【126話目】 戦いの終わり
ディーオンとシルドが戦闘を行っている最中パゼーレの外では1人の男が立っていた。
「これはヤバそうだな……」
男はパゼーレの外から2人の魔力の高まりから戦闘の状況を確認していた。
彼は凶震戒、十戒士が1人。
ブラッドハンドと呼ばれる男だった。
彼は仲間であるシルドがディーオンに押されていることを認識するとすぐに行動を起こす。
シルドの今の状況を予期していた彼の後ろには幾万もの矢が彼の魔法により宙を浮いていた。
「──いけ」
そして彼はその矢を全てパゼーレへと放ちパゼーレの空が矢により埋め尽くされた。
この攻撃によりパゼーレに重大な損害を与えられれば良し、この攻撃の隙にシルドが逃げれればなお良し。
どうなるかはシニガミ、ディーオンの実力次第だ。
「さてと、お手並み拝見ってところか」
優斗は見た──
最強の男、ディーオンの戦いを、自分では勝てなかった男をディーオンは圧倒的なまでの差で追い詰めていたところを。
そして2人の戦いが間も無く終わるだろうというその時にパゼーレの空を埋め尽くすほどの矢が降り注ぎ俺だけでなく2人も降り注ぐ矢に注意がいったところも。
そして降り注ぐ矢を見た老人は何かに気がついたのかすぐに行動に移した。
「それでは私はこれにてお暇させてもらいます」
老人はそう言いワープホールを展開する。
逃げる気だ。
「私を仕留めても構いませぬよ?ですが私みたいな老人よりも今はご自分達の都市の心配をした方が良いかと」
老人はそう言って俺達の注意を矢へと向ける。
そんな隙にも老人はワープホールをくぐる。
その様子を見た俺は老人が何をしようかということに気がついた。
「逃げる気だっ!!」
俺は老人に向かって叫ぶ。
「それではさらばです、最後に私の名を名乗りましょう。
私の名はシルド、凶震戒の十戒士が1人。
また御目見する時はこちらもそれ相応の対策を致しますので楽しみに待っていてくだされ」
シルドはワープホールに顔を残した状態で別れの言葉を告げて逃げようとする。
当然ディーオンも黙って逃す訳は無く、すぐさまシルドを殴りにかかる……がディーオンの拳は何も捉えられず、空を振った。
「くそっ!」
逃したことに対して悔しがるディーオン、しかしそんな余裕は今はない。
今現在パゼーレは無数の矢により危機に晒されている、このままだと今外にいる者は無事では済まない。
無論俺やディーオンだって例外じゃない。
矢から身を守ろうとどこか屋内へと避難しようと体を動かそうとする。
だが今までの戦闘により俺の体は既に限界を迎えて動かなくなっていた。
このままじゃ大量の矢の餌食だ……なんとか、なんとかしないと……
「大丈夫だ」
必死になって体を動かそうとする俺にディーオンが声をかけた。
「後は任せろ」
ディーオンは俺の前に堂々と立っており空から降ってくる矢達を見上げていた。
そして彼は魔性輪を取り出して指にはめた。
……えっ?
ディーオンが魔性輪をはめた姿を見て困惑する。
だって今それをはめるって事は……!
「──シンタイキョウカ」
ディーオンはそう呟く。
大量の魔力が辺り一面に広がり背筋がゾワゾワとする。
そしてディーオンは地上から飛び立つ。
その時の衝撃は凄まじく、後ろに壁がなかったらそのままディーオンが地面を蹴った際に出た風で吹き飛ばされるところだぅた。
飛行能力ではない、ただの純粋な跳躍だ。
そのただの跳躍が膨大な魔力を纏いながらパゼーレの空を駆け巡る。
ディーオンが通る場所の家屋は移動の余波により屋根の瓦が剥がれたり壁にヒビが入ったりしていた。
その魔力が通った場所に飛んでいたはずの矢は1つ残らず消えており、数を減らしていった。
そしてパゼーレの空にあったはずの大量の矢は消え、ディーオンが俺のいる場所に戻ってきた。
その手にはさっきまで空にあったであろう矢が折られながらも握られていた。
ディーオン1人により都市パゼーレの危機は去ったのだ。