【123話目】 さらにその先にあったもの……
目の前に広がる光景はとても無惨で残酷な現実、さっきまで俺と話していた騎士団の先輩達のその亡骸が散らばっていたのだ。
「あ、あ、あぁ……」
その光景を見て俺は自然と手が震えていた。
先輩達をこんな目にした怒りなのか、それとも相手に対しての恐怖なのか、それは今の俺には理解できなかった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛！゛！゛」
ただ俺が気が付いたら時には手にジン器を強く握り締め、地面を強く蹴り先輩達の仇である老人に斬りかかっていたのだ。
「おいユウト！！」
ラードフがそう叫ぶも俺の耳には届かず、俺は止まることをしなかった。
そして老人の目の前まで着きジン器を振り上げる、対する老人は余裕そうな表情を浮かべながら身動きしなかった。
俺はそのままジン器の短剣を振り下ろす、振り下ろした先は老人の体を捉えていた……はずだった。
老人の体を見ると傷がついていなかったのだ。
老人の体を捉えてそのまま振り切ったはずの短剣は老人の体を傷つける事がなかったのだ。
まるですり抜けたように……
俺が短剣を振り切りそう思考していた直後、頭部に強い衝撃を受け短剣を離してしまう。
俺の体はそのまま真横へと吹っ飛ばされる。
飛ばされる最中、俺は老人を見る。
老人は足を高く上げており、その足をゆっくりと下ろしているのが見えた。
どうやら俺はあの老人にカウンターで頭を蹴り飛ばされていたのだ。
「ユウト！クソッ！行くぞ！！」
俺が蹴り飛ばされたのを見た瞬間にバクトリが叫び、連れていた取り巻きと共に老人へと突っ込んだ。
ラードフは俺が蹴り飛ばされた事の衝撃のせいで少しバクトリ達から遅れをとっていた。
「──結界魔法コンディションルーム」
バクトリは老人へと接近するや否や自身の魔法である結界を自分の部下を巻き込みながら展開した。
この結界は中にいる者の魔法を封じる強力な結界である、たとえ相手がどれほど強い魔法の使い手であれ魔法を封じてしまえばバクトリの独壇場だ。
「結界魔法ですか、たいした人です」
けれども、俺は見てしまいバクトリへと手を伸ばした。
バクトリの結界に閉じ込められる寸前に黒い靄が宙に現れ結界が閉じ切った直前にその靄から剣が結界へと射出されたのを……
「バクトリ──！！」
俺は叫ぶ。しかしその声は届かず、剣は結界に到達しそのまま剣が結界を貫通していったのだ。
あの黒い靄は物を転移させるあの老人の魔法なのだとすぐに理解した。
剣が結界を貫通してすぐに結界が決壊する。
そして結界の中から出てきたのは、平然としている老人とそして……
剣が胸に突き刺さってるバクトリだった。
「がっ……はっ……」
バクトリの口から血を吐き膝から崩れ落ちた。
一瞬の出来事で状況が理解出来ずにバクトリの近くにいた盗賊団の団員は動きを止めてしまう。
その動きが止まった少しの間に老人はバクトリの目の前まで素早く移動し刺さってある剣を引き抜く。
そしてそのまま剣をバクトリの近くの団員の喉元に突き刺しそしてすぐに抜く。
「あっっ……」
団員の喉元から大量の血が溢れてそのまま倒れ2人の動きが止まる。
「……チャージ完了」
そんな中ラードフが動いていた。
いつの間にか老人の死角に移動しておりそのまま右腕での攻撃を行おうとしている。その右腕に相当量の魔力が集まっているのがわかる。
「…………やめろっラードフ！！」
俺の中の直感が危険を知らせていた。
だから俺はラードフに叫ぶ、だがしかし既に遅かったのだ。
ラードフはそのまま拳を老人に突き出す。
「なかなか威力です……」
高魔力のこめられた拳、まともに受けたらただでは済まない威力だ、だがしかし……
「ですが当たらなければどうという事もありません」
ラードフの拳は老人の前に出ていた物を転移させる黒い靄の中に入っていたのだ。
「ぐわぁあぁあぁあぁぁ！！」
突然ラードフが絶叫して黒い靄から右腕を引っ込める。
俺はラードフの右腕を見て絶句した。
ラードフの右腕は原型を留めず黒く焦げていたのだ。
ラードフの右腕はまるで溶岩を浴びたシノンの体のようだった。
「ラードフ！！」
ラードフの痛ましい姿を見て叫び、俺はラードフの助けへ向かいに走った。
俺の声に反応したのかラードフはこちらを見て俺の方へ足を動かす。
「ユウト……俺、まだ死にたくねぇよ……」
涙を流しながら弱々しく俺へと向かって来ているラードフ、だけどラードフの後ろでは老人が再び黒い靄を展開して剣を持っていた。
嫌な予感がした。
その嫌な予感はあっていた……ラードフの首元に老人の黒い靄が現れる。
そして老人は剣を黒い靄を横方向に斬ろうとするかのように振り上げる。
その瞬間、老人がなにをするのかを察してしまった。
「ラードフ！避けろぉぉ！！」
叫ぶ、しかし無情にも老人は剣を靄に向い振るった。
そしてラードフの首元にあった靄から老人の剣が現れてラードフの首を掻っ切る。
時間がゆっくりと動いているみたいだった。
俺はその場で倒れるラードフを受け止めようと身を投げ出す、しかし俺は間に合わずラードフは地面に倒れる。
「ラードフ！ラードフ！！」
ラードフの元へ着いた俺はラードフを抱きかかえ、ラードフに必死になり何度も呼びかける。
しかしラードフからの返事はない、彼の呼吸も止まり次第に体温が下がっていくのがわかる。
ラードフは、死んだのだ。
俺の中で何がひび割れた音が聞こえた。
「さて、後残るのはあなただけですか。さっきのと合わせて悪運が強いですね」
シルドはユウトを格下だと判断して余裕を持ちながら話しかける。
「ここまで生き残ったあなたには死に方を選ばせてあげますよ」
「あなたを守った人と同じように溶岩に包まれて死にますか？」
シルドはシノンを指差す。
「それともそこの人のように毒で苦しまずに死にますか？」
今度はカムエルを指差して言う。
「それともあの女性のように半身だけドラゴンの巣に送られて喰われたいですか？それともこの方のように怒りに身を任せた時に首を斬り落とされたいですか？」
そしてイーリシャ、アグンを指差す。
しかしユウトはシルドの言葉が耳には入ってきてはいなかった。
その時のユウトの中にはある感情が芽生えていた。
それは今までの人生で感じた事のない感情、今後自分とは無関係だと思っていた感情。
「それとも──」
シルドが更に言葉を発しようとした瞬間、シルドのすぐ横の地面が斬れ後ろの家屋が真っ二つに割れる。
その攻撃はユウトから発せられたもの、ユウトのジン器も使わないただ一つの感情で生み出された一撃は今までユウトがジン器を通して放った技のどれよりも強かった。
ユウトが新たに感じた感情、敵意のさらにその先にあったものそれは……
「お前を……ぶっ殺すっ！」
明確な殺意だった。
