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やさしい異世界転移   作者: みなと
パゼーレ魔法騎士団
130/243

【129話目】 襲撃が終わり……

 凶震戒によるパゼーレ襲撃から丸2日が経った。

 この事件による街や住民への被害は甚大だったが騎士団達による復興活動が行われて住民達も騎士団達と共に街の復興に取り組んでいた。


 そんな重要な期間に俺はというと……

 現在治療班が管理している部屋のベッドにて寝かされていたのだ。

 どうやら俺自身が思っているほど俺は重症だったらしくひとまずの安静にするように言われた。

 だがそろそろ傷が治り、あと数日もすれば復興活動に参加出来るという。まったくこんな大切な時に俺は……


「大丈夫ですか?」

 

 俺のお見舞いに来てくれた1人の少女が心配そうに俺に声をかけてきた。

 その子の名前はヴァーリン、俺が思いを寄せている人物だ。


「あぁ大丈夫だ、まぁはやく体を動かしたて復興の方を手伝いたい……ってな」


 俺は彼女を心配させまいとちょっとだけ無理して強気に言う。

 俺の中には2つの心配事があった、1つは復興活動を手伝えないという罪悪感。

 そしてもう1つは……


「そういえばユウトはまだ来てないんですの?」


 そう考えていると彼女は不安げに尋ねてきた。


「あぁ……」

 

 そうだ俺がここに来てからというもの、ユートは一回も見舞いに来ていなかったのだ。

 他のみんなや俺に助けられたっと言う人達はみんな来たのに彼だけが来ていなかった。


 ラードフの事は後から聞いた、彼の訃報を聞いた時俺達はショックでその場に立ち尽くしたり泣き崩れることしか出来なかった。

 そしてそれを目の前で見ていたユートに取っては一生残る傷になっただろう……それでも一度でいいからユートに会って色々と話をしたい。


「そ、それより!ヴァーリンは家族とか無事なのか?」


 俺は場の雰囲気が暗くなっているのに気付き話題を変えようと切り出した。

 ウォルノン家を襲撃してヴァーリンを取り戻した(?)のはいいがそれからの彼女の家族は受け入れられないだろう。

 一応あんな事をした身としてはその後がどうなったかというのを聞いておくべきだと思ったのだ。


「えーっと、それがですね……」


 ヴァーリンは少し言いにくそうな感じで口を開く。


「実は私、家から追い出されまして……」


 彼女が言い放った言葉は衝撃的なものだった。


「えっ!?マジで??」


 その言葉に俺も驚きを隠せずにベッドから起き上がってしまう。


「ちょっ……少し驚きすぎですよ。下手に動ききすぎるとここにいるの長引きますよ」


 ヴァーリンは驚いた俺にそう言って嗜める。

 俺は一呼吸をおいて彼女の話に戻る。


「それ本当なのか?だってお前の親父さんもあんなに必死だっただろ、それなのになんで……」


 ヴァーリンの父、アベーレスとは戦った事がある俺だからわかる、あの人は自分の意志をまっすぐ持つタイプの人それなのになんで……


「ええ……っとまぁはい。あっ、あとこれ……」


 彼女は手紙を取り出して、俺へと渡す。


「これは?」


 いきなり出された手紙に対して俺は疑問を口にした。


「父から……あなたに渡すようにって」


 ヴァーリンの父が俺に?この前屋敷を襲った件についてだろうか……

 内容を特定出来ずに不安になりながらもアベーレスからの手紙を開いてその内容を読む。


 その内容を要約すると……


『娘を頼む、彼女のしたい事をさせてあげてくれ』


 他にも色々と書かれてあったが、俺の目に止まった内容はとりあえずこんな感じだった。

 この人達は彼女のの意思を尊重してくれた為に追い出すような形で騎士団へ送り出したのだと察した。

 

「あの……手紙にはなんて?」


 手紙をジッと見ている俺に彼女は不思議そうに声をかけてきた。

 まぁ親から自分宛てではない手紙、なんて書かれてあるのか気になるのは当然だ。

 しかし……


「うーん……秘密」


 俺は手紙の内容をはぐらかした。 

 理由としては俺個人的にこの手紙を彼女に読まれるのは恥ずかしい気持ちになったとの、それをアベーレスも思っていたのか最後の方にこの手紙の内容はヴァーリンには秘密にしてくれと書かれていたからだ。


「え〜!?いいじゃないですか教えなさいよ!」


 そう言って教えてくれと頼むヴァーリン、そんなこんなで俺達はちょっとした言い合いになった。

 そしてしばらく言い合いになった後、俺は一つの決断をして口を開く。


「ヴァーリン……その、この前言った事なんだだが」


 俺はそう彼女と面と向かって彼女の瞳を見て話す。

 この前言ったこと……

 俺も男だ、だからこんな事になってしまった事に対しての男としてのケジメをつけよう。


「──俺はお前の事が好きだ」


 そうして俺は再びあの時と同じように彼女に告白を行った。


「そ、そうですか」


 彼女は冷静に反応しているかのように短い言葉で返事を返す。

 しかし彼女の顔は次第に赤くなっていくのが俺からでも見えた。


「だから……」


 俺はそんな彼女の反応なんかお構い無しで言葉を続けようとした……

 しかし言葉を続けようとした瞬間、唇に細く温かいものが触れたのを感じた。


 俺の唇に触れていたのはヴァーリンの指だった。


「それから先は……今は……」


 彼女は俺の唇から指を退けると顔を背けながら話す。


「なんで……?」


 俺は彼女の言葉を疑問を投げかける。

 すると彼女は俺の方を向き直して語る。


「私はまだ……その、貴方の事をまだよく知りません」


 確かに俺とヴァーリンは学園時代ではあまり会話も少なく、騎士団では同じ隊に配属されてはいるがそれも期間としては短い……そう言われるのも当然だ。

 告白失敗か……?


「なので……これから貴方の事を教えてください」


 彼女は俺に笑顔を見せて笑いかけながら俺に手を伸ばした。


「あぁ、もちろんだ」


 俺は彼女の伸ばした手を掴んで優しく握りしめた。

 

 そして俺達は気付かなかった、部屋の外にいた奴が静かにどこかに行った事を。



 灰色の空の下、今にも雨が降りそうな空の下で俺はデイの病室から逃げるようにたくさんの石碑が置いてある場所までやって来た。

 ここは襲撃事件で亡くなった人達を埋葬した墓地、俺は多くある石碑の内の1つの前にまで来ていたのだ。


 ここに眠っているのは俺が助けられなかった友、ラードフの名前が刻まれた石碑だった。

 俺は目の前のその石碑に何と声を掛ければいいのだろう……自分のせいで彼は死んだ、弱かった、手が届かなかった、だから助けられなかった。


 石碑を前に立っていると肩に冷たい水滴が落ちてくる、どうやら雨が降ってきたらしい。

 それでも俺はその場から動こうとはしなかった、動けなかったのだ。

 友を殺してしまった後悔と罪悪感が俺の足を止めていた。


「ユウト、はやく戻れ風邪引くぞ」


 後ろから声をかけられた。 

 病室から誰かが俺の事を着いてきたのは知っていた、俺は振り返り声をかけてきた人を見た。


 そこにいたのはディーオンだった。

 俺には彼の目をまともに見る事が出来ない、何故なら俺は仲間を殺されてもその相手を倒せずに結局彼に助けられたからだ。


「お前、責任感じてるのか?」


 そんな俺の顔を見て察したのだろうかれは真っ直ぐな言葉を放つ。


「ああ、俺は自分の事を強いと……そう自惚れてたんです。その結果がこれです、俺は強くなんかなかったんです」


 学園襲撃以降、俺は強くなっていった。

 マジックフェスティバルでは優勝したし騎士団に入ってからも任務をこなして俺は自分が強くなったとそう錯覚していたのだ。


 でもパゼーレ襲撃では結局十戒士候補を逃し先輩や仲間を殺した十戒士に対して俺は勝てなかった。

 だから俺は……


「騎士団を辞めるのか?」


 この人は俺の思考でも読んでるのか?ってくらい正確な事を言ってきた。


 俺は彼の言葉に返事を返せず俯いていた、何故なら彼の言葉は図星だったからだ。

 デイとは違って誰も救えなかった俺にはここにいる価値なんて無いんだ。

 それに元々俺はこの世界の人間じゃないし、俺の倫理観では彼ら騎士団の力になれるはずがない。

 俺は人を殺せない……本当は殺したくはないんだ。


 だから……


「甘えるな」


 しかしディーオンは冷たく意外な言葉を発した。


「仲間を助けられなかった?俺にもそんな経験はある。

確かにお前は俺達とは別の世界の人間、俺達との感覚も違うのも当然だ。

だけどな?何か強い意志を持って騎士団に入る決心をしたのはお前だ、それなのにこんなにも簡単にやめて本当に後悔はないのか?」


 彼は続けて俺へ言葉を投げかける。

 彼はどこか悲痛で辛そうな表情を浮かべていたのだ。あぁ、確かに俺は人を守るために騎士団へと入る決心をした。

 正義の味方になるためにそうする事を決心した。


「正直に言うとお前には辞めてほしくない」


「えっ?」


 彼のいきなりの言葉に俺は少し驚く彼は少しばかり気が悪そうに頭を掻きながら言葉を続ける。


「凶震戒による襲撃事件、それによる騎士団の被害は甚大なものだ。

2名の中隊長、100名以上もの団員の殉職、正直に言って戦力が足らない

これ以上今頼りになる戦力を減らすわけにはいかねぇんだ」


 襲撃事件による被害、それは俺の考えていたよりも大きく悲惨なものだった。

 大勢の団員の死による戦力の低下は避けられない、けれど何も成せなかった俺がいたところで……


「……確かにお前は十戒士候補に逃げられ、十戒士に敗北した。」


 彼は俺に事実を述べる、そうだ俺は敵にやられてばかりで……


「でもお前がその2人に応戦しなかったら多分もっと大勢の人間が死んでいて俺が来た時には多分手遅れになっていた

それほどまでにあの2人は強かった」


 しかし彼は言葉を続けた。


「お前は自覚が無いだけで強いし大勢の人間を救った、盗賊団の事もそうだ」


 彼は唐突に盗賊団達の事についても触れた。


「奴等はボスの指示の基この都市を護るために動いた、結果として奴等は凶震戒と戦い住民達の被害を抑えられた」


 彼は盗賊団達の成果について語る。

 彼らは彼らなりに道理がありそれを貫いて街の人達を護った、だが俺は……


「わかるか?お前があの時奴等を殺さなかったから助かった命があるんだ」


 盗賊団の話から一変して俺の事になった。

 彼は俺の顔を真っ直ぐ見て更に話を続けた。

 

「盗賊団の奴等は都市を護った功績でほとんどが釈放される事になった、でもアイツらは全員騎士団で戦う事を決めた」


 盗賊団達のその後についてを初めて聞かされる、なんでもボスが友である俺の為に戦ったを見て彼らも亡きボスの為に俺ひいては騎士団の為に戦うと決めたそうだ。


「誇れ、どんな形であろうともお前は……仲間を守ったんだ。それに逃したってんなら俺だって一緒だ、お前が使えねぇ奴だったら俺もそうなっちまうだろ」


 少し笑いながら彼は話す。

 これは彼なりの励ましなのだろうと、俺は直ぐに気付いた。


「まぁ完全に強制するなんて事は出来ねぇけどよ……ユウトが騎士団に残ってくれると俺は助かる。

とりあえず俺はもう帰る、じゃあな!」


 彼はそう言い残して俺から背を向けてその場から歩いて去っていく。

 しかし歩いている途中でふと立ち止まり彼の横にある木に向かって。


「はやくお前も話してこい」


 と一言だけ言いそのまま去っていった。


 ディーオンが去ってから少しして木の影から人影が現れた。

 多分俺が気付いていた病室から追ってきたのはこの人だろうと俺は気付いた。


 木の影から現れたのはレイナだった。


「レイナ……」


 彼女を見て俺は呟く、そして彼女は俺への距離を縮めきて俺の隣に立った。

 そこから少しの間静かな時間が流れる。

 互いに何を言えばいいのか分からずにいた、だから俺は……


「レイナ……昔の話を聞いてくれないか?」


 俺は口を開いて彼女に尋ねる、彼女は何も言わずに首を縦に動かして了解の意を出す。


 そして俺は昔の出来事、幼馴染の幸美が亡くなった時の事を語り始める。


 その間も彼女は静かに俺の話を聞きている。

 そしてひと通り話し終える。


「そんな事が……あったんですね」


 ひと通り聴き終わった彼女は悲しそうな声でそう述べた。

 彼女にこの過去を打ち明けた訳……それは。


「俺が正義の味方になりたかったのは、あの子に対しての罪滅ぼし……今まではそうだったんだ、でもちょっと前からそれが変わったんだ」


 以前までの俺は幸美に対しての罪悪感だけで正義の味方になろうとしていた。

 でも学園が襲撃された後、夢で彼女に許された……そんな気がした。そして夢から覚めた後俺はレイナや他のみんならから必要とされているんだと知ったんだ。


「今は自分のために正義の味方になろうと……そう思った、でもラードフに言われたんだ……『正義の味方になって何がしたい?』って、今でもそれは分からない……でも俺は1つだけ決めた事があるんだ。」


 俺は一息つき、覚悟を決める。これは正義の味方なる為に俺がしなきゃ行けない事、それは……


「俺は凶震戒を倒して、みんなが安心出来るようにする。

だから見ていてくれ」


 俺はレイナに、そして目の前のラードフが眠る石碑に向かって俺の新たな目標の宣言をかける。

 空を覆っていた灰色の雲が晴れていき、陽の光が俺を照らす。


 俺の新たな目標はどれだけ時間がかかるかなんて分からない、俺が帰れるというゲートが開いても達成出来るかなんてわからない。

 それでも!俺は今のこの世界の現状を変えたい、人が安全に生まれて、寿命まで幸せに生きれるようなそんな世界にしたい。

 その為にも俺はこのまま騎士団に残って俺の願う世界に邪魔な凶震戒を倒す。

 そして俺の決意を聞いたレイナは。


「そっか……ユートはそんな事まで考えてたんだね。うん、ユートなら出来るよきっと」


 俺の方を見て優しい表情で俺を肯定した。

 その顔は俺を照らす陽の光よりも眩しく感じられるほど綺麗だった。


「さて……とそれじゃあ俺は先輩達の方にも顔出してからデイの見舞いに行くけどレイナはどうする?」


 ラードフへの宣言が終わり俺は少し肩の荷が降りたようで体を伸ばしながらレイナに尋ねる。


「じゃあ私も一緒に行くよ」


 レイナは即答して俺達はアグン隊の先輩達の石碑へと向かう、新たな決意をその胸に……

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