【121話目】 神掌破
俺はラディアン、凶震戒に対して怒りを露わにした。
コイツらは倒さなきゃいけない。
決心を胸に立ち上がる。
「ん?まだやる気かぁ?まっどうせ無駄やろうけどな!」
そう言いラディアンは球体から出した壁を前にしてこちらへと突進してくる。
どうやら俺を押し潰そうとしているのだろう。
しかし次の瞬間にはラディアンの視界から優斗およびラディアンが殺害した女性の亡骸が消える。
「なっ!ど、どこだ!?」
いきなり姿を消した事に対し、ラディアンは動揺する。
「ここだ」
ラディアンの問いに対する答えが返って来たのはラディアンの後ろからだった。
ラディアンは後ろへと振り返る。
そこにいたのはさっきまで自分の目の前にいたはずの男が女の亡骸をゆっくりと地面に降ろしている光景だった。
この男が自分の目の前から後ろへ移動する姿をラディアンは目視できなかったのだ。
「──ッッ!!」
優斗の素早さにラディアンの足は少しだけ優斗から離れるように動く。
「どうした来ないのか?ならこっちからいくぞ」
短剣一本を片手に俺は突っ込んだ。
「!?……だが向かってくるなら好都合!」
ラディアンはそう言葉を発しながら球体から再び破片を飛ばしてくる。
無数に迫る破片、先程同様数が多い……
でもなんでだろう?今なら……いける気がする。
迫り来る破片を短剣たった一本で撃ち落とす。
目が手が破片一つ一つに反応してほぼ無意識に動いているのがわかる。
気が付いた時には俺は破片を全て叩き落とし前へ進んでいたのだ。
「ひっ……なんだよお前ぇ!!」
更に多くの破片が俺に向かって放たれる。
流石にこの数を1人で捌くのは難しいな……
「撃ち落とせ」
だから俺は命令を出す。
命令を出した相手はそう、俺の残りのジン器にだ。
命令を出した瞬間には短剣2本が物凄い速さで来ては俺を過ぎて俺へと向かってくる破片を飛び回り俺が通る道をつくる。
そして再びラディアンへと接近する、しかしどうしたものか短剣だけの攻撃ではコイツのガードを破る事は出来ない。
もっと強い攻撃を……あの時のような攻撃を
意識を集中させる。
この男を守る厄介な魔法を打ち砕き、直接攻撃をして倒す。
その為にはあの時のアレが必要だ。
集中する、たった今ラディアンから飛んできた破片が俺の持ってたジン器に当たり手から離れたとしても止まらずにラディアンへと踏み込む。
それを見たラディアンは恐ろしいものでも見るかのような目をしているのと同時に俺から武器を奪った事で余裕が少しばかり生まれていた。
ジン器を手放した手を強く握り締め振り上げ拳をラディアンへと突き出す。
たかだかジン器でもなんでも無い素手、それではこの球体は破られない……時のたかを括っているラディアン。
しかし優斗の拳がラディアンの球体に当たる瞬間に優斗は一つの事を確信する……
──勝った。
白き光を発して拳は球体へ直撃しそしていとも簡単に貫きラディアンへと到達した。
「──神掌破」
無意識のうちに出た単語、それは感情が昂り魔力が高まった時に出せる技。
これを使った瞬間に優斗は強さの壁を一つ破ったのだ。
神掌破はラディアンへ到達し彼の腹部へと直撃してラディアンへ後方へ吹き飛んで行った。
「追いついた」
ラディアンは後ろの家屋の壁をさっきの俺以上に破壊して飛び広場のような場所で意識を失って倒れていた。
俺はラディアンの上へ立ち、短剣を握り締めラディアンへと刃先を向けた。
「俺が……ここで……」
俺はラディアンの命を奪おうとしていた。
パゼーレをここまで滅茶苦茶にし未来ある人の命を奪ったこの男に罪を償わせようとしていた。
しかし手がそれ以上動かない、手が震えて上手く狙いが定まらない。
俺は今もなお人の命を奪う事を躊躇っていたのだ。
こんなにも酷い事をした人間を俺はまだ見捨てる事ができなかった……
でもやらなきゃ、俺が……俺が……
そうして俺は短剣をラディアンへと振り下ろそうとした瞬間、何かに手が掴まれて動かなくなっていた。
俺は手を掴んでるものの正体を見ようと後ろを振り返る、そこには……
「そんなになるくらいなら、無理はするな」
そこにいたのは騎士団での俺と同じアグン隊のシノンさんだった。