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やさしい異世界転移   作者: みなと
パゼーレ魔法騎士団
123/244

【122話目】 その先にあったもの……

 俺はラディアンへのトドメを刺すためを手を止めてくれたシノンさんを見ていた。

 おそらくここに来るまでも戦闘を行った事がわかるくらいシノンさんは息が上がり傷がいくつも見られた。

 シノンさんはゆっくりと俺の手を下ろしながら手を離す。


「シノンさん……俺、おれ……」


 シノンさんの顔を見て力が抜け膝から崩れ落ち弱くシノンさんに何かを言おうとする俺。

 しかし言葉がうまく出ずただ狼狽えている俺の肩にシノンさんの手が乗っかる。


「お前はそんなになるまで戦わなくていい、だからもう大丈夫だ」


 シノンさんはそう言ってくれた。

 そんなになるまで……それは体のことなのかそれとも……

 そんな事を考えていた時、シノンさんの後ろから何人もの凶震戒の連中が襲ってくるのが見えた。


「シノンさん──!」


 俺は彼に危険を知らせようと叫ぶ。

 しかし次の瞬間には凶震戒の連中は倒れて行った。


「大丈夫か?ユウト」


 そしてそこに立っていたのは……

 

「み、みなさん!!」


 アグン、イーリシャ、カムエル、俺が所属しているアグン中隊のその隊員達だった。


「なんで……ここに?」


 中隊のみんながいる事に驚きながらも俺は尋ねた。

 俺の問いかけに答えてくれたのは俺の近くにいたシノンさんだった。


 シノンさんの話によれば凶震戒からの襲撃があってすぐにアグン中隊も戦闘に参戦したらしく、その際俺とラディアンとの戦闘に気付きそのまま俺の方へ来て今に至るという感じだった。


「そうだったんですか」


 話を聞いた俺は立ち上がりながらシノンさんへ声をかける。


「あぁそしたらお前が十戒士候補を倒していたんだ、よくやったな」


 褒めるようにシノンさんは言い、俺の頭を撫でてくれた。

 シノンさんの大きくて暖かい手に俺は安心を覚えていた。


「よしっ!それじゃあコイツを拘束するぞ」


 シノンさんはそう言って意識を失って倒れているラディアンを拘束しようと近付いた。

 その時だった



「それは困りますね、一応ソイツは連れて帰らないといけないので」


 何処かしらか声が聞こえ、ラディアンが倒れている地面が黒くなりラディアンを包みそしてラディアンの姿が消えた。


「なっ──」


 いきなりの事で動揺する俺に続けて、何かが上にあるのか地面が影で覆われる、そして空気が熱くなった。


「お前ら逃げろっ!!」


 後ろからアグンさんが大声で注意を促した。

 空を見上げた、空には赤く煮えたぎった全てを溶かす液体、溶岩がゆっくりと俺達へと降り注いできていたのだ。


 それを見たアグンさんを初めとしたイーリシャさんやカムエルさんがその場を離れた。

 俺もすぐに離れようとした……が。


「──ッッ!!」


 脚に激痛が走る。

 ラディアンとの戦闘で無茶をした反動が今になってきていたのだ。


 まずい……このままじゃ俺は……

 俺はゆっくりと落ちてくる溶岩をただ絶望しながら見ることしかできなかった。

 しかしそんな中、俺の手が何かに掴まれた感触がした。


 俺はそれがなんなのかを確認する前に足が地面から離れて動いていた。

 何が起こった?と俺は宙に浮いている最中掴まれている感触のある手の先を見ていた。


 そこにあったのは……俺の手を掴んでまだ溶岩の下にいるシノンさんだった。

 シノンさんは俺の手を離す。

 いや、どちらかといえば投げ飛ばしたという表現が正しいだろう。


 シノンさんは俺を溶岩が降ってくる場所から離れたところに俺を投げ飛ばしていたのだ。

 投げ飛ばされる瞬間にシノンさんの声が俺の耳に入る。


「……よかった、今度は助けられた」

 

 シノンさんは俺に向かい笑いかける。


「死ぬなよ……ユウト──」


 その言葉が聞こえ、俺は溶岩が降ってこない地面へ着く。

 そしてすぐにまだ溶岩が降ってくる場所にいたシノンさんの方を見た。


 そこには既に溶岩が降っており、シノンさんの姿は見えなかった。

 溶岩が消える、何処かへ流れていくようにけれどそこには残っていたものは……

 黒く焼け焦げた人の形をした肉の残骸だった。


 誰の?状況が理解出来なかった俺は一瞬だけそう疑問を浮かべた。


 けれどそんな疑問はすぐに解消される、周りに俺を投げ飛ばしたはずのシノンさんの姿が無く、そして中隊の人達が……


「クソッ……シノンが……」


「そんな……シノン……さんっ」


 周りの人達が絶望の表情を浮かべ嘆く。

 

「あ、ああ、あぁぁぁぁぁぁぁ──」


 そして俺も事実に気付く、シノンさんは俺を助けるためにその命を落としたのだ。


「1人だけですか、まぁいいでしょう」


 シノンさんが死んだ事実を突きつけられた直後に男の声が聞こえる。

 それはマグマが降ってくる直前に聞こえて来た声だった。


 俺達はその声の方を向く。


 そこにいたは1人の老人。

 白髪で黒いコートを身に纏い糸目の男だった。

 その男が現れた瞬間に俺達はさっきの溶岩がコイツの仕業だと理解する。


「お前がシノンさんを……許さねぇ……!」


 シノンさんを殺した男を目の前にし怒りを露わにする俺、しかし俺の行手を阻むように手を出される。

 手を出して俺をその場に立ち止まらせている人物はアグンさんだった。


「ユウト、お前は一旦退け」


 アグンそんは俺に向かってそう言い放つ。

 理解が出来なかった、シノンさんを殺した男、ソイツを目の前にしてどうして退けるのだろうかと。



「さっきのお前の動きからさっきの戦いで体力を消耗しすぎたようだな、だからお前は一旦下がって応援を呼んでこい」


 実質戦力外通告だった。

 しかし俺はそんな事認める事が出来なかった。


「俺は!まだやれます!!」


 俺はアグンさんに対して食い下がる。

 そしてアグンさんは口を開けて。


「お前が!消耗してなかったら!!シノンは死んでなかっただろうが!!」


 俺を怒鳴りつけた、あぁこれは事実だ。

 俺が弱くてあんな所で動けなかったかシノンさんは俺を庇って死んだのだ。

 その言葉を聞いて俺は反論する事が出来なかった。


「……言い過ぎた、でもあの男は相当に強い。だから1人でも多く援軍に呼んでくれ」


 怒鳴った後、アグンさんは優しい口調で俺に頼む、それだけアグンさんはあの男を危険視しているという事なのだろう。

 俺は彼の言葉を否定することは出来ず。


「……わかりました、一時戦線を離脱します」


 一旦この場から退くことにしたのだ。

 しかし不可解なのはあの当然現れた男、俺達が話している最中全く攻撃を仕掛けてくる気配がない。


 そんな疑問を抱えながらその場から離れようとする。

 俺は離れる直前にみんなに向かって。


「我がアグン隊の勝利を信じてます、ご武運を!」


 そう3人に告げて俺はその場から去っていった。


 優斗が去った後、ついに老人が動き出す。


「今生の別れは済みましたか?」


 男は余裕そうに振る舞う、まるで優斗が退くのを待っていたかのような口ぶりだった。


「今生の別れ?そうはならねぇよ」


 老人に対してアグンはそう吐き捨てる。


「お前は俺達が倒すんだからな!!」


 アグン達は人器を取り出して目の前の老人との戦闘へと移った。



 俺は走る、アグンさんから出された命令である援軍を探してパゼーレを走り回る。

 アグンさん達から離れてもう数分は経ち、俺は遠くまで走って来ていたのだ。


 ふとよぎる、アグンさん達の安否。

 いや大丈夫だと、あの人達が真正面から戦えばあの老人になんか負けるはずかないと不安に押しつぶされそうになる心臓を落ち着かせる。


 その時俺の後ろから複数人の凶震戒の下っ端何襲いかかってくる。

 俺は武器を手にして応戦しようとする。

 しかし……


「おら退けぇぇ!!」


 凶震戒の連中はたった1人によって薙ぎ払われる。俺はその凶震戒の連中を薙ぎ払った人物の声に聞き覚えがあった。

 そしてその人物は俺の方を向き目の前にまで来た。


 その人物は……


「おう!ユウトじゃねぇか!!」


「なっ……バクトリ!?」


 その男は俺が以前倒して捕まえたはずのバクトリだった。

 俺はバクトリだとわかった瞬間に武器を構えた。

 この男は盗賊団のリーダー、以前は大人しく捕まったが今ここにいるという事は牢から脱しているという事。

 何をしてくるかわからない男に警戒心を抱く。

 しかしその警戒心はすぐに解ける事となった。


「待て待てユウト!」


 またしても聞き覚えのある声が聞こえた。

 俺はその方向を振り返ると、1人の男に肩を貸されながら歩くラードフの姿があった。


 なんでラードフがバクトリ達と一緒に?とその場を見た俺は混乱する。


「コイツら、どうやらお前に貸しがあるみたいで共闘してくれるみたいなんだ」


 俺が困惑しているのに気付いたラードフはこの状況の説明をしてくれた。

 その言葉を聞いた俺はバクトリの方を向く。


「貸し……?」


 俺はこの男を捕まえた男だ、貸しのようなものを作った覚えはないのだが……


「あぁ!お前との戦い楽しかったぜ!今回はそのお礼だ!!」


 バクトリはそう堂々と語る。

 その顔に一切の怪しさはなく真っ直ぐな顔だった。


 何はともあれ盗賊団達がこちら側に加わってくれるというなら心強い。

 それにバクトリは強い、援軍としては頼もしい人物だ。


「わかった、ならこっちだ!今俺の先輩達が戦っているんだ!!」


 俺はバクトリ達と共にアグンさん達が老人と戦闘を行っているはずの場所へ向かおうとする。


「わかったぜ!!」


 バクトリはそんな俺の言葉にそう返してついて来てくれるようだ。 

 俺達はアグンさん達と別れた場所まで戻ろうとする。


 その間俺はラードフの様子がおかしかったので彼に聞いてみた。


「お前どうした?なんでそのにもに支えられながら走ってんだ?」


 俺と合流してからラードフは知らない男の人に肩を支えられていた。

 その事が俺は気がかりだったのだ。


「あぁこれか?まぁ代償制約って言ってな、ちょっと目が悪くなっただけだ心配すんな」


 陽気な感じでラードフは答える、しかし俺の目にはラードフが強がってるようにしか見えなかったのだ。

 そう思っているとアグンさん達が戦闘を行ってる場所付近にまで着く。


 大丈夫だ俺もさっきと比べたらだいぶ回復した動ける、バクトリだって強い、なんなら俺が着いてる頃にはもうアグンさん達があの男を倒しているはずだ。

 だから……心の奥底にある嫌な予感……頼むから消えてくれ。


 胸を押さえつけながらついに俺達はアグンさん達と別れた場所に着く。 

 そしてその先にあったものは……

 

 壁に血塗れで倒れかけているカムエルさん

 

 何故か下半身のないイーリシャさん


 そして……


「おや随分とお早いおかえりでしてね。ですがまぁもう手遅れですけどね」


 シノンさんを殺した老人は元気そうになさ立っておりその片手には……

 首だけになったアグン隊長の姿があった。

一応これにてやさしい異世界転移 の今年の更新ラストになります

来年も頑張ってまいりますのでどうか応援よろしくお願いします!!

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