに現状は絶望的な状況なのだろう。
「だから──私を殺して」
だからこそ……俺は正義の味方になるのだと、ここで苦しんで死を望む少女がいるのならどんなに無謀でも助けてこそ正義の味方なのだ。
だから俺は彼女に再び声をかける。
「勝つさ!だって俺ユウトは!正義の味方になるんだからな!!」
そして俺は彼女に笑顔で力強く勝利宣言をし抱き寄せた。
側から見たらちょっとアレな光景かもしれないけれど俺は本気で彼女を助けたいと思ったのだ。
「……信じて、いいの?」
少女は俺の胸に頭を埋めながら聞く。
表情は見えない……しかし少女のぐずっている声から察するに……いや、やめておこう。
「あぁ、信じろ!」
俺は再び彼女を安心させるように頷いた。
この子は……きっと幸せにならないといけない、俺の中の兄心がそう言っているのだ。
少ししてヒョオナは俺から離れる。
「それじゃ……何する?」
彼女の少し光が戻った瞳から純粋な視線が発せられる。
そうだよ!どうしよう……こんなところにゲームだとかの娯楽アイテムとかは無いだろうしどうしたものか……
そして俺が悩んでいるのを察したのか……
「ねぇ……さっき言ってた正義の味方って?」
ヒョオナは俺に話題を振ってきた、年下の少女に気を遣われてしまうなんて俺も情けない……
「正義の味方っていうのはみんなを助ける人の事だよ」
情けなく感じながらも俺は彼女の問いに答える。
俺にとっての正義の味方というのは誰にでも救いの手を差し伸べてみんなを救うヒーロー、そんな子供の幻想みたいなものだ。
「……もし、あの怖い人達をなんとかしたら……」
「──その願い、私の魔法で叶えよっか?」
少女は純粋な面持ちで提案をしてきた。
彼女の願いを叶える魔法……その魔法がどれほどのもの願いを叶えられるかは知らないが確かにそれならワンチャン叶えなれる……
けれど……
「いや、正義の味方には俺の力だけでなるよ」
俺は彼女の提案を断った。
「……なんで?私の魔法なら多分すぐに叶えられるよ?」
彼女は今まで見たことのない物を見てるかのような顔をしていた。
その顔からは今までの人が彼女の魔法で自分の願いを叶えて来たんだと……俺は察する。
「なんて言うかな、そういうのは"なること"よりも"なるまで"が重要なんだ」
「ん?どういうこと?」
「んー説明が難しいけど……まぁ自分の夢は自分で叶えた方が気持ちいいじゃん」
俺の言っている事の意味がわからなくて困惑しているヒョオナに俺は優しく答えた。
この願いは、俺が俺自身で叶えないと行けない願い……
「まぁこの力は君の力なんだ、だから誰かに言われたんじゃなくて君自身の願いも叶えなよ」
「……そんな事言ってくれる人なんて久しぶり。
私の魔法はね……便利でみんな使うんだけどなんでか願いを叶えた後元気がなくなるの……
それでみんなは私にもう魔法は使うなっ!って私の魔性輪を持っていったのまだ私の願いを叶えてないのに……」
酷い話だ、彼女の話を聞いて思ったのはその一言だ。
どういう事かの事情は知らないけど、自分達は好きに使っておいて彼女自身は大切にしていない……
「君の願い……俺にできることがあったら手伝うよ」
「本当?……なら私は友達が欲しい!!」
少女から出た願いは純粋でかつ単純なものだった。
「えっ?それが君の願いなの?」
「うんっ!私、誰かと友達になった事なくて……」
少女の目には嘘をついている様子はなく、俺は心臓がキュッと掴まれる感触を感じた。
とても嫌な感じだ……どうしようもなくこの都市に悍ましいという感情が出てきた。
だから……
「じゃあ俺が君の友達になるよ」
少女に手を差し伸べた。
「ほんと?」
「あぁ、本当だ……それでいいか?」
少女は少しづつ暗い顔から笑顔になっていきながら俺の差し伸べた手に手を伸ばす。
「うん!ありが──」
───バァァァンッッッ!!!───
その瞬間、建物に大きな衝撃が走った。
「さて、鬼ごっこはおしまいだ」
建物の外にいる兵士を連れた十戒士の男、クラディが崩れる建物を見ながらそう呟いたのだ。